紅蓮 90 つかつく
夢の中で、誰かがあたしに手を差し伸べている。
この手を掴めたら、あたしは幸せになれる。
そう解っているのに夢の中のあたしは、その人の手を取らない。
その手を取りたいと願うのに、掴めない。
夢の中のあたしは、この手の持ち主を心の底から愛してる筈なのに
「あぁっーーー」
「つくし、つくし、どうした?」
優しく身体を揺さぶられ、あたしは目を覚ます。
「凌さん__あたし、あたし、手を掴めなかったの」
「何を言ってるんだい? 大丈夫だよ。ほらっ、ちゃんと掴んでるよ」
宗谷の大きな手がつくしの手を包み込む。
「そうよね。大丈夫なのよね__」
でも__夢の中の手とこの手は違う。喉元まで声が出かかって口を噤む。
違うからと言って、どうすると言うのだ。
この人は、あたしを愛してくれてる___
あたしも、この人を愛してる。
でも
本当に?
チリチリと頭が痛む。
解らない。
だったら、あの手は誰?
凌さんが話してくれた道明寺司さんのこと?
解らない。
ただ解っているのは、その事を考えると割れるように頭が痛くなる。それだけだ。
♪おろろん おろろん おろろん
おろろん おろろんよ
おろろん おろろん おろろん
おろろん おろろん おろろんよ♪
凌さんが子守唄を歌ってくれる。
トックン トックン
ドクドク ドックン
お腹の中の子は、とっても元気だ。
この子は、不確かなあたしの中の確かな存在だ。
あたしは、この子を愛してる。
愛して 愛して 愛して 愛して 愛して 愛して 愛して___愛してる。
それだけでいい。
この子だけは、あたしのものだもの。
「早くあなたに会いたい......な」
もう一度目を瞑り眠りについた
*-*-*-*-*-*-*-*
愛してる 愛してる 愛してる 愛してる 愛してる__つくしだけを愛してる。
日々、募る思い。
ともに沸き上がる後悔。
何故、あの時強引にでもつくしの手を取らなかったのだろう。
強引にでも___奪ってしまえば良かったのに
あの瞬間、俺は怖じ気づいたのだ。
あの日からつくしは、全くと言っていいほどに人前に出なくなった。
設楽を見張ら得た情報は、つくしは宗谷の本邸ではなく、広大な敷地の中に建つ洋館に移ったこととだけだ。
広大な敷地は、鉄壁な要塞に守られ邸の中の情報は何一つ解らない。
会いたい 会いたい 会いたい 会いたい 会いたい 会いたい___会って抱き締めたい。
もう一度会えたなら......手放さない。
*-*-*-*-*-*-*
眠るつくしを抱きしめながら___つくしに語った妄語が全て本当だったら俺は幸せだったのかもしれないと考えていた。
最初から、美繭と出会わずにつくしと出会えていたならば__禁忌な恋をする事も、美繭を苦しめ死に至らしめる事もなかったと。
そこまで考えて、酔狂な考えだと己を笑う。
美繭と出会わなかったら、つくしと出会う事も惹かれる事もなかったのだと。
寝入るつくしのお腹に手を触れ小さく小さく声をかける。
「君は、道明寺司の子かい?
君に全てが
かかってるのかもしれないね」
そう、あの日に照準を合わせつくしにはクロミッドを打たせていた。
何故?
あははっ、この血を憎んでいるからだ。
宗谷の血を途絶えさせてしまいたい。
同時に、宗谷の長として__宗谷を途絶えさすわけにはいかない。その葛藤から賭けに出た。
賭けは三つ。
一つは、道明寺
一つは、二階堂
一つは、凍結しておいた己の精子を使った。
そうあの日、設楽の手によって二階堂に抱かれ気絶したつくしの身体へと人工授精を施したのだ。
何故?
美繭を愛すると決めた俺は、パイプカットを施していたからだ。
かつてのつくしが恐れていた俺の子を孕む心配など、普通のセックスではもともとあり得なかったのだ。
己の子など__つくしよりも俺自身が欲しくなどなかった。ただ、つくしの精神を追い詰めるために口にしていただけだ。
なのに今は__
この腹の子が自分の子ならば幸せになれるかもしれないと___そうならば良いと願っている自分もいるのだから皮肉なものだ。
絶やしてしまいたいのに___夢を見てしまうのだ。
もしかしたら、幸せになってもいいのかもしれないと。
美繭以外の誰かを愛し幸せになるなど
許される筈などないのに。
幸せを 温もりを 求めてしまうのだ
愚かだ___。
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