イノセント 76 司つく
天井のファンがカタカタと音を立てながら回っている。窓越しにはアスファルトからゆらゆらとした陽炎が上がっているのが見える。
つくしは、ぼんやりとその光景を眺めながら、外は今日も、うだるような暑さなんだろうな……そんなどうでもい事を考えていた。
黙り混むつくしはお構い無しとばかりに
「でもさぁ、皆の話しを追憶してあの日の純粋な気持ちを取り戻したんだから、ある意味凄いよね」
「あらっ、追憶する前からじゃないの?つくしへの愛は」
「愛はね__でもね、その時は、こんな風につくしを外に連れ出すなんてダメなくらい偏執だったからさ~」
「おぉ、嫉妬心だけ丸出しなんだ」
「そうそう。まぁ、でもいつも嫉妬の塊みたいな男だったからさぁ、ちょっと行き過ぎ?とは思うものの、格段ヘンだとは思わなかったんだけどねー」
「じゃぁ、結局は記憶は戻らずじまい?」
「……うん。そうみたい___だから、細かい事になるとまだ知らないこといっぱいだもんね。ねっ、つくし」
突然話しを振られたつくしは、しどろもどろになりながら
「あっ__うん。ハハッ__だからかぁ、貧乏鍋知らなかったんだ」
語尾を擦れさせ小さく笑った。滋はその微笑みを受け取って
「うんっ。でもさぁ、司は凄いよ。記憶を失ってもなんでもつくしを好きになっちゃうんだもん」
「そうそう、オオサコが言ってたけど、ドウミョウジがうちとの契約を熱望したのもつくしのためだったみたいね」
「あっ、やっぱりそうだったんだ~ 随分と畑違いの新規開拓だとは思ってたのよね。うふふっ、でも結果として道明寺HDもより大きくなれるしね。まぁ、つくしはさ、司にとって今も昔も原動力ってとこなんだろうね。うふふっ、うちの周防が私に首ったけなのと一緒でね」
「あらあらっ、これはご馳走様」
ホンファはティを口にしながら滋をからかった。その時、つつくしの口から
「ねぇ、滋さん__道明寺の記憶が戻ってないって……」
「えっ?今そこ?って、記憶戻ってないって、えっ?えっ?つくし、司の記憶が戻ったと思ってたワケじゃやないよね?」
「……思って…た…」
「えっ?マジ……司は、なんて?」
「……最初に、あんまり優しい瞳であたしを見つめてるから、道明寺って聞いちゃったの。会えて嬉しいって……そしたら頷くから……」
「あちゃぁーーー」
そう叫んだあと、滋が額を押さえた。
「ねぇ、ねぇ、それはなんのアチャァーー」
ホンファが聞けば滋が
「わかんないけど__なんかあちゃぁーーだよね」
トホホッとばかりに答える。ホンファは首を捻ったあと
「うーん、じゃぁさ、じゃぁさ、ドウミョウジがつくしに手出さないのは、それが原因なんじゃないの?」
「あぁ、そうか。じゃぁ、つくしのお悩みは解決ってことだね」
ビックリしたようにつくしが二人を交互に見つめ
「…なんで、それが原因? なんで、それで解決?」
「__司がつくしに迫らない理由が解ったから」
「理由?」
つくしが首を捻れば、滋が真顔になって
「__あのね、それだけつくしを愛してるってこと……あのさぁ、つくしは記憶がない司の事は愛せない?」
「記憶のない司?」
「うん。今の司ってこと」
つくしは首を振り
「愛し……てるよ」
「じゃぁ、全部解決。司の悩みもつくしの悩みも……さぁっ、そうと決まれば買い物行くよ!」
滋はそう言うと、大きな笑顔で元気いっぱいにつくしの座った車椅子を押し出した。
おぉー無事解決?
♥ありがとうございます。とっても嬉しいです♥
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