明日咲く花~中編〜 by 凪子さま
この花が咲くのを願ったのは__なぜ?
何もない鉢植えが、部屋にひとつって...//
知らない人が見たら、何だと思うだろう。
そこにただ、あるだけ...
それなのに、今はコレがあたしの心の支えなのだから、我ながら寂しい女に見えるかもと笑ってしまう...
そう思って、ふと気付く事。
― そこにただ、あるだけ......
そうだ...
そうだった。
道明寺と別れた後...
みんなが必死に
あたしを外の世界へと連れ出そうとしてくれた中で...
でも花沢類だけは変わらずに
ただいつも、黙って側に、居てくれたんだ...
花沢類の側では、
無理して笑わずにすんだ。
泣きたいときは泣いたし、
愚痴を言いたいときは思いきりぶつけて...
それでも、彼はあたしを見捨てる事は無かったし
見捨てられないって、勝手に思ってた...
今思えば、もの凄く甘えた考えで...
あの頃の彼は、そんなあたしをどう見ていたんだろうと疑問が湧く。
でも、それもすぐに無くなる。
だって、花沢類は、花沢類だから...//
―『…牧野...』
変わらない穏やかな空気
あたしの一部で、ソウルメイトで......
そっか...
自分が何を失ったのか
ようやくわかったあたしは、
また少しだけ泣いた
昔、アイツと別れた時に流した、
血のような涙じゃなくて
彼を想って溢れるのは、何故か真っ白で
キュッと切ない涙で......
でも、
そんな彼とあたしは、まだ
この鉢植えで繋がっている...
それが今の、心の支えだ。
いつの間にか...
まるでここに居ない花沢類に話し掛けるかのように、あたしは鉢植えに話し掛けるのが、口癖になった。
今日会社であった事とか、
夢子さんの新作ケーキの話とか、
西門さんが少し真面目で、可笑しかった事とかさ...
そうして、水やりをしながら毎日が過ぎて行き...
ある日、小さな芽が鉢植えから顔を出す。
黄緑色の可愛い小さな芽...
可愛い//!
見せたい//…!
すぐに写真を撮って、メールを送る...
―『今日芽が出たよ!』
"送信済み"の文字に、心が踊った//…
このメールみたいに、
あたしも飛んでいけたら良いのに///...
「ねぇ?…彼はあんたを、見てくれるかな//…」
小さな黄緑の芽に話しかけて、心を落ち着かせる。
そしてここに居ない彼を想えば、
ポカポカと、満たされていく気がした
**
―『今日芽が出たよ!』
クスッ
嬉しそうな牧野の顔が浮かぶ。
あの大きな瞳をまんまるにして
得意気に小鼻を膨らませて...
きっとそうして、この写真を撮ったんだね...
会いたいな
会って直に、あんたの笑顔をみたいよ...
秘めた想いを込めて、返信をする。
―『なんか牧野みたいだね ちっちゃくてもちゃんと真っ直ぐに、顔出してる』
―『俺も、負けないように 頑張るから』
想いが溢れて書き足した一文に、自分で苦笑い...
あの時
別れを告げなかったのは、
再び歩き出そうとするあんたの笑顔を
曇らせたくなかったから...
それにもし、見送られでもしたら......
もう、あんたの望む『友達』のままでは
いられなくなりそうだったから...
でも
こんな弱い俺では
牧野の隣には相応しくない
だってあんな辛い想いをしたのに、
彼女はほら、もう自分で歩き出そうとしてる...
だから―――
弱ってるときに、つけ込むんじゃなく...
あんたが本来の姿を取り戻した時
その隣に、堂々と居られるような、自分でありたかったんだ...
そんな風に
少し感慨深く、鉢植えを眺めれば
「あっ…」
…小さな奇跡…!?
さっきの写真で見たような、小さな緑色のものが
俺の鉢植えの土の中から、可愛い顔を出していた。
***
『牧野、お前なんか、良いことあったか?』
『だよな?…最近よく笑うようになったな…』
美作さんや西門さんにそう言われるたび
「べ、別に//?…そんな事、無いけど…」
勘の良い二人に冷やかされぬよう、わざと素っ気なく返す。
でも本当は...
たまに来る、PCメール//…
あたしと類とのポツポツとしたやりとりは、
いつの間にか、チューリップと共に、あたしの"かけがえの無いもの"になっていた
それとね?
植物って不思議...
話さなくても、やっぱり命を育ててるんだな、ってすごく感じる...//
芽が出始めてから、スクスクと伸びてゆく茎に、あたしは毎日元気を貰ってて...
「ねぇ、あんた… あんたの仲間...
花沢類にも、ちゃんと元気あげてるかなぁ?」
あげてると、いいな//…
逢いたいよ...... 花沢類......
スクスク育つ、あたしのチューリップと共に...
あたしの中で育つ、類への想い―――――
やがて、"この子"がつぼみをつける頃には
自分の中では抱えきれないほどに、
彼への想いが、いっぱいになっていて...
ある春の朝、とうとう可愛いピンク色が花開き、
あたしは待ちきれなくて、勢い込んで、彼に送信する。
―『見て!やっと咲いたよ! そっちは? あたしの勝ち!?』
なんて返事をくれるだろう//…
ワクワクした//…
ドキドキした//…
それなのに
仕事から帰宅しても、何故かいつもの時間にもメールは届かなくて
翌日も、2日目も、返事が来ない.....
モヤモヤ、モヤモヤ...
「あたしの勝ち」じゃなくて、
「一緒に見たい」って、打てば良かった......
忙しいのかな…
まさか…具合悪くて寝込んでたりしてっ//…!
もしそうなら
看病…してくれる人とか、居るのかな......
気のつく女の人とか...
っ!…ヤダヤダヤダっ//!
花沢類、ちょっとボーッとしてるとこあるし//…
それに日本に限らずフランスだって、あの外見はモテるに決まってるよね//...
ひとつの不安は、どんどん数珠繋ぎに、多くの見えない不安を呼び起こして......
結果、耐えきれずにポロポロと
あたしの頬を涙が伝い始める。
明日咲く花〜後編〜は明日0時〜


♥ありがとうございます。とっても嬉しいです♥
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