イノセント 63 司つく
足を動かす度にジャラジャラと鎖の音がする。
繋がれている事への恐怖感がつくしを襲う。
爪を噛みながら思案に暮れた後、立ち上がり歩いてみる。
一歩
二歩
三歩…………
あと少しでドアに届く所で、鎖はピーンと張りそれ以上は動けない。反対側に向い丸窓から外を見れば真っ暗な海を進んでいる。
海は嫌い。怖い。
嫌い。怖い。
逃げ出せないと理性では解っているのに、つくしの本能が逃げ出そうともがく。
足首から抜けないかとガチャガチャと。つくしの白い足首に血が滲んでいる。
カチャッ
ドアが開き、優しく微笑む雅哉が立っていた。
「つくしちゃん……だめじゃないか。そんなに無理矢理引っ張ったら__ほらっ血が滲んじゃってるよ」
雅哉がつくしの足許に踞り、赤く血が滲んだ傷口をペロリッと舐めた。
「ィヤッ」
慌てて足を引っ込めるつくしに。
「どうして嫌がるの?」
優しく笑う。明らかに異常さを感じる光景なのにも関わらず_その笑顔があまりにも昔と違わない笑顔で……つくしは目を見開いた。
雅哉の手から逃れるように後退る。つくしが歩を進める度にジャラン、ジャランと音が鳴る。その音がつくしの恐怖を煽る。
ゆっくりとゆっくりと後退る。
ガタッ
サイドテーブルにぶつかる
「つくしちゃんは、ドジだな〜 ホラッ」
雅哉が笑顔で手を差し伸べる。つくしは小刻みに首を振る。恐怖で唇が青ざめる。
ゴクリッ
「夫婦は、労り合わなきゃいけないんだよ。遠慮しないでどんな小さな事でも俺を頼って。ホラッ」
つくしの目の前に雅哉の長くて、ほんの少し筋張った指が差し伸べられる。
「つくしちゃんは、人に頼るのが苦手だよね」
そう言いながら両手がつくしの目の前に差し出される。
這う這うの体でつくしは、自力で立上がる。
ジャランッ ジャランッ と音が鳴る。
「ま、ま、雅哉さん」
「フフッ、でもコレからはずっと二人きりだから……なんでも頼って」
つくしは、首を振る。
嫌っ、嫌っ、嫌っ と口から声が漏れれば
「大丈夫。二人で幸せになろう」
激しく激しく首を振りながら
「雅哉さん___あたし、あたし、あなたと一緒には」
つくしの言葉を遮る様に
「君をずっと見て来たんだ。道明寺のことは君と俺のきっかけだから、だから、妬けちゃうけど許してあげるよ。昔の事をつい思い出しちゃったんだろ?でも、つくしちゃんは俺のものだから。これからは離さないよ」
一方通行に発せられる雅哉の言葉に、つくしの言葉は殻回る。
「雅哉さん、ち、ち、千里ちゃんと、こ、こ、婚約したんでしょ」
「……全部、全部、あの女に騙されただけなんだ。あの女、つくしちゃんの香りを付けて___俺は、俺は罠にかけられたんだ。だから気にしないで……いいから。俺の心は、君と出会ったあの日から君だけに夢中だからね。 それに__君だって俺を守って道明寺に抱かれただけなんだろう?」
ゴクリッ つくしの喉が鳴る。
「大丈夫だよ。俺は、あいつと違って君を無理矢理自分のものになんてしないよ。先ずは、別荘についたら結婚式をしよう。本当は沢山の人につくしちゃんの綺麗な姿を見せたかったけど……仕方ないよね。それもこれもあの女と道明寺のせいだ」
「…違う、違う、違う」
「違わないよ。あの男が邪魔をした…..あの日の続きなんだから」
「ど、ど、道明寺と あ、あ、会ったのは、あ、あ、あの日じゃない。その後よ」
「あの日__俺とつくしちゃんを見てた道明寺が裏から手を回したんだよ……あいつ、君を虫けらのように捨ててNYに行った癖して」
「……偶然じゃなかったって…..こと?」
「あぁ、北原社長からこの前、偶然聞いてね。あっ、北原社長の事は覚えてるよね? あの日、道明寺は北原社長と一緒にいたらしいんだ」
「北原社長と?」
「あぁ、あの日、つくしちゃんに俺の素性を明かした日。あの日、本当はつくしちゃんからも高校時代の事聞きたかったんだけどね」
「……高校時代?高校時代って」
「っん?あの事件まで英徳に居たんだよね?」
ゴクリッ 喉がなる。
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