イノセント 69 司つく
天上の調べが聞こえる。
甘く蕩けそうな声が唄を奏でている。
暖かな温もりがつくしを包む。
幸せな温もり。
いつまでもこの温もりに抱かれていたい。
深く深くつくしは、眠る。
眠りを揺り動かすように柔らかな風が頬にあたる。
「おっ、きょ…は、かおい…がい…な」
バリトンの声がしてふわりと優しく包まれる。
誰だろう?
もしかして__道明寺?
うふふっ、バリトンの声は似てるけど
そんなワケないよね。
だって、あたしはあなたの慰みものなのだから。
もう一度あなたに会いたい。
でも、怖くて怖くてたまらない。
夢の中のあなたは、あたしに愛を語ってくれるから。
ココは暖かで幸せだ。
あなたを失ったらあたしは壊れてしまうから。
だから__あたしは眠り続ける。
幸せな夢に逃げ込んでも
いいよね……?
「なぁ、茶柱…立……ん…ぞ。ビッ…リ…よな。タマ……縁…がい…からっ…送ってく…たん…ぞ」
タマ? あぁ、タマせ、んぱい?
元気かなぁーーーー
「茶飲んで、幸せな気持ちになるなんてお得だよな。お前こういうの好きだろう?なぁ」
ふぅーーん お得なんだ。
夢を見る。
愛してる男の夢を見る。
「つ…し、 そ…そろ、お…な。司が……るよ」
優しくあたしの髪をなでながら語る声がする。
この声は__滋さん?
待ってるって?道明寺が?
誰を? あたしを?
時折聞こえて来る声は、あたしに都合のよい夢を見させてくれる。
目覚めて現実を知りたくないと願う。
*-*-*-*-*
周防グループとWongグループとの仕事も次の段階に進む。どうしても現地を見て欲しいと懇願され司は重い腰を持ち上げた。
「いつもワリイな。なるべく早くは戻るつもりだけど__今日はこの邸から出なきゃいけない。なんかあったら直ぐに帰ってくるから__宜しく頼むな」
滋は首を振り
「何言ってるの。周防グループの仕事でもあるんだよ。 逆に無理言って視察なんて入れちゃってゴメンねだよ」
「いやっ、周防社長には随分と押し付けてる。足向けて寝られないほどな」
人を人として見た事のなかった司の言葉とは思えないほどに謙虚な言葉が紡がれる。
「ははっ」
滋の目が弧を描く。
「うんっ?」
「司はさぁ、本当につくしが居ないとダメなんだなぁって。つくしの記憶が消えてからの司って、有能だけど__なんかなぁーだったじゃない? それがさぁ、今じゃ心ある経営者って奴だもんね」
「あぁ__そうだな。俺にはコイツが必要だ」
眠るつくしの顔に視線を向けて柔らかく微笑む。
「うんっ。やっぱり司はカッコいいねー。 まぁ、周防の次だけどね」
司と滋は目を見合わせて微笑み合う。
「じゃぁ、宜しく頼む」
司が部屋を出て一時間ほど経った頃
トントンッ
ドアをノックする音が聞こえた。
「はーーい。どうぞ」
カチャリッ
「……おば様?」
「滋さん、お久しぶりね」
目の前の女性の口角がほんの少し上に上がり次の言葉を紡ぎ出す。
「滋さん……お願いがあるんだけど」
「あっ…はい...なんでしょうか」
訝しがりながら返事をする。
「……牧野さんと少し二人で話しをさせて貰えるかしら?」
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