曇天 8 あきつく
雪は雨へと変わり、雪のベールを溶かしていく。
雨は嫌いとばかりに、部屋のカーテンを閉めていく。
食事を楽しみながら、色々色々話す。
牧野との会話はいつも楽しくて、このままの時間がずっと続けばいいのにと願う。
「25日のルノールのパーティは9時開始だっけ?珍しく遅いパーティーだね」
小首を傾げ、牧野が聞いてくる。
「あぁー 大人の開始時間らしいよ」
「「ぷっ」」
あははっ くくっ 2人で肩震わせて笑ってしまった。
大人の開始時間って、なんだよだよな。
一頻り笑い合って、お互いがお互いを見つめる。
外にはしとしと雨が降っている。
一歩を踏み出す勇気が持てたなら‥…
何かが変わる、そう思うのに一歩を踏み出せずに躊躇する。
「美作さん、大人の時間って言えばね‥…」
牧野が語り出したのは、ジャネーの法則。子供と大人の体感時間とでは違うんだという話しだった。
なんでも、大人になると色々な事への新鮮さがなくなる。経験値の差や、物事への新鮮な驚きや興味、ワクワクする事で体感する時間が違うんだという話しだった。
「まぁ、未来から過去を感じての体感時間の差ってやつなんだよね‥… うふっ、あたしのこの頃は、子供の頃の体感時間に戻ったかも‥。あっと言う間に時間が経つのに、思い出す時間は長いの。」
そう言いながら、牧野が笑った。
「そうだよな、転勤って大変だもんなぁー やる事多いし、覚える事も覚える人もいっぱいだもんな。それに五木専務のお守りだもんな。そりゃー新鮮な毎日だよな。」
「くっくっ ぷっ ぷはっ ははっ‥‥」
腹を抱えて、牧野が笑ってる‥…
「美作さんて、本当に面白いね」
そんな事を言いながら‥…
ブイヤベースに、牧野の作ったつまみを食べながら、フルボトルのワイン3本目突入の俺達2人。
「牧野、すげぇー酒強くなった?」
「うふっ、そうかも。高校の時は滅茶苦茶弱かったけどねー、ってか、高校生で飲むなだよねー。大学のサークルで鍛えられ、社会人になって鍛えられ、いつの間にやら強くなったよ。」
酔いが少し回ってるのか、笑い上戸に輪がかかっている。
「あぁー いい気持ち。仕事関係だと飲んでも酔えないしねぇー 外で飲むと帰り気になるしね〜」
「ホントだな。コレが正しく、家飲みだな。あっ、俺家じゃないけどな。」
ワインの瓶が5本、空になった後の記憶が、俺等にはない。
2人で初めて迎えた朝は‥…酷い2日酔い。
雨はすっかり上がり、冬麗な一日が始まっていた。
昼過ぎに目が覚めて、2人で顔を見合わせ、腹が痛くなる程笑った。
手を伸ばせば、抱きしめられるのに、抱きしめもせずに腹が痛くなるほど笑った。
「長々とお邪魔しました。」
「ぷっ、ホントに。こちらこそ長々とお引き止めしました。」
「じゃっ、25日ルノールで、大人の時間を」
「ぷっ、楽しみましょう 」
もう一度笑って、ルノールの約束と、今度は俺の家での家飲みの約束をして牧野の家を後にした。
「はぁっー」
美作さんが鈍感なのか? あたしに魅力がないのか?
あたしの一生懸命の告白は、気づかれもせず...
「はぁっー」
大きなため息一つ吐く。
***
雑踏の中でも一際目立つ美しい男(ひと)。
この男に触れてみたい。この男から、触れられたい。
気持ちを隠し、何気なさを装い、声をかける
「美作さーん、ゴメンね待った?」
イルミネーションが輝く中、負けずと輝く女が一人目の前に現れる。
真っ直ぐに見つめる瞳が美しく、目が離せなくなる。
「いいや、俺も今来たとこ。腹空いてる?」
「ちょっと空いてる。美作さんは?」
「俺もちょっと空いてるかな。」
パーティー前に腹を満たす事に決めた俺等2人。即決で、とろろ屋清兵衛に決まった。
白米と十二穀米で最後まで悩んで、ハーフハーフで注文した俺達。些細な事で笑い合って飯を食う。牧野と食う飯は、何を食っても本当に旨い。
「美作さんと食べるご飯は本当に美味しいねぇー。あたし達って、飲ん兵衛だから、チョイスが似てるのかな?」
牧野が可愛く笑ってそう言った。
「そうだな。飲ん兵衛仲間だもんな。」
「ぷっ、だね。」
店を出て、イルミネーションの中をブラブラ歩く。
「なぁ、28日は何やってる?」
「っん?仕事納めの日? たしか、美作商事と打ち合わせ入ってたよね?」
「あぁ、その後。」
「なんにも入ってないよ〜」
「じゃぁさ、金舌行かないか?この前のお礼。」
「うわっ、嬉しい行こ行こ。」
俺は、いくつめかの約束を取り付ける。
美しい後ろ姿を眺めながら、誕生日の夜に誘われて、期待しない女はいないよ。小さく小さく呟く。
ルノールのパーティーは新作チョコに合わせたシャンパンパーティ。ドレスコードはスマートカジュアル。真っ赤なルージュをひき直した牧野は、妖艶な微笑みで俺を魅了する。
会場に入ると、周りに美しい女性を侍らせている五木専務に会う。牧野を見ると軽く会釈をした後は、完全無視を決め込んで、見せつけるかの様に、俺の腕に腕を絡ませて来る。
その瞬間、射るような視線を感じ、後ろを振り向く。
そこに見たのは、久しぶりに見る友の姿だった‥‥
曇天は不定期更新中
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食事を楽しみながら、色々色々話す。
牧野との会話はいつも楽しくて、このままの時間がずっと続けばいいのにと願う。
「25日のルノールのパーティは9時開始だっけ?珍しく遅いパーティーだね」
小首を傾げ、牧野が聞いてくる。
「あぁー 大人の開始時間らしいよ」
「「ぷっ」」
あははっ くくっ 2人で肩震わせて笑ってしまった。
大人の開始時間って、なんだよだよな。
一頻り笑い合って、お互いがお互いを見つめる。
外にはしとしと雨が降っている。
一歩を踏み出す勇気が持てたなら‥…
何かが変わる、そう思うのに一歩を踏み出せずに躊躇する。
「美作さん、大人の時間って言えばね‥…」
牧野が語り出したのは、ジャネーの法則。子供と大人の体感時間とでは違うんだという話しだった。
なんでも、大人になると色々な事への新鮮さがなくなる。経験値の差や、物事への新鮮な驚きや興味、ワクワクする事で体感する時間が違うんだという話しだった。
「まぁ、未来から過去を感じての体感時間の差ってやつなんだよね‥… うふっ、あたしのこの頃は、子供の頃の体感時間に戻ったかも‥。あっと言う間に時間が経つのに、思い出す時間は長いの。」
そう言いながら、牧野が笑った。
「そうだよな、転勤って大変だもんなぁー やる事多いし、覚える事も覚える人もいっぱいだもんな。それに五木専務のお守りだもんな。そりゃー新鮮な毎日だよな。」
「くっくっ ぷっ ぷはっ ははっ‥‥」
腹を抱えて、牧野が笑ってる‥…
「美作さんて、本当に面白いね」
そんな事を言いながら‥…
ブイヤベースに、牧野の作ったつまみを食べながら、フルボトルのワイン3本目突入の俺達2人。
「牧野、すげぇー酒強くなった?」
「うふっ、そうかも。高校の時は滅茶苦茶弱かったけどねー、ってか、高校生で飲むなだよねー。大学のサークルで鍛えられ、社会人になって鍛えられ、いつの間にやら強くなったよ。」
酔いが少し回ってるのか、笑い上戸に輪がかかっている。
「あぁー いい気持ち。仕事関係だと飲んでも酔えないしねぇー 外で飲むと帰り気になるしね〜」
「ホントだな。コレが正しく、家飲みだな。あっ、俺家じゃないけどな。」
ワインの瓶が5本、空になった後の記憶が、俺等にはない。
2人で初めて迎えた朝は‥…酷い2日酔い。
雨はすっかり上がり、冬麗な一日が始まっていた。
昼過ぎに目が覚めて、2人で顔を見合わせ、腹が痛くなる程笑った。
手を伸ばせば、抱きしめられるのに、抱きしめもせずに腹が痛くなるほど笑った。
「長々とお邪魔しました。」
「ぷっ、ホントに。こちらこそ長々とお引き止めしました。」
「じゃっ、25日ルノールで、大人の時間を」
「ぷっ、楽しみましょう 」
もう一度笑って、ルノールの約束と、今度は俺の家での家飲みの約束をして牧野の家を後にした。
「はぁっー」
美作さんが鈍感なのか? あたしに魅力がないのか?
あたしの一生懸命の告白は、気づかれもせず...
「はぁっー」
大きなため息一つ吐く。
***
雑踏の中でも一際目立つ美しい男(ひと)。
この男に触れてみたい。この男から、触れられたい。
気持ちを隠し、何気なさを装い、声をかける
「美作さーん、ゴメンね待った?」
イルミネーションが輝く中、負けずと輝く女が一人目の前に現れる。
真っ直ぐに見つめる瞳が美しく、目が離せなくなる。
「いいや、俺も今来たとこ。腹空いてる?」
「ちょっと空いてる。美作さんは?」
「俺もちょっと空いてるかな。」
パーティー前に腹を満たす事に決めた俺等2人。即決で、とろろ屋清兵衛に決まった。
白米と十二穀米で最後まで悩んで、ハーフハーフで注文した俺達。些細な事で笑い合って飯を食う。牧野と食う飯は、何を食っても本当に旨い。
「美作さんと食べるご飯は本当に美味しいねぇー。あたし達って、飲ん兵衛だから、チョイスが似てるのかな?」
牧野が可愛く笑ってそう言った。
「そうだな。飲ん兵衛仲間だもんな。」
「ぷっ、だね。」
店を出て、イルミネーションの中をブラブラ歩く。
「なぁ、28日は何やってる?」
「っん?仕事納めの日? たしか、美作商事と打ち合わせ入ってたよね?」
「あぁ、その後。」
「なんにも入ってないよ〜」
「じゃぁさ、金舌行かないか?この前のお礼。」
「うわっ、嬉しい行こ行こ。」
俺は、いくつめかの約束を取り付ける。
美しい後ろ姿を眺めながら、誕生日の夜に誘われて、期待しない女はいないよ。小さく小さく呟く。
ルノールのパーティーは新作チョコに合わせたシャンパンパーティ。ドレスコードはスマートカジュアル。真っ赤なルージュをひき直した牧野は、妖艶な微笑みで俺を魅了する。
会場に入ると、周りに美しい女性を侍らせている五木専務に会う。牧野を見ると軽く会釈をした後は、完全無視を決め込んで、見せつけるかの様に、俺の腕に腕を絡ませて来る。
その瞬間、射るような視線を感じ、後ろを振り向く。
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