明日咲く花~前編〜 by 凪子さま
Special Thanks ビー玉の瞳 凪子さま
あたしの心の支え__それは?
世間を巻き込んだ大恋愛の末
その恋を失った彼女に、
俺は一体、何ができるんだろうか......
あの日から
牧野は心から笑ってはいない
―『土星のネックレスさ... 突き返してやったよ...』
そう言って、弱々しく笑った彼女は
明らかに強がっていて...
そして悲しいほど、綺麗だった......
あれから―――
あきらは時々、牧野を自分の邸に誘ってる。
あきらの母親の夢子さんや妹達に囲まれて、牧野はケラケラと、よく笑っているという。
でも
―『新作のケーキがすっごく美味しくてさぁ…
あ!今日は、バラの花束までお土産に貰っちゃったんだ...。凄いよね~、ホントに、うちになんか似合わないのに...』
そう言って、俺の前では必ず最後に弱々しく微笑む彼女をみると…
ツキンと心が痛むのは、何故なんだろう
総二郎は...
毎週必ず決まった曜日に、牧野を茶の稽古に誘っている。
牧野の気晴らしと…芸は身を助けるでは無いが、今後も習っていて決して損は無いんだと、どうやら真剣に説得したらしい。
その気持ちが通じたのか、働き始めた今も西門通いは続いていて、それはとても、良いことだと思う。
でも...
―『お茶室に居るひとときってね… なんだかいろんな事を忘れられるんだけど... 外に出たときに、ふと思っちゃうんだよね... あぁ、私は"非現実"の中に、居たのかもなぁ~、ってさ...』
ヘラヘラと心無い笑いを見せられて...
俺はなんと、答えれば良かったんだろう
そして
俺はといえば...
ある日、宝石店の店先で、偶然彼女に似合いそうなネックレスを見つけた。
チューリップのモチーフにパールが一粒、凛として光輝く可愛らしいペンダント...
思わず牧野の笑顔が浮かんで、気付いたらすぐに手に取っていて、
「あ、そのままで... 袋に入れてくれる?」
プレゼントの箱まで取っ払って、ただ、小さな布の袋に入れて貰い、そのままポケットに忍ばせる。
俺は浮わついた気持ちで、彼女の元に向かった。
ただただ、
これを付けて喜ぶ、彼女の笑顔が見たかったから...
だけど
『あれ?…花沢類... また来たんだ...』
玄関を開けて、疲れたようにそう言った彼女の顔を見たとき、俺は、自分の選択が誤りであると悟る。
今の彼女では、こんなもの、喜ぶ筈もなくて......
ネックレスの変わりに、
違う言葉が口をついて出た。
「…ねぇ、今度さ…チューリップ畑、観に行かない?」
*
『すっごーーい///!!こんなにたくさんっ//!!』
久し振りに、彼女の笑顔を見た。
屈託の無い、昔みたいな、弾けるような笑顔を…
「あんまり遠く行かないでよ?」
『大丈夫~//!子供じゃないんだからさっ//』
色とりどりのチューリップに囲まれて、その中を嬉々として跳ねるように歩く牧野は、本当に無邪気で...
どうしてもっと早くここへ連れてきてやらなかったんだろうと、自分の馬鹿さ加減に呆れながらも
弾けるような牧野の笑顔が、ただ、嬉しくて...
久し振りにのんびりと、あの頃の非常階段のような時を過ごす。
帰りに立ち寄ったお土産コーナーでは、
必死に球根を見ている彼女。
『ねぇねぇ、これ、今から植えたら春に咲くかな//?…ほら、小学生のとき、学校で育てたりしたけどさ、考えたら自分一人で家で咲かせたことって、一度も無いんだよね~//』
意味がわからなくて、首を傾げれば
『えっ!?…やだっ!花沢類、学校で鉢植えで育てなかったの//!?』
学校で、鉢植え??
「別に…ガーデニングの授業とか、無かったし...」
思ったことを答えただけなのに、何故か牧野は大爆笑した後、やがて腰に手を当てて、俺を叱った。
『あのねぇ!…そもそも自分でチューリップ育てた事も無いなんて//!小学生にだって笑われるわよっ//!?…これだからお坊っちゃまは//…』
とかなんとか、ブツブツ言いながら...
何故か俺も一緒に、チューリップを球根から育てる羽目になる。
クスッ、そういえば、牧野の大きな独り言も、久々に聞いた気がするな…
いつの間にか、昔みたいに心地好い空気が流れて...
自然と肩を寄せ合い、何色が良いかと、二人で球根を選びながら...
『決めたっ//!絶対にあんたより綺麗な花を咲かせて見せる//!』
と鼻息荒く意気込んでいる牧野に、何故だか鼻の奥がツンとしてくる...
良かった...
久し振りに、ホントのあんたに逢えて...
きっともう、大丈夫だね―――――
次の春が来たら、
どっちが先に花を咲かせるんだろう。
そうして少しのときめきと切なさと一緒に...
俺は生まれて初めて、チューリップの球根を育てることにしたんだ。
**
あのチューリップ畑に連れていってくれた日―――
彼はどうして
何も言ってくれなかったんだろうか...
ある日突然、花沢類は居なくなってしまった。
急な仕事の都合でフランスへ転勤になったと、
後から美作さんが教えてくれたけど......
―何でよ//!?
道明寺だけじゃなく、花沢類もなの//!?
あたしは、
始めは何も言わずに去ってしまった彼を恨み、
自分の孤独を恨んでいた。
その怒りが、どこから来るのか...
本当の気持ちは、一体何なのか......
強い苛立ちと悲しみの源を、考えもせずに
ただやり場の無い気持ちに、途方に暮れたのかもしれない。
そして、花沢類が消えてしまった後も...
そんなあたしに気を遣ってか、美作さんや西門さんは、相変わらず優しい。
それでも、何故か彼らには、花沢類へするようには自分の弱味は見せられなかった。
だから、顔は笑っていても、あたしの胸は押し潰されるように、苦しかったんだ...
そんな中、10月のある日...
突然彼から一通のメールが届く。
驚いて開ければ、何もない鉢植えの写真で...
― 『今日、チューリップを植えたよ』
メッセージは、たったそれだけ...
花沢類らしい、シンプルなお知らせメール...
それなのに
あたしは一人、わんわん泣いた。
あたしは馬鹿だ。
向こうに行っても、"彼"は何一つ変わってなんかいなかったから...
それがなんだか嬉しくて、
今、彼がここに居ないことが、無償に切なくて...
一体何の涙なのか、わからなかったけれど
死ぬほど涙を流して、初めて気付く
花沢類が居なくなってから、あたしはずっと
涙を溜め込んでいたんだと...
その日から、あたしに心の支えが出来た。
小さな小さな、チューリップの鉢植え...
育て方を調べて、彼に遅れまいと慌ててチューリップの球根を植える。
そして急いで、彼のアドレス宛にメールを送った。
―『こっちも植えたよ!絶対に、先に咲かせて見せるからね!』
PCに文字を打ちながら、久々に自然と笑っている自分自身に気が付く。
ちょっと楽しい…//
ワクワクする…///
どうやらチューリップは、まだ芽が出ない冬場も水をやり続けなきゃいけないらしくて...
それから毎日、
朝起きるのが少しだけ楽しみになった。
明日咲く花〜中編〜は明日0時〜


♥ありがとうございます。とっても嬉しいです♥
あたしの心の支え__それは?
世間を巻き込んだ大恋愛の末
その恋を失った彼女に、
俺は一体、何ができるんだろうか......
あの日から
牧野は心から笑ってはいない
―『土星のネックレスさ... 突き返してやったよ...』
そう言って、弱々しく笑った彼女は
明らかに強がっていて...
そして悲しいほど、綺麗だった......
あれから―――
あきらは時々、牧野を自分の邸に誘ってる。
あきらの母親の夢子さんや妹達に囲まれて、牧野はケラケラと、よく笑っているという。
でも
―『新作のケーキがすっごく美味しくてさぁ…
あ!今日は、バラの花束までお土産に貰っちゃったんだ...。凄いよね~、ホントに、うちになんか似合わないのに...』
そう言って、俺の前では必ず最後に弱々しく微笑む彼女をみると…
ツキンと心が痛むのは、何故なんだろう
総二郎は...
毎週必ず決まった曜日に、牧野を茶の稽古に誘っている。
牧野の気晴らしと…芸は身を助けるでは無いが、今後も習っていて決して損は無いんだと、どうやら真剣に説得したらしい。
その気持ちが通じたのか、働き始めた今も西門通いは続いていて、それはとても、良いことだと思う。
でも...
―『お茶室に居るひとときってね… なんだかいろんな事を忘れられるんだけど... 外に出たときに、ふと思っちゃうんだよね... あぁ、私は"非現実"の中に、居たのかもなぁ~、ってさ...』
ヘラヘラと心無い笑いを見せられて...
俺はなんと、答えれば良かったんだろう
そして
俺はといえば...
ある日、宝石店の店先で、偶然彼女に似合いそうなネックレスを見つけた。
チューリップのモチーフにパールが一粒、凛として光輝く可愛らしいペンダント...
思わず牧野の笑顔が浮かんで、気付いたらすぐに手に取っていて、
「あ、そのままで... 袋に入れてくれる?」
プレゼントの箱まで取っ払って、ただ、小さな布の袋に入れて貰い、そのままポケットに忍ばせる。
俺は浮わついた気持ちで、彼女の元に向かった。
ただただ、
これを付けて喜ぶ、彼女の笑顔が見たかったから...
だけど
『あれ?…花沢類... また来たんだ...』
玄関を開けて、疲れたようにそう言った彼女の顔を見たとき、俺は、自分の選択が誤りであると悟る。
今の彼女では、こんなもの、喜ぶ筈もなくて......
ネックレスの変わりに、
違う言葉が口をついて出た。
「…ねぇ、今度さ…チューリップ畑、観に行かない?」
*
『すっごーーい///!!こんなにたくさんっ//!!』
久し振りに、彼女の笑顔を見た。
屈託の無い、昔みたいな、弾けるような笑顔を…
「あんまり遠く行かないでよ?」
『大丈夫~//!子供じゃないんだからさっ//』
色とりどりのチューリップに囲まれて、その中を嬉々として跳ねるように歩く牧野は、本当に無邪気で...
どうしてもっと早くここへ連れてきてやらなかったんだろうと、自分の馬鹿さ加減に呆れながらも
弾けるような牧野の笑顔が、ただ、嬉しくて...
久し振りにのんびりと、あの頃の非常階段のような時を過ごす。
帰りに立ち寄ったお土産コーナーでは、
必死に球根を見ている彼女。
『ねぇねぇ、これ、今から植えたら春に咲くかな//?…ほら、小学生のとき、学校で育てたりしたけどさ、考えたら自分一人で家で咲かせたことって、一度も無いんだよね~//』
意味がわからなくて、首を傾げれば
『えっ!?…やだっ!花沢類、学校で鉢植えで育てなかったの//!?』
学校で、鉢植え??
「別に…ガーデニングの授業とか、無かったし...」
思ったことを答えただけなのに、何故か牧野は大爆笑した後、やがて腰に手を当てて、俺を叱った。
『あのねぇ!…そもそも自分でチューリップ育てた事も無いなんて//!小学生にだって笑われるわよっ//!?…これだからお坊っちゃまは//…』
とかなんとか、ブツブツ言いながら...
何故か俺も一緒に、チューリップを球根から育てる羽目になる。
クスッ、そういえば、牧野の大きな独り言も、久々に聞いた気がするな…
いつの間にか、昔みたいに心地好い空気が流れて...
自然と肩を寄せ合い、何色が良いかと、二人で球根を選びながら...
『決めたっ//!絶対にあんたより綺麗な花を咲かせて見せる//!』
と鼻息荒く意気込んでいる牧野に、何故だか鼻の奥がツンとしてくる...
良かった...
久し振りに、ホントのあんたに逢えて...
きっともう、大丈夫だね―――――
次の春が来たら、
どっちが先に花を咲かせるんだろう。
そうして少しのときめきと切なさと一緒に...
俺は生まれて初めて、チューリップの球根を育てることにしたんだ。
**
あのチューリップ畑に連れていってくれた日―――
彼はどうして
何も言ってくれなかったんだろうか...
ある日突然、花沢類は居なくなってしまった。
急な仕事の都合でフランスへ転勤になったと、
後から美作さんが教えてくれたけど......
―何でよ//!?
道明寺だけじゃなく、花沢類もなの//!?
あたしは、
始めは何も言わずに去ってしまった彼を恨み、
自分の孤独を恨んでいた。
その怒りが、どこから来るのか...
本当の気持ちは、一体何なのか......
強い苛立ちと悲しみの源を、考えもせずに
ただやり場の無い気持ちに、途方に暮れたのかもしれない。
そして、花沢類が消えてしまった後も...
そんなあたしに気を遣ってか、美作さんや西門さんは、相変わらず優しい。
それでも、何故か彼らには、花沢類へするようには自分の弱味は見せられなかった。
だから、顔は笑っていても、あたしの胸は押し潰されるように、苦しかったんだ...
そんな中、10月のある日...
突然彼から一通のメールが届く。
驚いて開ければ、何もない鉢植えの写真で...
― 『今日、チューリップを植えたよ』
メッセージは、たったそれだけ...
花沢類らしい、シンプルなお知らせメール...
それなのに
あたしは一人、わんわん泣いた。
あたしは馬鹿だ。
向こうに行っても、"彼"は何一つ変わってなんかいなかったから...
それがなんだか嬉しくて、
今、彼がここに居ないことが、無償に切なくて...
一体何の涙なのか、わからなかったけれど
死ぬほど涙を流して、初めて気付く
花沢類が居なくなってから、あたしはずっと
涙を溜め込んでいたんだと...
その日から、あたしに心の支えが出来た。
小さな小さな、チューリップの鉢植え...
育て方を調べて、彼に遅れまいと慌ててチューリップの球根を植える。
そして急いで、彼のアドレス宛にメールを送った。
―『こっちも植えたよ!絶対に、先に咲かせて見せるからね!』
PCに文字を打ちながら、久々に自然と笑っている自分自身に気が付く。
ちょっと楽しい…//
ワクワクする…///
どうやらチューリップは、まだ芽が出ない冬場も水をやり続けなきゃいけないらしくて...
それから毎日、
朝起きるのが少しだけ楽しみになった。
明日咲く花〜中編〜は明日0時〜


♥ありがとうございます。とっても嬉しいです♥
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