紅蓮 91 つかつく
「玲久__」
何万回、君の名を呼んだだろう。
何万回、アイシテルと伝えただろう。
それでも足りずに何度も、何度も名を呼び、何度も、何度もアイシテルと伝えた。
会いたい 会いたい____
もう一度、玲久、君にアイタイ
そして、君の名を呼び、もう一度アイシテルと伝えたい。
君を失ったあの日
___俺は君だけでなくもう一つの大事なものを失った。
生きていけないと思った俺をこの世の中に引き止めたのは、
あの日交わした約束のせいだった。
「ねぇ、雄ちゃん___自分の命を自ら断つとね__同じ世界に行けず一人で永遠と彷徨い続けなければいけないんだって。だからよ、もしも、もしも、私に何かあったとしても、雄ちゃんは生きるのよ」
「__やだ」
「もぉ、やだじゃない。あの世でも、この世でももう二度と会えなくなるより、ちょっとの間我慢すればいい事でしょ?」
「ちょっとの間も我慢出来ない__玲久は、俺よりも長生きして」
「ダメ、雄ちゃんが私よりも長生きするの」
「やだ」
「雄ちゃん、私を悲しませていいの?雄ちゃんは私の王子様でしょ? ねっ」
「あぁーーもう、玲久はズルイなぁ。解ったよ。その代わり俺に何かがあったとしても、玲久は強く生きて幸せになる。約束だぞ」
玲久が俺を見て
「嫌っ、私は、雄ちゃんが居なくっちゃ生きていけないし、幸せになんかなれない」
「それは俺も一緒だ。玲久が居なきゃ幸せになんてなれない」
心が重なったあと、なんでこんな馬鹿げた話しをしてるのかねと言い合って、二人でクスクスと笑った。
そしてその後、指切りをした。
来世で再び会う為に自分の生は、全うすることを。
お互いの事を胸に抱きかかえて生きるのは仕方ないけれど、前を向いて生きて行くことを。
約束なんて___しなきゃ良かったと何度も後悔をした。
でも、もしも俺が先に逝って残された玲久が自ら命を断ったら
そう考えた時、
俺には
〝生きる〟
と言う選択肢しか残されてなかった。
玲久__君に会いたい。
もう一度だけでいいから、君を抱き締めたい。
あぁ、せめて、せめて
お腹の中の子供が無事だったならば___
考えても仕方ない事を幾度も考えた。
「玲久___」
傍らに眠る女の大きなお腹を見つめ、愛するものの名を呼ぶ。
彼女に悪いと思わないのか?
自問自答する。
答えは、否。
玲久の、
そして、玲久のお腹に芽生えた俺等の子供の命を奪った原因の一端を作ったのは、
__彼女だから。
全てが運の悪い偶然だった。それは解ってる。
逆恨みだとも解っている。
だけど___何故あの日、あの時だったんだ?
一日、いや、一時間でもズレていたら
玲久は、事故に巻き込まれることなどなかった。
考えても仕方の無いことだと解ってる。
だからこそ、
俺が生を全うするにはこの方法しかなかった。
誰かを、玲久の代わりにして生きること。
それに、
一旦、死を選んだ女の
命を俺が自由にして何が悪いんだ___
俺の中の悪魔がそう嘯く。
玲久、君が知ったら
「雄ちゃん、ダメだよ」
そう言って、大きな瞳で俺を見つめ哀し気に叱るだろうね___
ねぇ、玲久__俺を叱りに来てよ。
お願いだよ玲久
「......フッ、俺は君にもう一度叱られたいのかもしれないね」
涙が零れた瞬間
「……ぅっうーん」
俺の隣りで眠る女の寝息が零れた。
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