イノセント 65 司つく
司の目にクルーザーが見えてくる。
あの船につくしが乗っている。司の心は逸りながら船を待つ。物陰に隠れながらつくしを待つ。
大粒の雨が司の身体を激しく濡らして行く。
心がつくしを愛おしい、愛おしいと叫んでいる。
滑稽な程につくしを愛し求めている。
雅哉が出て行った部屋でつくしは、足枷を取ろうと必死にもがいている。ジャラジャラと音が鳴る。
つくしの足許にキラリッ 銀色の金属が光り輝く
雅哉は、つくしとの未来を思い浮かべて幸せな気分で舵を取る。___雅哉の瞳に人影が映る。
「なんで__あの男が」
船は、着岸する時に一番の危険が訪れる。
雅哉の心が揺れた瞬間、
風浪が、うねりが、突風が、舵を取る判断が鈍りクルーザーが転覆した。
ガタンッ 船が揺れる、
ぐらりっ、つくしの身体が揺れたのと足枷が外れたのは丁度同じ時だった。
視界が一気に暗転する。身体に何かがぶつかる。
ゴギッ と鈍い音がして身体に激痛が走る。
ブクブクブクブクッ……
冷たくて暗い水の中につくしの身体が沈んでいく。
ブクブクブクブクッ……
身体を打ちつけた痛さと、息が出来ない苦しさと様々な痛みがつくしを襲う。
意識が薄れていく____
刹那
つくしの脳裏に愛する人の顔が浮かぶ。
死への恐怖よりも____
愛するものへの恋慕が勝る。
もう一度、もう一度…….会いた…か…た
ブクブクブクブクッ……
会いたかった 会いたかった 会いたかった
つくしの身体が暗い暗い水底に沈んで行く。
ブクブクブクブクッ……
着岸を待つ司の目の前で
風が波がうねりが船を襲う。大きな波が船を呑み込んだ。
まるで映画の一コマを見る様に船が大きく横転したあとにブクブクと沈んで行く。
「….牧野っ……」
愛するものの名前を呼びながら、司はシャツを脱ぎ捨て荒れ狂う海に飛び込んだ。
荒れ狂う海に抗う様に死にもの狂いで泳ぐ。つくしが海の底に沈む姿が目に飛び込んで来る。ぐったりとするつくしの身体を横から抱き抱え浮上する。
ただただただただ失いたくないその一心で、……つくしを抱き抱えながら陸地を目指す。
岸辺から投げられた浮き輪とロープに掴まる事が出来たのは、司が力尽きそうになる寸前だった。
「ハァッハァッ、ハァッ、」
荒い息を吐きながらも、つくしへの人工呼吸を試みる。
スゥッスゥッハァッーーー
スゥッスゥッハァッーーー
幾度も幾度も繰り返す。
生きてくれ、生きてくれ、生きてくれ
ただ願いを込める。
「ケポッ」
つくしの白い唇から息が戻った瞬間……
司は、信じてなどいなかった神にただただ感謝する。
降ろされたホイストでつくしと共にヘリに乗りこんだ。
ホンファの部下に助けられた雅哉がその光景を立ち竦んだまま見つめていた。その姿はあまりにも美しく
「ぅおぉをーーーーーうぉーーー」
崩れるように膝をつき身体を震わせて慟哭する。
バタバタバタバタッ
ヘリが飛び去って行く。
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