イノセント 68 司つく
つくしが目覚めずにひと月ほどたった。
柔らかな時間が過ぎていく。
どうしてもつくしの隣りで行えない会議の時以外は、司は側に居る。
その会議とて同じ邸の中に作らせたミーティングルームで行っている。会議の時は、滋がつくしを見守る。
あの日__いつも通り周防にくっ付いてやってきた滋がつくしが目覚めるまで自分も近くにいさせて欲しいと懇願したのだ。
「あのさぁ、司が会議の時だけでもつくしと一緒に居させてもらえないかな?ほらっ、私なら気心しれてるから司も安心でしょ」
「……有り難いけど、そこまでお前が責任感じる必要なんてねぇぞ」
滋はニッコリ笑って
「そうでもしないと、司につくし貸して貰えないしね__お願い」
周防を見れば優しくコクンと頷き
「お邪魔虫かもしれないけど__私からもどうかお願い出来ないかな。あっ、滋さん__ちょっとお茶淹れてきてくれるかな?」
「あっ、うん」
パタンッ
ドアが閉まってかっきり10秒後__周防は口を開く。
「本気でお願い出来ないかな?」
「そんな__申し訳ない」
「違うんだ。彼女と結婚するにあたってね、私と滋さんの間で幾つか約束を交わしたんだ」
「やく…そ…く?」
「あぁ、周防の両親は勿論、滋さんの両親も知らない事なんだけどね」
周防は、優しく一つ頷いてから
「道明寺さんとつくしさんの二人の幸せを見れない限り子供は作りたくないって__」
司は、周防の顔を見る。
「滋が?なんで、そこまで__」
「あぁ、私自身も最初はなんでそこまで?って思ったよ。それとも態の良い断りなのかなって?でも違った。それに、不思議な事に……彼女を形作っていたのは、つくしさんと道明寺さん二人への思慕と贖罪だったんだよね」
「俺と牧野への……」
「……道明寺さん、君への縁談、無理強いされたことなかっただろう?」
「……あぁ…」
つくしに危害を加えた婚約者とその前に2人ほどしか縁談自体はやって来なかった。それすらも楓に指示されたことではなく、司自体が道明寺HDに欠かせないと判断し持ち込んだものだ。
「これは、プロポーズの返事の時に聞いた事なんだけどね……滋さんが楓会長に直談判して約束を取り付けたらしいんだ。大河原は将来自分が背負って立つ。何があろうとも道明寺財閥と友好関係を築いていくから、司の縁談は無理強いしないでくれと。まぁ、逆にそうで無ければ道明寺との契約は自分の代には打ち切ると啖呵を切ったらしいよ__だから私にもそのつもりで居てくれと」
周防が可笑しそうに笑う。
「もしも__もしも__俺等二人が結ばれなかったら?」
「うんっ? もしかして跡取りの事? それとも事業の事? ははっ、それは別に大したことじゃないよ」
大したことないと笑う周防を見る
「滋さんが居てくれれば、それだけで幸せだし__後のことはオマケみたいなものだから。周防はそれくらいじゃ揺るがないし、私は才能あるからね。 それよりも……それを聞いてより惚れちゃった方が問題かな……彼女の憂いを振り払えるならなんでもしてあげたい。......だからお願いだ。押しつけかもしれないけど、何か少しでも手助けをさせてくれないか?」
ここにも一つ……真っ直ぐで純粋な愛がある。
司は、ゆっくりとゆっくりと頭を下げ礼を述べる。
「ありがとう」
周防は首を振り
「こちらこそ__無理を言ってしまって申し訳ない」
お互いに頭を下げ合っていた所にノックもさせずに滋がお茶をもって戻って来る。
「あらっ、米つきバッタ合戦?」
ケラケラと笑う。
滋の眦にキラリと雫が光っている。
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