イノセント 59 司つく
夕闇が迫る頃___つくしは立ち上がり服を着替えた。
部屋の電気を消し、バルコニーに出る。火災用に備え付けられている避難ロープを探した。
カチャリッ、身体に器具を嵌める。用意が出来た頃には夕闇色の空は、漆黒色に姿を変えていた。
つくしは、バルコニーから階下を見る。ブルッと一瞬脚がすくんだが躊躇いを捨て、シュルシュルと地面に降りた。
パタパタと汚れをはらい、ホテルを出てからタクシーを拾った。運転手に雅哉に聞いた店の名前を告げる。
時折車の中に差し込むネオンの光が血の気のひいたつくしの顔を照らし出している。
*-*-*-*-*-
「末永く宜しくお願い致しますわ」
司にしては珍しく、女の言葉にうっすらと笑みを浮かべている。歓談を終え店を出る頃には、外の景色はすっかり暗闇を纏っていた。
司は、笑みを浮かべなから、美しい女をエスコートして店を出て来た。
その姿を物陰から覗く影が一つ。
パリン
パリンッ
パリン
壊れていく粉々に
パリン
パリンッ
パリン
音を立て。
車が走り去ったあと__影が地面と同化するように小さく踞った。小さくなった影の人物は、目の前で見た光景にやっぱりそうだったのかと打ちのめされて堪えていた言葉を洩らす。
「あたし……どこに行けばいいんだろう…..」
フラフラと歩き出した瞬間、後ろからきた誰かにグイッと肩を掴まれる。振り向けば
「やっぱり、見に来たんだね」
優し気に笑みを浮かべて雅哉が立っていた。つくしをグイッと自分の手元に引き寄せて、スゥーーッと横付けにされた車に押し込めた。
どこに向っているのかさえ、皆目見当もつかない空間に押し込められているのにも関わらず__つくしは何故か安堵していた。
「つくしちゃん__会いたかった…………」
雅哉が何かを話しながら、つくしの指を絡めとっている。
「千里には騙されて婚約しただけなんだ__つくしちゃんさえ付いて来て来るならこのまま二人でどこか違う所で暮らそう」
つくしの指先を絡めとった雅哉の指先が、つくしの白い手首をなで回す。つくしの心は、何か感じる事を拒否した様にどこか遠くを彷徨っている。
「つくしちゃん、コレ」
雅哉からペットボトルを手渡されて呑む様に促される。促されるままつくしは、ゴクッゴクッとペットボトルに入った水を口にする。
20分ほどした頃、涙を流し続けていたつくしの双眼は閉じられていた。雅哉は愛おし気に眦の涙を指で掬う。10分ほどしてつくしを抱きかかえるようにして車から降りて、用意していた車に乗り換えた。
つくしを助手席に寝かせてからつくしの身体から装飾品を外して車を運転していた男に処分するように手渡した。
パタンッ ドアを閉め車を走らせる。
雅哉もまた狂気に向って走り始めていた。
RRRRRR RRRRR
「滋、さっきからどうしたの?」
「うーん、つくしが電話に出ないんだよね」
「っん?道明寺社長と一緒なんだろう?」
周防の言葉に滋は首を振り
「ううんっ、司ならサンスクリットの女社長との商談からまだ帰ってない筈なのよね」
「あぁ、道明寺HDが極秘裏に進めていた提携話か」
「えぇ、大河原の方からさっき報告が上がってきたから__」
「あぁ、そうか……あそこの女社長、黒髪の華奢な女の子が好きだからつくしさんは連れて行かないか」
「でしょ? つくしが暇してるならならディナーでもって思ったんだけど……」
「時間も時間だし食事にでも行ってるんじゃないのか?」
「この時間に? 私達にも嫉妬してる司が出すわけない気がするのよね……」
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