baroque 68
まるで全ての出来事が
scénario
計算された
scénario
シナリオのように
「…若先生は、事務局の方からご連絡があって__」
「あらっ、そうでしたの。でしたら入れ違いにはなられなかったのよね?」
「…えぇ」
「なら良かったわ。総二郎さん、随分とつくしさんのことお気になさってたから」
沙百合が掌を薫の太腿に置きながら、猫のような瞳でつくしの瞳を覗く。
瞳を覗かれた瞬間、
生まれて初めて体験する感情がつくしを襲う。
誰にでも優しく公平に。人を色眼鏡で見ない。小さな頃から教えられ、そしてつくしが心がけてきたことだ。
なのに___いま、つくしの中にはどす黒い感情が蠢いている。
キライ キライ この女がキライ
つくしの感情の揺れに気が付いたかのように、薫の指先が沙百合の指先を絡めとった。
沙百合が薫を見上げクスリと笑う。薫が沙百合を見つめ共犯者の笑みを浮かべる。
二人の思惑など何も知らないつくしは、屈辱と共に左の親指を右の2本の指でギュっと押しながら笑顔を浮かべ
「薫は、随分と沙百合さんと仲がよろしいみたいだけど__お付き合いなさってるの?」
「つくしも総二郎君と随分と仲が良いみたいだけど付き合ってるの?」
「そんなの薫には関係ない」
「ははっ、じゃ、僕等のこともつくしには関係ないよね?」
薫は優美な微笑みを浮かべ、つくしの瞳を真っ直ぐに見る。
言葉に詰まったつくしに沙百合が言葉をかける。
「つくしさんって……聞いてたよりも随分と貪欲なのね」
沙百合の言葉につくしは眉根を寄せながら
「貪欲って__どういう事ですか?」
声を尖らせて聞き返した
「そのままの意味でしてよ。うふふっ でも私、そんなほうが大好きでしてよ」
沙百合が小首を傾げながら美しい顔でニコヤカに微笑む。
その笑顔を見てつくしの心が叫ぶ。
嫌、嫌、嫌、薫はこの女には渡さないと。
心の叫びは小さな呟きとなって、つくしの口から漏れる
「薫は薫は___」
つくしの口から漏れた呟きを耳にした薫の心が喜びで満ち溢れていく。
つくし、どうかどうかお願いだ。
もがいてくれ。
嫉妬に苦しんでくれ
僕と同じ所まで堕ちて来てくれ。
そして___僕を見てもう一度愛してくれと。
刹那___総二郎が部屋に戻ってくる。
膠着した空気の中、総二郎は席に着く。再び交わされる当たり障りのない会話。そして、訪れる静寂
つくしは、隣りに腰掛けた総二郎の耳元に唇を寄せ
「少し酔ったみたい__もう帰りたい」
そう言いながら手の甲に指を這わせてから指を絡み合わせた。
「あぁ。そろそろお暇しようか」
言葉を返しながらも___人前で初めて見せたつくしの大胆な行動が総二郎の心に確証を生む。
つくしの項にキスマークを残した男は、やはりこの男だったのだと。
総二郎の心にも、かつて感じたことのない感情が蠢いていく。
全ては筋書き通りに____
お久しぶりです♡


ありがとうございます♪
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