イノセント 74 司つく
「で、で、で、司の事で相談ってなに?」
バナナの皮に盛られたブリヤニライスにフィッシュ・ヘッド・カレーをかけながら、滋がつくしに聞いて来る。
「うーーん。ま、ま、先ずはカレーを食べてから。あっ、ホンファさんあたしに何か話しがあるって言ってたけど」
「ぁあ、うーーん、それこそ私の話しは、カレーを食べてからがいいかな」
「あらあらっ、二人とも歯切れが悪いんだ。 あっ、コレ美味しいね~」
「あらっ、本当」
「うん。美味しい」
滋が美しい動作で口を拭った後、つくしとホンファの顔を交互に見ながら
「で、食事終わりましたけど?どちらから話す?」
ホンファとつくし、二人で譲り合う。
「じゃぁ、ジャンケンで」
「じゃ、ジャンケン?」
「うんっ、ほらっ、譲り合ってたら終わらないしね」
チェンドルと呼ばれるかき氷を頬張りながら滋が指示を出す。
ジャンケンに負けたホンファがティーを口にしながら怖ず怖ずと一枚の封書を差し出した。
「あのね….これっ、つくしに」
「あた…し……に?」
白い封筒を受け取り中を開く。ふわりと甘い香りが漂った。
つくしの瞳が文字を追う。
ホンファに滋が小声で
「誰から?」
そう聞いている。
ホンファが少し困ったように
「マイタチサト__モウズの孫娘で__シンドウの婚約者」
「えっ? そ、それってちょっ、ちょっ」
テーブルの上のグラスがガタンッと揺れた。
ホンファは、首を振り
「中を確かめさせてもらってるから大丈夫」
真っ白な便箋には
つくしさん
ごめんなさい。本当に本当にごめんなさい__そんな文字から言葉が始まっていた。
雅哉の記憶の片隅にもないが__千里が雅哉に初めて出会ったのは、千里が四つの時だった。毛受家のパーティーで迷子になって泣いていた千里に優しく笑いかけて両親の元まで一緒にいってくれたのが雅哉だったのだと。千里にとってそれが初恋だった。それからすぐに両親に付き添いフランスに行った事。それでも千里の心の中には、幼き日に恋した王子様が住んでいた。大学を卒業し日本に帰ってきて真っ先にしたのは、初恋の王子様を探す事だった。
彼女が見つけた彼は___嬉しい事に、自分と似た環境で育ち自分と同じように建築を専攻していた。千里は運命だと感じた。ただ彼は、一人の女性をこよなく愛していた。それがつくしだったのだと。
千里は、つくしの事を調べいつしかつくしに、つくしの作品に千里自身も惹かれていったこと。雅哉とつくしの恋が成就するのならば見守ろう。そう心に誓った。
そんな時つくしが、昔の恋人である道明寺社長の元で働き出したと知り、何も知らない雅哉を不憫に感じ、つくしを許せなくなり、つくしの持つ全てのものを奪うと心に誓ったのだと書かれている。
祖父に頼み雅哉との縁談を持ち掛けてもらったのだと。それが雅哉をより追い詰める結果になるなんて思わなかった。浅はかだったと。
でも、ただ、ただ、雅哉が欲しかったのだと。
婚約者として雅哉がきちんと立ち直るまで、ゆっくりと雅哉の心に寄り添っていこうと決めたと。
雅哉が立ち直った時には、婚約は千里から解消すると決めていると。
頁を捲る。
ゆっくりと心に寄り添おうと決めてから、つくしに初めて出会った時のこと、再び巡り逢えた奇跡。願いが叶って付き合える事になったこと、そして__あの日の事をポツリポツリと話してくれる様になったと書かれていた。
あの日、司がつくしを助け出すのを見た雅哉は、二人の姿があまりにも美しく、初めて見た時の様に衝撃が走り__端から自分の出る幕などなかったと言う事に、その時初めて気が付いたのだと語ってくれたと。
最後の便箋には
つくしさんの事を幸せそうに話す雅哉さんを見て、あぁ、この人は本当につくしさんの事が好きだったんだなと感じました。だからどうぞお願いです。雅哉さんがつくしさんにした事は、許される事ではないと解っています。ですが__どうかどうか雅哉さんのつくしさんに対する恋心だけは、厭わないであげて下さい
そう書かれていた。
つくしは、便箋を閉じ涙を流した。
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