巡り逢い 15
迎えの車に乗せられて、そう声をかけられた瞬間____司は、無意識につくしの腕を掴んで車の中に引き摺りこんでいた。
つくしが抗う暇もなく、車は走り出した。つくしの匂いに安堵するかのように司は身体を預けた。
心の安息からなのか、痛みから解放された司に、普段感じる事のない眠りが訪れる。
「えっ? ちょっ、ちょっと」
身体を揺すろうが、つねろうが司はよく眠っている。
「ハァッ、参った」
思わず大きな声で口にして……そのあと小さく溜息をつき、つくしは自分の膝で眠る司を見た。
望んで、望んで、望んでいた男がここにいるのだ。何とも形容しがたい気持ちがフツフツと沸き上がり、心が掻き乱れるのだ。
「なんで……いまさら」
掠れた声で口にして、車窓の外を見る。ぽっかりと空に浮かぶ月が禍々しいほどに赤く光っている。
つくしの温もりを感じて司は夢を見ていた。蕩けるように甘美な夢を。
RRRR
「……また、サイレントにでもしてるのかな?」
クスリと笑って、類はスマホを置いた。
サイレントで何度やきもきさせられたことだろう。クスリと笑う余裕が出てきたのは、つくしが類の愛を受け入れてくれてからだ。
「あっ、違うか……一回それで大喧嘩してからか。って、あん時は俺が最初に怒られたんだっけ」
喧嘩した日を思い出し類の瞳が弧を描く。
ジョアと戯れてたら眠たくなって、ちょっとだけのつもりがぐっすり寝てて、両親との約束をすっぽかす形になってたんだっけ。来れない筈のつくしが何故か代わりに何度も連絡してきていて、気がついたら、俺の前で仁王立ちしていたんだ
「お父様とお母様がどれだけ楽しみに待ってたと思ってるの!電話くらい出なさい!って、そこにあるのになんで出ないの!」
「……ごめん、サイレントになってた」
全く信じられないだの何だの言われて
「つくしなんて、いつもじゃん」
余計な事を言い返したら、鬼の形相で
「いまは、そんな話ししてない!」
で、初めての大喧嘩。
一度喧嘩をしたからか、そのあとは、くだらないことで言い合えるようになった。くだらないことで言い合って、他愛もないことで笑いあう。
そんな日々が、くすぐったいほどに心地よくて……幸せでたまらないのだ。
類は、もう一度クスリと笑って仕事に戻った。
「いかが致しましょう」
困りきった顔でそう聞かれ……道明寺別邸の車庫の中でつくしは、司に肩を貸した状態になっている。
何度か身体揺すってみたが、うんともすんとも言わない。つくしが離れようとしても、重たい身体は動かない。
いや、離れようとすれば……眠っている筈の腕に力が入り、つくしの身体を離さないのだ。
「ハァッ」
全くもって予想外の展開で、つくしは、何度溜息をついたことだろう。なのに……お酒の酔いも手伝って、いつの間にか眠ってしまったのだ。
甘い匂いを感じて微睡みの中、目を開ければ、つくしが自分を膝枕した状態で眠っているのが目に入ってくる。
何故?コイツがここにいる?
今いる状況がわからずに、司は昨晩の自分を必死で思い出せば、激しい頭痛のあとの途切れ途切れの記憶がよみがえってくる。
そして知る_____薬も使わずに眠れた自分を。そればかりでなく安堵を幸せを感じた自分を
- 関連記事
-
- 巡り合い 16
- 巡り逢い 15
- 巡り逢い 14
- 巡り逢い 13
- 巡り逢い 12
- 巡り逢い 11 類つく
- 巡り逢い 10 類つく