baroque 53
心の中に
flamme
赤々と炎が
flamme
燃えさかる
初釜の後、新年を祝うパーティーが開かれる。
「つくしちゃん、こっちこっち」
東雲夫人から呼ばれて振り向けば、隣りには海老原夫人達とともに亭主を勤めた男が立っていた。
海老原夫人が微笑みを浮かべながら
「こちら、今日のご亭主の西門流次期家元ので西門総二郎さん。総二郎さん、こちらジュエルグループのお嬢様で筒井つくしさん」
「筒井様のお嬢様でいらっしゃったんです……ね」
「あらっ、総二郎さんは、つくしさんのことご存知で?あぁ、そう言えば__総二郎さんもつくしさん英徳でしたっけ?」
海老原夫人が、驚きながら総二郎に問い返えば
「えぇ、ゼミの専攻が一緒でして__何度かお見かけしたとこが……」
真っ白な歯を覗かせて爽やかに笑う。
「そう言えば、つくしさんは、こちらでの茶道はどなたにご師事を受けていらっしゃるの?」
海老原夫人に聞かれ
「……普段は、養母に手習いを受けておりますので、特にこちらでご師事を頂くことはないのですが__」
「あらっ、それならつくしさんもこちらでは、西門流にご師事を受けられたいいわ。こちらの方は西門流にお世話になってる方が多いのよ。あっ、それに、英徳に通われていらっしゃるなら是非そうされたほうが宜しいかと思いますわ」
海老原夫人に賛同するように東雲夫人も微笑む。
「是非、一度ご一緒しましょう」
そう二人に言われ、頷く形になっていた。
宴も終盤にさしかかる頃……化粧室から戻って来る廊下で
「つくしさんっ」
イタズラ気に呼ぶ総二郎が後ろから近づいて来た。
「こんな所で会うなんて……驚いた」
耳元でそう囁やいた後、辺りを見回してからペロリとつくしの耳朶を舐めた。
「……総っ」
総二郎は、つくしの慌てぶりにクスッと笑ったあと。
「……会いたかった」
言葉を洩らす。
つくしは逡巡したあと、コクンと小さく首を縦に振る。
「今晩、会えるか?」
総二郎の言葉に、もう一度コクンと小さく頷いた。
総二郎の顔が嬉しそうに破顔する。
嬉しそうな顔を見た瞬間__ズキンッと心が痛み、それと共にドクンッと胸が高鳴った。
「あとで連絡するね」
耳元にそう囁いて、つくしは部屋の中に入っていった。
誕生日以来__音沙汰がなかった薫のことを、つくしは虚仮にしていたのかもしれない。
*-*-*-*-*-*
「つくしちゃん、またね」
「今日はありがとうございました」
東雲夫人に見送られマンションに戻った。
指紋を翳し部屋に入った瞬間__違和感を感じる。
つくしは、首を傾げながら草履を脱ぎ部屋に入った。
カチャッ
リビングのドアを開ければ、
「つくし、お帰り」
カウチに腰掛け優雅に脚を組みながら薫が待っていた。
つくしの白い喉が上下して声にならない声を呑み込んだ。
薫の瞳がつくしを見つめる。


ありがとうございます♪
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