baroque 74
恋に焦がれて鳴く蝉よりも
鳴かぬ蛍が身を焦がす
あなたは、まだそれの本当の意味を知らない。
「つくしっ」
尖った声で名前をばれ、つくしが後ろを振り向いた瞬間__乱暴に腕を掴まれた。
引き摺られる様に後ろを歩き、車に押し込められた。
「何楽しそうに他の男と話してんだよ」
総二郎が美しい顔に険を滲ませ忌々し気に言葉を吐き捨てる。
「何って……今度の打ち上げの話しだよ。ほらっ、あたし幹事になったって話ししたでしょ?」
「もう一人が野郎だなんて聞いてねぇよ。それにその服短過ぎじゃねぇの?」
「……」
「都合が悪くなるとだんまり……か?」
「だんまりって......これ、総が可愛いっていってくれたワンピースだよ。学校の帰りに一緒に出掛けようって言うから着てきたのに」
哀し気な瞳で見つめられれば、それが無性に腹立たしくて醜い嫉妬だと解っているのに___総二郎は言葉を止められない
「はんっ、どうだかなっ」
「総、酷いよ」
ヤメロと総二郎の理性は邪魔をするのに
「酷い?どっちが酷いんだよ?他の男のキスマークつけながら抱かれる女と俺と?なぁ、どっちが酷いんだよ」
言わずにいた、いや、言わないと決意をしていた言葉を投げつけていた。
つくしの大きな瞳が悲しみ色に埋まっていく。悲しむ顔などみたくないのに、キラキラと輝く笑顔を見たいと思っているのに、苦しくて苦しくて____醜い姿を晒す。
それが嫌で嫌で堪らないのに、一度蠢き出した嫉妬心は肥大していく。
「……総だってあたし以外に沢山のひとを抱いたでしょ?」
「あぁ、抱いたさ」
「…スンッ…スンッ」
涙が流れ出ない様に、下唇を噛み鼻を啜り上げる。
「だったら、一緒でしょ?なんであたしだけ責められるの? それに、あたしは、あたしは、薫を裏切って総を選んだんだよ」
薫の名前が出てきて、自分の憶測はやはり正しかったのだと総二郎は知る。それと同時に__我に返る。
無言の時間が二人を覆う。どれくらい経ったのだろうか、総二郎が口を開く
「……ワルい。俺、お前の事になると自制心がきかなくなる。俺、カッコ悪いよな……もう呆れたよな」
愛を乞うように、総二郎の切れ長の美しい眼差しがつくしの眼を見つめる。つくしは静かに首を振り
「総が好きだよ」
好きだよの言葉に喜びが溢れて行く___この愛を無くしたくない。いや無くせない。
総二郎はつくしを強く抱き締め唇を貪った。
この日から、総二郎がつくしの行動に関してとやかく口にする事はなくなった。ただ___身体に色魔が取り憑いたかのように総二郎は、つくしを抱き潰すのだ。
抱いても、抱いても枯渇する思いに捕われ、狂ったように抱き潰すのだ。
*-*-*-*-*
「…つくし、つくし、何ボォーッとしてるの? って、あんた、随分と顔色悪いけど大丈夫なの?」
「あっ、うん」
返事はしたものの、目の前がクラリとして____つくしは目を閉じた。
ひんやりとしたインディゴちゃんの手が額に触れる。
「うわっ、すごい熱じゃないの」
「うぅーーん。気持ち良い」
「気持ちいいじゃなかとよ。もうこの頃こんな事ばっかりじゃないの」
「夏___バテかな?」
「夏バテの前にちゃんと寝てるの?__ハァッ、あんた、凄い顔してるとよ。取りあえず、医務室の先生に今来てもらうから。暫くここで横になってなさいな」
「…うん。……ねぇ、インディゴちゃん」
「なぁん?」
「あっ、うんっ、パステルのプリンが食べたいな」
インディゴちゃんはクスリと笑いながら、つくしにケットを掛けなおし
「あとで、上谷さんに買ってきて貰うから、今は寝てなさいなっ」
掛け直したケットの上から、トントンと赤ん坊をあやすように一定のリズムを刻み軽く叩く。
つくしは、深い眠りに落ちていく。
ありがとうございます♪
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