イノセント 73 司つく
「つくし~」
滋とホンファの声がして司が軽く眉を顰める。その様が可笑しいと後から来た周防が笑う。
つくしが目覚めてからよく見られる光景だ。
「ドウミョウジ、心配しないで__ラブラブな二人の邪魔をするほど飢えてないから」
ウィンクをしながらホンファがイタズラ気に笑う。
「……でも、つくしがその気なら私は何時でもつくしを受け入れてよ」
ホンファがつくしに向き直り優しく微笑する。
「ホンファ、それ以上 牧野に近づくな! った、お前等__揃いも揃って毎日、毎日、そんな暇か?」
憎まれ口を叩きながらも、滋に、周防に、ホンファに感謝してもしきれないほどの恩を感じている。
つくしの傍にこうして居られるのも、この三人のお陰なのだと心から感じているのだ。
「あぁ、怖い怖い。 日本では、バカップルって言ったかしら?うふふっ、一日一回その様子を見ないとテンション上がらないから。ねっ、滋__って、滋もスオーとバカップルだったわ。うーーん私も早くバカップルになれる相手を見つけろってことね。うーん」
悩まし気に眉間に皺を寄せれば、つくしが笑う。つくしの笑顔に連なるように皆の顔に花が咲く。
実はつくし、ホンファに初めて会った時、警戒心バリバリだった。なのに、ホンファは、一目見てつくしを気に入って抱きつこうとした。直ぐさま司に首根っこを掴まえられていたけれど……
言葉で説明するよりも何よりも解りやすい説明で、つくしの杞憂は晴れた。
Wongグループの孫娘で同性愛者のホンファ__友人と呼べる友人に恵まれず人生を過ごして来た。なのに、不思議な事につくしを真ん中にすると滋や周防、そして司がかけがえのない友人に変化を遂げていこうとしているのだ。
〝不思議な子〟知れば知るほどホンファがつくしに抱く印象だ。
格段美しいわけでもない。格段聡明なわけでもない。なのに、特別なのだ。彼女からは、何ものにも染められず何ものにも屈しない魂の強さを感じるのだ。
始めの頃、ホンファはつくしを拉致した雅哉を許す司や滋達の行動が理解出来なかった。易きに流れたのだろうと勝手に判断をしていた。
現に雅哉の事を隠蔽する。そのお陰で毛受も新和もWongグループに有利な条件で契約をする事を提示して来たのだから。
それを踏まえた上でのWong会長の司への後押しだと思っていたくらいだ。
〝ふぅっーー、お爺様は流石にWongを纏めている器だって事ね〟
ホンファが司に口にした通り、Wong会長は義に熱い人間だったのだ。 一人の人間として司とつくしに興味を抱き、出来うるならば大切な孫娘の未来を心を照らす友人になって欲しいと願ったのだ。
ここにも一つの愛がある。
少しだけ開けられた窓から風が吹き、ふわりとシフォンのカーテンが揺れる。
「っと、っと、司、今日はつくしを借りるからね」
「ちゃんと時間守れよ」
「「 はーい 」」
クスクス笑いながら、ホンファと滋が返事をした。
司は、つくしを抱きかかえ車椅子に移し替える。
「くうぐれも無理するんじゃないぞ。解ったか?」
「滋さんも、ホンファさんもいるんだから大丈夫だって」
「だから、危ないんだろうが」
司の言葉に、滋とホンファは両手を挙げながら
「はいはいっ。お任せ下さ~い」
司から車椅子を奪い取り片手でシッシッと司を追い払う。
「ったく__滋もホンファもマジ頼むぞ」
「はいはい。ったく、嫉妬深いのも大概にしないとだよね~ ねっ、つくしっ。 ダーリン、司のお守りよろしくね~ じゃぁ、行ってきまーす」
「お守りって、なんだ、お守りって」
賑やかな笑いが巻き起こる。
次回更新は15日になります♪
明日はホワイトデースペシャルで、~君へと続く物語~シャンパーニュは永遠に/deシリーズを更新予定になります
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