イノセント 71 司つく
つくしは、再び目を覚ます。
暖かい吐息を、人の温もりを感じながら目を覚ます。
目を開ければ愛おしい人が自分を優しく抱きしめている。心がふんわりと優しく包まれる。つくしの顔に笑顔が広がっていく。 司が目を覚まし、つくしと視線が重なった。
「牧野、牧野、牧野か?」
慌てる司の声音が可笑しくて、つくしは思わずクスリと笑って
「き、こ…てる」
「あっ、ごめんっ」
司は、ゆっくりと起き上がって、つくしに優しく微笑みかける。そこにあったのは懐かしい笑顔でつくしは、ほんの少し小首を傾げながら
「…道…明…寺……な…の?」
つくしの問いに司は、首を縦に振ってから
「あぁ、そうだ」
「ホントに、ホントに、道明寺なの__あ、あ、会いた__かっ...た」
泣きじゃくるつくしを抱き締める。
つくしの涙が落ち着いた頃____心痛な面持ちで
「俺、俺__お前を無理矢理……ゴメンな。ゴメンな」
「……許さないよ」
「だよな」
「うん。だから、だから、道明寺、もうどこにも行かないで。ずっと傍に居て」
「それでいいのか?許してくれるのか?」
コクンとつくしが微笑んだ。
これが、自分であって自分じゃない道明寺に向けられた笑顔だと解っていても__歓喜が訪れる。
チクリッ
司の胸には、頷いた事への後悔の針が突き刺さる。
だけど、彼女を失いたくなくて___嘘を吐く。
つくしが目覚めてからも片時も司はつくしのもとを離れない。
「…仕事は?」
そう聞けば
「そんなものは、ココで何とでもなるから大丈夫だ」
司には、見せた事もない笑顔でつくしは笑い
「道明寺、あたし、昼間一人でも平気だよ。仕事行って」
司は、慌てて首を振り
「まだ、ダメだ。お前の足も本調子じゃないだろ。それにココでも仕事は出来るって言ってんだろ……それとも、傍に居られるといやか?」
つくしは、首を振り
「道明寺が一緒に居てくれて__嫌なんてワケないよ__って、あたし随分恥ずかしい事…いってるよね」
耳まで赤く染め上げながら___恥ずかし気に笑顔の花を咲かせる。
チクリッ 心が痛む。
今夜こそは今夜こそは__記憶が戻っていない事を伝えようと思うのに___
この笑顔を失いたくなくて何も言えずに口ごもる。
「そうそう、道明寺__昼間ね滋さんと話してたんだけどね__ホンファ社長達と一緒に鍋やろうって」
つくしの口から優しく道明寺の名前を呼ばれる度に
チクリッ
司の心が痛む。
その度に大きく笑い顔を浮かべながら自分を隠す。
「熱いのに鍋か?」
「熱いから鍋が良いんだって。それもね__ぷぷっ、貧乏鍋がいいんだって」
「__貧乏な…べ?」
「あっ、うん。貧乏鍋」
「そうか。じゃぁ、もう少し体力が戻ったら皆でやろうな」
「あっ、うん。そろそろ、足のリハビリもしなきゃだしね」
「そうだな__」
「うん。早く日本にも帰りたいし」
「あぁ、そうだな……なぁ、牧野」
「うんっ?」
今日こそは、全てを告白しようと思っていたのに
「あっ、うん。滋って言えば、周防社長がな___」
今が幸せであればあるほどに決心がつかずに口ごもってしまう。
生きて傍に居てくれたらそれだけでいいと願った筈なのに___愛されなくてもいいと思った筈なのに___愛は、貪欲に愛するものから愛されることを願ってしまう。
愛は、人を臆病者にする。
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