baroque 65
僕の手に
reprendre
再び君を
reprendre
奪い返す
別れを告げられたあの日からつくしの心の中には、花びらが降り積もるように淋しさが積もっていく。
自由になった筈なのに、身体の半分を失ってしまったような心細さがつくしの心を占めていく。
隣りに総二郎が居るのにも関わらずつくしの心は、薫を失った哀しみで占められていくのだ。
自分で望んだ事なのに___別れたからこそ見えて来る事があるように。淋しくて淋しくて堪らないのだ。
淋しさが増す度に漏れ聞こえて来るのが薫の醜聞。その度につくしは、耳を塞ぎ、目を瞑りたくなる自分と戦っている。
つくしの心が薫で占められていくのと比例して、総二郎のつくしへの執着が増していったのは偶然だったのだろうか?
「つくし」
艶かしく名を呼ばれ、後ろから総二郎に抱き締められているのにも関わらずつくしの中には、今晩見た光景が浮かんでいた。
総二郎と出掛けた会員制のBARで偶然にも薫と会ったのだ。
薫の隣りには、四ノ宮家の令嬢の沙百合が居た。
沙百合が薫の耳元に唇を寄せ何かを囁いていた。
その光景を見た瞬間、つくしはギュッと両手を握り締めた。
総二郎を見つけた沙百合が嬉しそうに微笑みながら鈴のような音色で声を掛けてくる。
「総二郎さんじゃありませんこと」
沙百合が微笑む度に茶色の髪がふわりと揺れる。
ゴクリッ つくしの喉がなる。
挨拶をしようと思うのに、喉が貼り付き声が出ない。
沙百合の隣りに居た薫が微笑みながら
「久しぶり」
つくしに声をかける
沙百合と総二郎が緩やかに振り向きながら、つくしと薫の顔を交互に見る。
沙百合は小首を傾げ
「そちらの方は、薫さんのお知り合い?」
そう聞いている。
薫は美しく微笑み
「ジュエルの筒井つくしさん。僕の……妹みたいなもの…かな」
「あらっ、ジュエルのお嬢さんでいらっしゃるのね。うふふっ 私、四ノ宮沙百合と申しますの。薫さんとは向こうの大学で先輩後輩の間柄になりますのよ。あっ、そうだ。ここでご一緒したのも何かのご縁ですもの、宜しければご一緒に飲みませんこと? 私、つくしさんと是非お話ししてみたいわ。総二郎さんも、薫さんも宜しくってよね?」
沙百合は、ぐるりと皆の顔を見回す。
沙百合の視線を受けたつくしは、愛想笑いを浮かべながら、断って欲しいと願いをこめて総二郎を見上げる。その心を知ってか知らずか総二郎は、優雅に微笑みながら
「えぇ、是非」
言葉を返している。
総二郎は薫に向きなおり、笑顔をつくりながら
「初めまして、西門流の西門総二郎と申します」
挨拶をした。
総二郎の笑顔を受け取るかの様に、
「Lucyの代表をしております宝珠薫と申します」
そう言いながら美しく微笑んだ。


ありがとうございます♪
- 関連記事
-
- baroque 68
- baroque 67
- baroque 66
- baroque 65
- baroque 64
- baroque 63
- baroque 62