Anecdote 〜きみにむチュ~編〜 byきぃ

進がスクランブル交差点で呆然と胴上げされている頃、騒ぎを知らない父晴男と母千恵子は、二人仲良く銭湯に来ていた。
「なんだか騒々しいね。」
「そうね?ま、私たちには関係ないわよ。」
「そうだな。じゃ、30分後にここで。」
~30分後~
全身熱いお湯に浸かり、すっきりとした面持ちで、頭から湯気をあげながら丁度待ち合わせ場所の銭湯の暖簾前に到着した二人を待ち構えていたのは…
パシャッパシャッパシャッ
眼が眩むほどのフラッシュとシャッター音に包まれ、たくさんのビデオカメラが二人を撮影していた。
一体なに…!?
わけもわからず呆然と立ち尽くす2人。
そんな2人をお構いなしに、詰めかけた報道陣が取り囲んだ。
「おめでとうございます!ご両親から何か娘さんにコメント下さい。」
「先程の動画を御覧になった感想は?」
「現代のシンデレラと言われることをどう思われますか?」
突然の取材と驚くほどの報道陣の数に眩暈がしそうな二人。
矢継ぎ早にたくさんの質問が二人に飛ぶが、肝心の何があったのか知らない二人にはチンプンカンプン。
せっかく銭湯に入って汗を流したばかりだというのに、既に体中からイヤな汗が噴き出てきている。
「あのぉ…一体何があったんですか?」
まさかの千恵子の質問に、そこに押し寄せていた報道陣はまるで珍獣でも見るかの如く驚いた。
ええッ!?
こぞって二人にタブレット端末で動画を見せよう合戦が始まり、その場で即席上映会がスタートした。
静まり返る周囲
タブレットから漏れ聞こえる二人の会話
動画を見ている間も、報道陣は二人の様子を見逃さないよう注視していた。
うっうっうっとすすり泣く声が静まり返った周囲に響く。
あー。感動して涙を流しているのだろう…。
誰もがそう感じとり、親の愛に胸打たれたその瞬間、
その場に雄たけびが響き渡った
「「やった~!」」
え!?
「「ばんざ~い!」」
えぇえぇぇ~!?!?
「「きみにむチュ~」」
なんじゃそれ!?!?!?
2人の喜び小躍りする姿と、このギャグのようなコメントは、それから数日ワイドショーで繰り返し流れた。
*******
「ちょっとパパ、ママ、なんなのよあれ!」
「ねぇちゃんもだろ~!!もう俺外歩けないよ
(;つД`)」
*******
この晴男のオヤジギャグである『君にむチュウ』がこの年の流行語大賞にノミネートされる事を晴男は密かに期待していた。
しかし、世の中そんなに甘くない。ノミネートすらされる事もなかった。
しょげている晴男を何とかしたくて、司は悪魔の囁きをした。
「来年俺が何とかしましょうか?」
「え♡」
「ちょっと司!ズルの提案なんて止めて!そんな事したら絶交だからね。
だいたい来年なんて世間は忘れてるわよ!」
「だったらマジに流行らせればいいんだろ?」
「そりゃまぁそうなんだけど、誰も使わないわよ。」
「俺がこう、一言囁けば一発だ。」
「おまえに夢中♡」
晴男がいる事などすっかり忘れてイチャつく司とつくしに当てられ、おまえに夢中♡じゃないよ!きみにむチュ~だよぉ!!なんて心の中で突っ込みを入れながら晴男はこっそり立ち去った。
もちろん決め台詞を忘れずに
「きみにむチュ~!」
thank you♪

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