イノセント 70 司つく
パタンッ
静かにドアが閉められて滋が部屋を出て行く音がする。開け放たれた窓から風が吹き、パタパタとシフォンのカーテンを揺らしている。
椅子を引き楓は、つくしの隣りに腰掛ける。
「こんな姿であなたに会うなんて……皮肉よね。ねぇ、牧野さん、私に啖呵を切った貴方はどうなさったの?もう一度あの勇姿をお見せなさい」
そんな言葉を皮切りに
「ずっと、お待ちしていたのよ__いつ私の前にもう一度来て下さるかって。私ね、嘘つきにはなりたくないの。あなたと約束した事はきちんと守りたいと思っているのよ」
つくしの手を握り言葉を繋げる。
「司を幸せにしてくださるんじゃなかったの?」
パタパタとはためくカーテンを見つめた後、つくしの方を向き直り立上がる。
「牧野さん、約束をきちんと守りなさい。でなければあなたは嘘つきよ。さぁ、早く目を覚ましなさい」
楓の眦にはキラリと涙が光る。
つくしの耳に言葉が聞こえる。
「約束をきちんと守りなさい」
「あなたは、嘘つきよ」
つくしを咎める声が聞こえ、そして
「早く目を覚ましなさい」
最後の言葉と共に、握られた掌にポツンッと涙があたる。
合図のように
ピクンッ
ピクンッ
ピクンッ
つくしの瞼が微かに動き__薄らと目が開く。
「滋さん、滋さん、来て頂戴」
枕元の呼び鈴を押しながら楓が大きな声を出す。廊下を駆ける騒がしい音がして滋がやって来る。
「おば様__なにかありました?」
「ま、ま、牧野さんの瞳が」
「えっ」
滋がつくしを見れば、ゆっくりとゆっくりとつくしが目を開ける。
「……つ、つ、つくし」
滋の大きく見開かれた瞳から涙が流れ落ちていく。
「…げ………ん?」
「あ、あ、あ、慌てなくていいから、ねっ、ねっ。 今__司に、司に、連絡するから」
テゥルッ
ワンコールで電話が取られスマホの向こうからは慌てた声がする。
「ど、どうした。な、なんかあったか」
「ぁっ、あっ、あっ、あのね、あのね」
滋の泣き声に司は慌てる
「牧野に、牧野に、なんかあったのか?お願いだ落ち着いてくれ」
滋は見えない相手に首を振りながら
「違う、違う__あのね、あのね、つくしのつくしの意識が戻ったの」
司は、スマホを持ったまま慌てて走り車に乗り込む。
逸る気持ちを抑え__つくしの元に向う。
パタンッ
大きく扉を開き中に入る。
「牧野が目覚めたって本当か?」
「ぅうんっ。お医者様が今迄見て下さってた所。もう、大丈夫だって スンッ…ッスン。今は、またちょっと眠ってるけど__もう平気だから。ぅぅぅぅっ 良かった……良か…た」
後から追い掛けてきた周防が滋の肩を抱きしめて部屋をそっと出て行く。
部屋の中には、司とつくしの二人が残される。司はベッドの縁に腰掛けてつくしの髪をひと撫でした。
「ったくな、お前__散々俺と居たのに態々居ないときなんだもんなぁ」
瞳が弧を描く。眦に優しく皺が寄る。
「ぅぅんっ」
つくしの口から寝息が零れる。
極上の音律を聴く様に寝息を耳にする。司の身体に安堵と眠気が訪れる。つくしを抱き締め司は眠る。
スゥーーースゥッーーー
スゥーーースゥッーーー
二人の寝息が重なり合う。
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