曇天 9 あきつく
「よっ あきら」
「司、久しぶりだな‥…いつから日本だ」
声を聞いて牧野が顔を上げる‥…
司の冷たい視線と牧野の怯えるような視線が絡み合う‥…
10年ぶりに会う道明寺‥…
この男(ひと)は、あの雨の日の別れをまだ覚えているのだろうか?
あたしが道明寺よりも友達を選び、別れを選んだ日の事を‥…
道明寺と別れを決めたあの雨の日
「お前は俺を一人の男としてみたことがあるか 家のことや母親のこと全部取っ払ってただの男として 見たことが一度だってあるか?」
何度も何度も夢に出てきた‥…あの台詞。この男(ひと)は、まだあたしを憎んでいるのだろうか?
10年ぶりに会う牧野‥…
俺の人生で初めて手に入れたいと切望した女‥…
だけど、おまえは俺よりもダチを選んだ。
そのおまえが何でここに居る? なんであきらと腕くんでんだ?
俺の燻り続けたこの思い、未練? 執着?
はっ、18のあの日から俺は一歩だって前に進んじゃいねぇ。おまえを見て、こんなに動揺しちまってるんだもんな。
「牧野〜美作部長〜」
見知らぬ男が牧野と、あきらの名を呼びこちらに向ってくる。
牧野の瞳が、俺の視線から外される‥…
いつもは、迷惑千万な五木専務‥…
厚顔無恥なこの男の活躍に、あたしは初めて感謝する。
美作さんが、五木専務に会釈をしながら道明寺を紹介する。五木専務と道明寺が挨拶をしあう。瞬間、美作さんが気を利かせ、あたしに囁く
「牧野、悪い飲み物取って来てくれる?」
あたしは、返事をして、3人の男が談話をしているその場を離れた。
あたしのスマホがワンコールで切れる。
会場を出て、スマホを鳴らす。
「はい。えぇえぇ」
穏やかな美作さんの声
「はい。はい。承知しました。ではすぐに‥…」
そう言って一方的に電話が切れる。
飲み物を取り、先ほどの場所に戻ると
「牧野、ゴメンこれから俺とお袋の所に行ってくれるかな?なんか用があるみたいなんだ。」
そう言って、道明寺達に先に帰る非礼を詫びている。
あたしも、2人の男に会釈して、テーブルにとってきたばかりのグラスを置き、美作さんに腰を抱かれ会場を後にした‥…
「突然、ゴメン」
美作さんは、何も聞かずにあたしに謝ってくる。お礼を言わなくっちゃイケナイのはあたしの方なのに‥…
「あたしこそ有り難う。」
2人並んで歩く
美作さんは、あたしに何も聞かず温かく包んでくれる。
あぁ、あたしはこのひとが好き。このひとを愛してる。このひとの紡ぐ時間が、身に纏う優しい空気がたまらなく好き。
「どこかに寄って飲み直さない?」
この時間が愛おしくて、別れ難いあたしは美作さんにそう提案する。
「だったら、俺んちで家飲みしないか?チョコに合うシャンパンがあるんだ。」
ルノールのチョコを片手にそう微笑む。
あたしは、たまらなく嬉しくなって大きく頷く。
ミッドタウンのプレッセに寄って、おつまみとワインを買う。
外に出ると、スターライトガーデンに人々が集まっている。
眩いばかりのイルミネーションが美作さんの顔を照らしてる。
思わず
「綺麗‥…」 そう呟いていた。
2人でタクシーに乗り込み、美作さんのマンションに向った。
「さて、明日は休みだ。とことん飲むぞ!」
ルノールのチョコに合わせてチョイスしたシャンパンで乾杯をする。口当たりが良くってグイグイとお酒すすむ。
ゴルゴンゾーラに合わせて、チョイスしたのは、イタリア産の赤ワイン。
「うーん美味しい」
「マジ、飲ん兵衛コンビだな俺等。」
「だねぇー」
2人で笑い合う。優しい時間が過ぎて行く。
雨の音が聞こえてきた‥…
あたしは、さっき会った道明寺のこと、あの雨の日のこと色々なことを思い出す。
あたしは、美作さんに、ポツリポツリと話していた。
辛かったあの雨の日の出来事を‥‥
皆に話せず、逃げる様に姿を消した理由を‥…
美作さんは、何も言わずにグラスを傾けながら、あたしの話しを聞いてくれる。時折、あたしのグラスにワインを継ぎ足しながら‥…
全てを話し終わった時、あたしの瞳から涙が零れていた。
「牧野、抱きしめていいか?」
美作さんは、そう言うとあたしを胸の中に抱きしめてくれた。優しく包みこむように‥…
あたしは顎を上げ、美作さんを見つめ瞳を閉じる。
美作さんのキスが降りてくる。
優しく甘く蕩けそうな口づけが‥… 降りてくる。
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