ずっとずっと 71
フランスに旅立ったのは、ようやく秋を感じる頃だった‥…フランスで俺を待ち受けていたのは、怒濤の日々で‥…仕事漬けの毎日で、牧野からの連絡がないのも司と上手くいっているからだろうと高を括っていた。
牧野の誕生日の翌日、司の婚約発表のニュースが流れた時の驚き‥…やりかけていた仕事を放り出すワケにもいかない状況で,心ばかりが急いていた。
牧野が泣いてる気がして‥…全てを投げ打って何度、日本に戻りたいと思った事か。
司の婚約パーティーの招待状が届く。
司には聞きたい事が沢山あった。いざ、司の顔を、瞳を見たら何も聞けず、何も言えず‥…当たり障りのない会話しか出来ずにパーティーはお開きになった。
今回のパーティー出席の一番の目的が、花沢の取引相手のLUCYの宝珠会長との会合。中々会えないような人物で、親父は嬉々として上機嫌だった。皮肉な事だが、道明寺財閥とも一緒に行う大きな仕事もLUCY宝珠会長の口添えで、決定した。
そのお陰で、今回すんなりと日本に来る事が出来た。
全てがシナリオ通りとも知らずに、牧野に会えると安堵した。
***
牧野が指定した待ち合わせ場所に到着する。
入り口で名前を告げ、部屋に通される。
「類‥…連絡しなくてごめんね」
懐かしい笑顔で、牧野が俺に言う。
「牧野‥…俺こそ直ぐに来れなくてごめん。」
「あたしね、ここで、バイトしてた事があるんだよ。」
そう言って話し始めた牧野‥…
「類にも皆にも言ってない事が大事な事があるの。先ずはそこから話さないとね」
俺は、牧野の話しに耳を傾ける。
「あたしね、もう【牧野つくし】じゃないんだ。 パパもママも進も【牧野】じゃないんだよ」
牧野が一番に話し始めたのは、【星野つくし】になった事。
それで【牧野つくし】を問い合わせても見つからなかったのかと思いあたる。
「名前が変わったのを隠すつもりはなかったんだけどね‥…慣れ親しんだ名前だったから、類には【牧野】って呼ばれていたくて、何となく言えなかったのゴメンね。パパもママも同じ気持ちだったのかな。」
名前の事を皮切りに、京都で過ごしてきた3年近い年月の事を語りだす。俺が知っている事もあれば、全く知らない事も沢山あった‥…
「牧野あんたって、どこにいようが何しようが、相変わらずあんたなんだね。」
「えへっ、そうなのかもね。薫にも良く言われてるよ。」
牧野が、無意識に度々口にする薫の名前。 この時俺は、それが【宝珠薫】の事だとは気付かずにいた。
「類、ジュエルグループって知ってるよね?」
唐突に牧野が聞いてきた。
「うん。この前、ジュエルの筒井会長にお会いしたよ。」
「あたしの目下のバイト先、実はジュエルなんだ。」
ジュエルの筒井会長との出会いと、筒井会長の元で、働く事になった経緯を教えてくれた。
驚く俺に、追い打ちをかけるように、牧野が聞く
「類は薫の事も知ってるよね?」
牧野の話す カオル が 宝珠薫 と結びつかず‥…
「KAGURAの婚約者だっけ?」
「あっ、ごめん‥LUCYの宝珠薫。」
牧野の口から、NYで出会った美しい男【宝珠薫】の名前が出た。
次の瞬間‥…
「あたしね、薫と暮らしているの。3月には婚約発表する予定でいるの」
牧野の口から出る言葉は、異国の人の言葉のようで‥…
一体何を話しているのか理解出来ずに呆然としてしまう。
「ビックリさせちゃったよね? 類にはしっかり自分の口から言いたくて‥…あっ、黙ってたワケじゃないんだよ。婚約する事に決まったのはNYに行ってからだから。」
そうか、司の婚約パーティーで宝珠薫が語っていた 想い人 は、牧野の事だったんだ。
同時に、俺は全てを理解する。もう既に俺は、俺等は、LUCYのジュエルの蜘蛛の糸に絡めとられていたんだと‥…
嫉妬も手伝ったのだろうか?
一番聞きたくて、でも、傷つけてしまいそうで聞けずにいた事を、牧野に聞く。
「司の事はもういいの?」
憂いを含んだ瞳で僕を真っ直ぐに見据え、牧野が答える。
「狂おしいほど、今でも好き。愛してる。」
「だったら何故?」
俺は、牧野に聞く
「あたしが崩れそうになった時に、傍にいてくれた人が居たって、この前の電話で話したよね?」
「あぁ‥」
「それが、薫なの、」
永遠に続くと思っていた、司と牧野。俺は2人を見守る決意をして日本を離れた事を深く深く後悔した。
これは、得る事の出来なかった牧野への燻り続ける思いだと解りつつも、俺は牧野に聞く
「牧野あんたは、それで幸せなの?」
「クスッ幸せ?幸せって何?」
俺の質問に質問で答える牧野。
俺の答えを待たずに、もう一度クスリっと微笑んだあと‥…
「どうなんだろうね?良く解らないや。でも、あたし幸せになりたいと思ってる。」
憂いを帯びた微笑みは、俺の心を揺さぶる‥…
意識をせずに、牧野は時折ひどく心を踏みつける。
なのに...麻薬のように、俺は、牧野を求める...
刹那
「類、あたし幸せになって良いよね?」
俺の大好きな満面な笑みでとどめを刺してくる。
だけど俺は、あんたの幸せを祈らずにいられない
あんたの輝く笑顔が好きだから‥…
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