baroque 63
à la folie
君に会いたい
à la folie
君を愛してる
à la folie
君を欲してる
「…ちゃん、つくしちゃん、どうしたの?」
雪乃さんに呼ばれて、意識が戻る。
「あっ、お、お寿司__これは?」
「新谷の大将にお願いして教えて頂いたのよ。お味どうかしら__召し上がってみて頂戴な」
雪乃が心配そうにつくしに聞く
岩国寿司を一口に入れれば__そこには萩の思い出だけではなく薫との思い出が沢山詰まっていた。
「……とっても、美味しい」
下を向けば涙が出てきそうで、ほんの少し上を向き、口いっぱいに岩国寿司を頬張った。岩国寿司は、いつもよりもほんの少しだけしょっぱい味がした。
「大将、お元気でした?」
つくしが呟けば
「えぇ、とってもお元気でね。つくしちゃんに会いたいっておしゃってたわよ。あっ、そうそう、大将のところの下のお嬢ちゃん、春陽ちゃんって言ったかしら? 今年、小学生になったんですってね。つくしちゃんからお祝い頂いてって喜んでいらっしゃったわよ」
「…えっ?」
雪乃の言葉を聞き返す。
「……薫との連名で送って頂いたって」
「あぁっ、…そうなんだ」
「……あらっ、余計な事を_ごめんなさいね」
つくしは、首を振る。
「それと、つくしちゃん__今晩、宝珠の方からお話があるらしいの」
「宝珠のですか?」
「えぇ、その件で栄とワタルさんは、出掛けたから……」
*-*-*-*-*-*
会いたい。
君に会って、抱き締めて沢山のキスをふらせたい。哀しいほどにそう思う。
まだ早いと理性がストップをかける。
でも、会いたい。
会いたい。会いたい。会いたい。会いたい。
君に会いたい。
この町に君が帰って来ているのに__迎えに行く事も出来なくて、君に会いたい思いだけが膨れ上がって行く。
「つくし……」
君の名前を口にして、女々しい自分を自嘲する。
狂おしいほどに君を欲する自分が時折怖くなる。
この思いを手放せたら、楽になれると、ふと思う。
思った後に首を振る。
「それが出来たら__苦労しない…かっ」
もやもやした思いを払拭するために、椅子から立ち上がり、ほんの少し窓を開け部屋の中に風を通す。
スゥッーーー
心地好い風が身体の横を通り抜けて行く。
「吉と出るか、凶と出るか__神のみぞ知るってことか」
目を瞑り、ふんわりと微笑む。
トントンッ
「薫様、そろそろお時間でございますが」
「うんっ、いま行く」
カタンと窓を閉め、部屋を出た。
*-*-*-*-*-*-*
「薫は、本当にそれで構わないのか?」
「つくしをこれ以上縛り付けるのも__酷かなって。あっ、でも心配なさらないで下さい。お爺様方の念願でいらっしゃる筒井と宝珠の合併は、約束通り責任をもって僕が遂行しますので____ワタルさんも手伝ってくれるよね?」
コーヒーを啜りながら書類に目を通していたインディゴちゃんの顔を覗く
ドンッ
胸を一つ叩いてインディゴちゃんが返答した。
「喜んで薫社長の手足にならさせて頂きます」
「ふふっ、ワタルさん、手足は沢山居るから、手足じゃなくて頭脳になってよ__宜しくね」
__その瞬間、インディゴちゃんは
美しい微笑みを向ける薫の瞳の奥底に、燃えるような悲しみに似た狂気を見た気がした。
ありがとうございます♪
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