金魚とトマトと初恋と 後編
「なっ!なに言ってんだ!プレゼントなんか受け取りやがって!俺以外の男から受け取るんじゃねぇー‼️」
「‥俺、ピーマン嫌い」
「つくしちゃん、モテモテじゃん」
「まぁまぁ、止めろって。コイツビビってんじゃねーかよ。」
なんだ?このカッコいい人達は⁉︎
モデルのようにカッコよく個性的な髪型の人。
クルクルしてる。あれ?あのクルクルどこかで見た事あるな?う~ん。
ピーマン嫌いって、俺より年上だよな?
何でも食べないと大きくなれないんだぞ!って母さんがそう言ってたけど‥この人180cm、超えてるよね?
黒髪の人は、なっなっ何だか、怪しい雰囲気だ////
ぼ、僕を見つめないで欲しい////
ウェーブの人は俺を気に掛けてくれてる様だけど、ずっとニヤニヤしてる。何で?
はっ!!
「僕は怪しい者じゃ、あ、ありません!つくしさんにお礼を、と、届けに」
ひぇっ!!
クルクルした人が両手をポキポキ鳴らしてる!
「司、止めろって。どう見たって中坊だろうが」
「その中坊が何のお礼か知らねーけど、昨日の今日に《わ・ざ・わ・ざ!》持って来たと!怪しーなー。ふふん」
うわっ!!
黒髪の人のニヤニヤがパワーアップして怖い!///
フェロモンっていうの?
「何だとぉぉぉ!!」
こっちもだ、クルクル怖い!!
「‥‥もしかして、好きになったの?牧野の事」
////ピーマンの人!何て余計な事をっ!!
「牧野モテモテだな」
「何言ってるの!そんな事あるワケないじゃない!勝手に想像して冷やかしたら可哀想でしょっ!まだ中学生なんだからね!」
お、俺の初恋が‥‥。2日で、終了?望みないの?
「「牧野おぉ!!」」
「お前は何てヤツだ!」
「幼気な少年の心を!」
ウェーブ&黒髪が俺の事可哀想に思ってるみたい。空を見上げて顔を手で覆って頭を左右に振っている。
クルクルは、目がつり上がってる。
薄茶は目を閉じてる?えっ?寝てるの?
「少年よ、悪いが牧野はこんな奴だ。男心なんざ理解出来ねぇーんだわ」
「まぁ牧野には男がいるしな。お前に勝ち目はない。諦めてくれ」
つくしさんじゃない人に断られたの?俺。
こ、こんなの悲しすぎるよっ!!
「‥‥告白しちゃえば思い残す事もないんじゃない?」
はっ?! ここで?
初めて会った人が4人もいるところで?
ピーマンの人起きてたのっ?
「おぉ!それいいんじゃね?司も許してやれよ。少年の思いを昇華させてやれ。牧野は司が好きなんだからよ」
「「/////」」
「俺達がいる。大丈夫だ。遠慮なく言えよ」
ポンポンって頭を撫でてくれたけどっ!
励ましてるって事っ?慰めてるって事っ?
な、なんだよっ!!
言ってやる、言ってやるぞ!告ってやるっ!
俺だって男だっ!
「つ、つくしさん!き、昨日あなたのキラキラした瞳と笑顔を見て、す、好きになりました!ひ、一目惚れです!はっ、初恋です!」
「パ、パンダ君?////」
「つくしさんが大好きです!!」
思いっきり目の前で、しかもこんなにカッコイイ人を後ろに並べてなんてこと言ったんだろっ!
赤くなったのはつくしさんじゃなくて俺の方だった!
でっ…でも、この人達に言われたからじゃないからね!
俺だってこの人達に負けない気持ちがあるんだって伝えたかったんだっ!
そ…そりゃ、たったの二日間だけどさ!
恋に日にちなんて関係ないっ…そう思って頑張ったのに何故かつくしさんは固まったままだ。
大きな目を俺に向けて、おまけに口まで開けてびっくりされてる気がするんだけど。
…あれ?こんな時どうするの?も…もう1回とかないよね?
好きだってはっきり言ったよね?絶対、俺…耳まで赤いんじゃないの?
「牧野…パンダ君、あんたの返事待ってるんじゃない?」
「男を待たせるなんて牧野も随分成長したじゃん?焦らしてやんなよ!」
ピーマンの人と黒髪の人がクスクス笑ってつくしさんに声を掛けたら、ハッと我に返ったように瞬きを始めたんだ。
「あ、あのっ!僕は真剣ですっ!冗談なんかじゃなくて…その、年下だけど、運動部でもなくて、持ってこれるのも野菜なんだけど…それでも本気なんですっ!」
自分でもカッコイイとは思えないセリフだ。でも、この時の俺はつくしさんしか見えてなくて、昨日と同じ笑顔が見たくて夢中で喋っていたんだ。
暫くしたらつくしさんがニコって笑ってくれた。ホントに優しく…。
昨日みたいに弾けた笑顔じゃなくて、少し照れたみたいに。
「ありがとう、パンダ君…でも、ごめんね。今の君と同じ想いを私も持ってるの…彼にだけどね」
つくしさんが見てるのは後ろに並んでる中のクルクルしたあいつだ…
そっか…やっぱり俺、振られたんだ。ほんの少しでも期待した俺ってバカだった?わかってたよ!こんな人達に敵わないって事ぐらいっ!それでも伝えたいって…そう思ったんだ!
ぐっと握った拳はつくしさんに見せないようにした。俺が悔しがってるなんて思われたくなかったのかもしれない。
でも、次の言葉が出なかった。
いきなり俺の頭をガシッと掴んだのはクルクルだった!
「なっ…何するんですかっ!別に僕は落ち込んだりしてないですからっ!」
「ばーか!てめぇが落ち込むのは勝手だが一言だけ褒めてやろうと思ったんだよっ!」
「は?ほっ…褒めるって?何を?」
「女を見る目があるじゃん…って事だ!」
は?…それって褒められてるの?それとも惚気てるのっ?!
呆れたような顔で横を向いたピーマンの人は何故か俺とおなじく面白くない顔してる。
「お前がもう少し大人だったらこの後、お兄さんが次の恋の探し方教えてやるのにな!」
「いや、今からでもよくね?失恋ってのは新しい恋で癒やすもんだ!」
黒髪とウエーブは俺の両側に立ってそんなふざけた話をしたけど、肩を組まれたら小さな声で「よく言った!」って…。
「パンダ君、今の言葉、全部嬉しかったよ!素敵な告白…ありがとう!」
俺は絶対に泣かないからな…!
目の前のつくしさんが少し歪んでるけど…俺は男だから!!
下を向いて歩いて堪るか…!そんな気持ちで家に向かった。
俺の手には母さんに渡す野菜の袋がガサガサと音をたてて揺れていた。
***
家に帰って、野菜を台所に置くと、母さんのおかえり~って声に返事もせず、すぐ部屋に籠った。
ベッドに寝転んで、腕で顔を隠して、涙をこらえた。
つくしさんの笑顔が、言葉が、次々浮かんでは消えていった。
「パンダ…何かあった?」と母さんの声がした。
部屋に入ってきた心配そうな母さんの顔を見た途端、涙がこぼれ出た。
「母さん、俺…、俺…」
母さんに縋りついて、ワンワン泣いてしまった。
俺、つくしさんが好きだったよ。
でも、振られちゃった…。
---母さんは何も言わずに俺を抱きしめてくれた。
「俺さ…、俺…。」
そればっかり繰り返す俺を抱きしめてくれる母さんの腕の中は、あったかくってやさしくて。
ときおり、ぽんぽんと背中を叩いてくれる感触はなんだかとっても懐かしい温もりに満ちていて。
俺は小さな子供みたいに、ただただずっと泣きじゃくってた。
「パンダ、いつの間にか“僕”じゃなくて“俺”って言うようになったんだね。」
しばらくして、ようやく口を開いた母さんが言ったのは「どうしたの?」でも「何があったの?」でもなく、そんなひとり言みたいな台詞で。
俺はちょっとびっくりして顔を上げた。
「ん。確かにちょっと大人の男の顔になった。」
きゅっと鼻を抓まれて、思わず眉をしかめた俺を母さんがにっと笑ってのぞきこむ。
(あっ、この笑顔。)
その瞬間、なぜか目の前の母さんの笑顔がつくしさんの笑顔にうっすら重なった。
ひまわりみたいに明るくて。
お日様みたいに眩しくて。
もぎたてのトマトみたいにキラキラしてる。
―――俺の大好きな、笑顔。
「成長したね。パンダ。」
にこにこ笑って、うんうん頷いてる母さんは、やっぱりなんにも聞いてこない。
「嬉しいなあ。パンダがどんどんいい男になってくみたいで。」
――あ、でもちょっとさみしいかも?いやいや嬉しいよ。うん。
そのうち勝手にブツブツ一人問答みたいなことがはじまって。
そんな母さんを見てたら、いつの間にか涙はどこかへいっちゃって、代わりにおなかの奥から笑いがこみあげてきた。
「母さん、もう子どもじゃないんだから鼻抓むのやめてよ」
俺を見る母さんの目があまりに優しくて嬉しそうで、でもそれが少し気恥ずかしくて、笑いを堪える顔を隠すようにぷうっと頬を膨らました。
「子どもだよ、いつまでも……ずぅーっと。私にとってはね」
今度はポンポンと頭を軽く撫でられる。
俺のこと全身で包んでくれるとことか、笑うとフッて細まる目元とか、そういうとこもつくしさんを思い出させる。
二日で振られたけどさ……俺にとってはちゃんと〝恋〟だったよ。
思い出したら、またちょっと胸がチリっと傷むけど──毎日笑顔の絶えない母さん見てたら、母さんを選んだ父さんって凄いな、きっとつくしさんが笑顔でいるためには、あの人が必要なんだろうなって思えた。
***
どうして、今になってこんなことを思い出したんだろう。
ああ、そうか──。
「このゼリー、美味しいね」
透明なゼリーの中で赤い葉が揺れる。
まるであの夏の日の金魚のように──。
口の中で程よい甘さが広がった。
俺はゼリーを飲み込みながら、目の前で柔和な笑みを浮かべる母さんに言った。
きっと、トマトやゼリーを食べるたびに思い出すんだろう、あの夏の日の出来事を。
パッと目の前のカレンダーが目に入る。
ああ、そうだった……今日は。
母さんの記念日だったね。
「母さん……誕生日おめでとう」
fin
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