おとなの掟 〜滅びの呪文〜
真っ白な、真っ白な美しい羽が天井から舞い落ちてくる
ゴシゴシと目を擦る。
___もう一度目を擦る。
「__し、_くし、つくし、どうしたの?」
「あっ、あぁ」
世界にいつも通りの情景が戻って来る。
なんでもない風を装いながらあたしは首を振る。
「もしかして酔っ払った?」
「ハハッ、そうか__も」
真っ白な羽が天井から降って来たなんて誰に言っても信じて貰えなどしないから口を噤んだ。
マズイ__
あたし、酔っ払ってる?
「ねぇねぇ、この後どうする?」
「あっ、うん__」
時計を見れば、もうじき11時だ。
そろそろ?
まだ早い?
でも、これ以上酔ったらマズイよね?
逡巡しながらグラスを傾ける。
カランコロンッ
琥珀色の液体の中で氷の音が鳴っている。
「うーん。ちょっと酔っ払ったみたいだから、今日はもうヤメておくよ」
「了解。って、一人で大丈夫?」
「うんっ ありがとう」
真理子にお金を渡して店を出る。
階段を上がり地上に出れば、煌びやかなネオンの光に包まれる。
火照った頬に冷たい風が通り抜けていく
「気持ちいい……」
コートのポケットの中で、カタカタとスマホが揺れた。履歴を見れば__
メール 28通
電話 22件
留守電 15件
他の人が見たら、この履歴の数は狂っているのかもしれない。いや、多分狂っているのだろう。なのに___あたしは、彼の執着が嬉しくて堪らない。
「ふふっ」
髪の毛を掻き上げながら渇いた笑いを片頬にのせる。
二つ先の角で待っている彼を見つける。
真っ暗な闇夜に、真っ白な吐息を吐きながら立っている。
真っ白な吐息は吐かれる度に暗闇に消えていく。
綺麗だな__素直にそう思う。
好き。愛してる。口に出せない言葉を吞み込み、気が付かない振りをして前を通り過ぎる。
一瞬、彼の顔に翳りが浮かぶ。
「つくしっ」
くぐもった声で名前を呼ぶ声がして、あたしの手首を指先が掴む。
「痛いっ」
そう声を上げれば、ハッとした顔で謝りながらも手を放そうとしない薄茶の瞳と出会う。
思いが零れそうになって慌てて目を逸らし小さな声で呟く
「人が見てるから__手、放して」
「嫌だ」
駄々を捏ねる子供のような素直な言葉をのせるあなたが愛おしいのに___
あたしは、あなたの手を振りほどく事に躍起になる。
痺れを切らしたあなたは、あたしの手を掴まんだまま車に押し込める。
「ハァッーー、なんでこんな所まで来るかな」
「__連絡がつかなかったから……」
「連絡がつないって__約束もしてないのに連絡なんてつかないよ? それに、あたしが何しようが関係ないよね?あたしだって付き合いがあるんだから、もうこう言うのヤメテくれないかな」
心を抉るような鋭い言葉で傷つける。
なのに、類は柔らかく微笑んで全てを包み込むようにあたしの指に指を絡める。
触れ合った指先から温もりが伝わって来て__あたしの理性を狂わせる。
「俺が嫌い?俺なんて欲しくない」
類の問いに何も応えられないのに___
好きとも
欲しいとも
なにも言えずに
あたしの本能は、類を求め指を這わせる。
*-*-*-*-*
毎週末__決まり事のように彼女のもとを訪れる。
10時を過ぎる頃、彼女の元に、電話を、メールを打つ。
少し考えれば、避けられているだけだと解るのに電話に出ない彼女が心配で堪らなくて、狂ったように何度も何度もタップする。
狂ったように?
いや
間違いなく狂っているのだろう
「ハハッ」
自虐的に一つ笑ったあとに過るのは
だったら出会わなかった方が良かった?
そんな思い。
否、首を振る……
出会えたからこそ幸せも不幸せも感じられるのだから。
目の前を愛おしい彼女が通り過ぎていく。
愛する者の名を呼び、手首を掴む。
「痛いっ」
つくしの尖った声がする。
幾つかのやり取りの後、待たせておいた車に彼女を押し込める。
つくしの細く白い指を絡めとる。
頑に好きだと、欲しいと言わないつくしに
「俺が嫌い?俺なんて欲しくない」
そう問えば__暗闇に白い指が蠢く。
絡み付いた指先から、つくしの言葉を聞こえる。
好きだ。欲しいと。
思い上がり?
否、思い上がりなどでなく彼女の全身がそう伝えて来る。
ねぇ、つくし
愛を怖がるあんたに俺は、何を伝えたらいいのだろう?
ねぇ、つくし
あんたの抱えてるその思い___手放してみるって言うのはどう?
闇夜が消えたら、俺はあんたの心に巣食う恐れという感情に滅びの呪文をかけるよ。
そして
真っ白な、真っ白な二人になって
愛を築いていこう。
ねっ
ゴシゴシと目を擦る。
___もう一度目を擦る。
「__し、_くし、つくし、どうしたの?」
「あっ、あぁ」
世界にいつも通りの情景が戻って来る。
なんでもない風を装いながらあたしは首を振る。
「もしかして酔っ払った?」
「ハハッ、そうか__も」
真っ白な羽が天井から降って来たなんて誰に言っても信じて貰えなどしないから口を噤んだ。
マズイ__
あたし、酔っ払ってる?
「ねぇねぇ、この後どうする?」
「あっ、うん__」
時計を見れば、もうじき11時だ。
そろそろ?
まだ早い?
でも、これ以上酔ったらマズイよね?
逡巡しながらグラスを傾ける。
カランコロンッ
琥珀色の液体の中で氷の音が鳴っている。
「うーん。ちょっと酔っ払ったみたいだから、今日はもうヤメておくよ」
「了解。って、一人で大丈夫?」
「うんっ ありがとう」
真理子にお金を渡して店を出る。
階段を上がり地上に出れば、煌びやかなネオンの光に包まれる。
火照った頬に冷たい風が通り抜けていく
「気持ちいい……」
コートのポケットの中で、カタカタとスマホが揺れた。履歴を見れば__
メール 28通
電話 22件
留守電 15件
他の人が見たら、この履歴の数は狂っているのかもしれない。いや、多分狂っているのだろう。なのに___あたしは、彼の執着が嬉しくて堪らない。
「ふふっ」
髪の毛を掻き上げながら渇いた笑いを片頬にのせる。
二つ先の角で待っている彼を見つける。
真っ暗な闇夜に、真っ白な吐息を吐きながら立っている。
真っ白な吐息は吐かれる度に暗闇に消えていく。
綺麗だな__素直にそう思う。
好き。愛してる。口に出せない言葉を吞み込み、気が付かない振りをして前を通り過ぎる。
一瞬、彼の顔に翳りが浮かぶ。
「つくしっ」
くぐもった声で名前を呼ぶ声がして、あたしの手首を指先が掴む。
「痛いっ」
そう声を上げれば、ハッとした顔で謝りながらも手を放そうとしない薄茶の瞳と出会う。
思いが零れそうになって慌てて目を逸らし小さな声で呟く
「人が見てるから__手、放して」
「嫌だ」
駄々を捏ねる子供のような素直な言葉をのせるあなたが愛おしいのに___
あたしは、あなたの手を振りほどく事に躍起になる。
痺れを切らしたあなたは、あたしの手を掴まんだまま車に押し込める。
「ハァッーー、なんでこんな所まで来るかな」
「__連絡がつかなかったから……」
「連絡がつないって__約束もしてないのに連絡なんてつかないよ? それに、あたしが何しようが関係ないよね?あたしだって付き合いがあるんだから、もうこう言うのヤメテくれないかな」
心を抉るような鋭い言葉で傷つける。
なのに、類は柔らかく微笑んで全てを包み込むようにあたしの指に指を絡める。
触れ合った指先から温もりが伝わって来て__あたしの理性を狂わせる。
「俺が嫌い?俺なんて欲しくない」
類の問いに何も応えられないのに___
好きとも
欲しいとも
なにも言えずに
あたしの本能は、類を求め指を這わせる。
*-*-*-*-*
毎週末__決まり事のように彼女のもとを訪れる。
10時を過ぎる頃、彼女の元に、電話を、メールを打つ。
少し考えれば、避けられているだけだと解るのに電話に出ない彼女が心配で堪らなくて、狂ったように何度も何度もタップする。
狂ったように?
いや
間違いなく狂っているのだろう
「ハハッ」
自虐的に一つ笑ったあとに過るのは
だったら出会わなかった方が良かった?
そんな思い。
否、首を振る……
出会えたからこそ幸せも不幸せも感じられるのだから。
目の前を愛おしい彼女が通り過ぎていく。
愛する者の名を呼び、手首を掴む。
「痛いっ」
つくしの尖った声がする。
幾つかのやり取りの後、待たせておいた車に彼女を押し込める。
つくしの細く白い指を絡めとる。
頑に好きだと、欲しいと言わないつくしに
「俺が嫌い?俺なんて欲しくない」
そう問えば__暗闇に白い指が蠢く。
絡み付いた指先から、つくしの言葉を聞こえる。
好きだ。欲しいと。
思い上がり?
否、思い上がりなどでなく彼女の全身がそう伝えて来る。
ねぇ、つくし
愛を怖がるあんたに俺は、何を伝えたらいいのだろう?
ねぇ、つくし
あんたの抱えてるその思い___手放してみるって言うのはどう?
闇夜が消えたら、俺はあんたの心に巣食う恐れという感情に滅びの呪文をかけるよ。
そして
真っ白な、真っ白な二人になって
愛を築いていこう。
ねっ
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