baroque 71
vague
優しく波が
vague
激しい波に
vague
変わって行く
夜が明けていく。
水面に太陽の輝きが反射してキラキラと輝きだしている。
夜明けと共につくしの身体がどこかに行ってしまいそうで、総二郎は強く強くつくしを抱き寄せた。
「…うん?」
寝ぼけ眼のつくしが柔らかく総二郎に微笑みを返す。
いつも通りのつくしの筈なのに__この顔を薫にも見せていたんだという思いが突如沸き上がり、どうしようもない程の嫉妬心が総二郎の心に沸々と沸き上がっていく。
嫉妬心を隠して、つくしの額にそっと触れるようなキスをして立ち上がる。
「いい天気だな。あとで海岸でも散歩するか?」
「あっ、うん」
満面の笑みを総二郎に返しながら、手渡されたガウンを身に纏いバスルームに向った。
シャワーを浴びて出てくれば、総二郎の淹れたコーヒーのいい香りが漂っている。
「良い匂い」
鼻をヒクヒクと蠢かせ匂いを嗅いでいる。
そんな何でもない光景に総二郎は幸せを感じる。
「先に飯食うか?」
つくしが嬉しそうにコクンと頷けば、総二郎がニコリと笑いながら冷蔵庫から色鮮やかなサラダを取り出し、ホワホワと湯気のたつスープとバケットと共にテーブルに並べて行く。
「「頂きます」」
二人で両手を合わせ食事の挨拶を交わし合う。
美しい所作で美味しそうに食べるつくしを見つめながら総二郎はくすりと笑う。
「うんっ?どうしたっちゃ?」
「すげぇ美味そうに食うなって思ってさ」
「総が用意してくれたんだもん美味しいよ」
昨日の事などなにもなかったように幸せな空気が二人を包み込んでいく。
ザブーン ザブーン
波の音が谺する。
手を繋ぎ浜辺を二人で歩く。
総二郎の手から、つくしの手が離れ駆け出して行く。
「つくしっ」
総二郎の声など聞こえないように何かを拾い振り向いた。
「見て見て」
満面の笑顔と共に、砂浜に落ちている桜貝を手に取って大切そうに光に翳す。
ドクンッ
手から離れた温もりに、つくしの笑顔とは真逆に総二郎の心に身を切り裂かれるような痛みが走る。
大股でつくしに近づき、つくしの手を乱暴に取り
「勝手に走っていくな」
「あっ、......うん。ごめんなさい」
ビクッ
荒げられた声につくしの肩が細かに揺れた。
「……大声出して悪かった」
「あっ、ううん。あたしこそごめんなさい」
穏やかな空気は一転して気まずさに包まれながら無言のまま歩を進めた。
ザブーン ザブーン
寄せては返しながら次々に波が新しい物に変わっていく。
ザブーン ザブーン
波の音だけが聞こえる。
ありがとうございます♪
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