イノセント 72 司つく
「道明寺__?」
つくしが司の顔を心配そうに覗き込み
「どうした?なんかあった?」
司は柔らかく笑い
「お前と一緒に居れて、すげぇー幸せだなって」
「えっ」
つくしの頬が赤らみ__司の胸にそっと顔を埋める。司がギュッとつくしを抱き締める。
「風呂入るか?」
「うん」
司は、つくしを抱き上げてバスルームに連れて行く。最初は恥ずかしがっていたつくしだが、司がつくしの事を人任せにするのを嫌がるので、今は大人しく身を任せている。
司は優しく髪を洗い、身体を洗う。
「ほらっ、しっかり肩迄浸かれ」
上半身だけ服を脱ぎつくしをお風呂に入れる。
「介護士さんみたい」
つくしは微笑みながら司の優しさを受け取る。
お風呂から上がろうとすれば
「無茶すんなっ」
そう言いながら司は、つくしにバスローブを羽織らせて、ヒョイっとつくしを抱き上げる。 まるで宝物を扱うように大事に大事に抱き上げる。
夜は子猫のように司に抱き締められながら、他愛もないことを話し眠りにつく。
「今日のデザートうまかったか?」
「うん。なんで?」
「お前の食いっぷりがいつもに増して良かったからさ」
「食いっぷりって……乙女に向けて言う言葉じゃないよ」
「乙女って、図々しくねぇか?」
「えぇーーーっ」
そこには、ありのままの自分を曝け出して昔に戻ったつくしがいる。
屈託なく笑う姿が可愛くて、愛おしくて、司は、ギュッとつくしを抱き締める。
「……道明寺」
大人になったつくしは、ほんの少し上目遣いになりながら司を誘う。
なのに__司は、それに気が付かないふりをする。
彼女が求めているのは自分でなく道明寺だと思っているから。愛を失うのが怖くて手を出せないでいる。
スゥッーー スゥッーー
暗闇につくしの寝息が規則正し聞こえる頃__昂る思いを沈めるために、ベッドを抜け出して全身に冷たいシャワーを浴びに行く。
「ふぅっーー」
鏡に滑稽な自分が映っている。
「ふぅっーー」
もう一つの溜め息がベッドの中から小さく聞こえる。
寝たふりをして、司が起き上がる音に耳を澄ませていたつくしの溜め息だ。
「抱いて欲しい」
そう言葉に出せずに口ごもっている。
カチャリッ
バスルームのドアが開く。
つくしは慌てて目を閉じて眠ったふりをする。司がつくしを抱きかかえ眠りにつく。
お互いがお互いを求めているのに__失いたくなくて欲望を曝け出せないでいる。
眠れぬ夜を過ごす二人にもいつしか眠りが訪れる。
朝の光と小鳥の囀りに起こされる。
「おはよう」
「おはよう」
目が覚めて二人でおはようの挨拶と笑顔を交わし合う。
なんて幸せな事なのだろう……
幸せで幸せで……切ないほどに幸せで今日もまた何も言えない自分を思い浮かべてしまう。
「道明…寺?」
司がどこか遠くを見ているようでつくしは不安になって名前を呼んだ。
「…っん?どうした」
「あっ、うんっ___お腹、うん、お腹すいた」
「ったぁくっ、起きた早々か? ククッ、直ぐに用意させるな。昨日みたいにテラスで食うか?」
「うんっ」
変わらぬ笑顔に安堵してつくしは、勢いよく返事をする。
愛に臆病な二人は、ほんの少しだけすれ違う。
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