無花果 ~過去02~ 類つく
あなたが好き。この先、決して口にすることはない言葉を胸にしまって……
彼の舌が、指が、肌を這う。幾度も幾度も貫かれて、あたしの全てが彼に染め上げられていく。
彼が寝入ったのを確かめてから、床に散らばった服を着た。血で汚れたショーツをそのまま履くことに抵抗があったけれど……下着を履かずに帰る訳にはいかないから。
逃げるように彼の部屋を出た。屋敷の外に出て、ここからなら歩いて帰れると安堵した。
勢いで部屋を出たものの、バックの中には、電源が切れた携帯だけでどうしようかと考えていたのだ。
「うーん、内緒で見に来てたのが役に立ったよね」
独り言のように呟いて笑った。
「……ハッハッ……ッスン、ッスン……ウゥッ、ッスン」
なのに、乾いた笑いしか出てこなくて、冷たいなにかが目から滴となって落ちていく。
痛む身体を引きずるように歩き続けた。家に帰り着いた時には、暗闇が朝靄に変り、履いていたミュールの踵が磨り減っていた。
パパ達が旅行中で良かったと思いながら、ゴミ袋に身に付けていた全てのものを丸めていれた。そのままの勢いで、部屋の中のものをゴミ袋の中に突っ込んでいった。大きなゴミ袋八袋分を詰め込んだ所で周りを見渡せば、部屋を彩っていた粗方のものが姿を消していた。台所に掛けられているカレンダーで不燃物の収集日を確認して、シャワーを浴びた。
次の日の夕方、パパとママと弟の三人が帰ってくるまで死んだように眠った。
あたしには、小さな頃からある日突然思い立ったように大掃除する癖があったから、三人はゴミ袋の数を見て笑った。
「今回は、また思い切りよく片付けたもんね」と。
その言葉に、あたしは多分上手に笑えたと思う。
これがあたしのロストバージンの思い出だ。
連休明け、いつものように朝を迎え、いつものように日常に戻っていく筈だった。
木曜の夜、見知らぬ番号から電話が掛かってきた。訝しがりながら通話を押せば彼からで……場所と時間を告げられた。黙ったままのあたしに彼は
『牧野つくし16才か。へぇ、あんた、随分と進学校に通ってるんだね。
そうそう、明日は友達の家にでも泊まるって言っておいてよ。ねっ』
愉しげに言葉を発して電話を切った。
次の日……エントランスで部屋番号と自分の名を告げ、直通エレベーターに乗り込んだ。
チャイムを鳴らして部屋に入った。生活臭の欠片もないホテルのような空間だった。
彼は、「制服プレイもおつかな?」そう言いながら、ブレザーを脱がし、ネクタイを外していく。
滑らかな指先がスカートの裾から太腿を撫で上げる。身体の奥から温かなものが湧いてくる。
彼は、クスリと笑いながら
「やっぱりあんた、凄い淫乱だよね」
恥ずかしくて、恥ずかしくて瞳を閉じれば、瞼の上にキスを落とされる。甘美なキスに心が震える。
シャツの鈕が外されて、パチンッとブラのホックが外される。シャツと共にブラを脱がされ、あたしの小さな胸が露になった。
両方の掌で螺旋を描くように乳房を揉みあげる。優しく時に強く強弱をつけながら。なのに固く尖り始めた乳首には、触れようとしない。もどかしくて、もどかしくて堪らなくなった、あたしの呼吸は乱れ、身体は熱をます。
「俺の目を見て、欲しいって言いなよ」
言葉と共に熱い吐息が耳にかかり、身体が一層その先の刺激を求める。
目を開いて彼を見る。震える声で
「欲…し…い」
と口にした。
彼は唇の端を上げ、乳首を捏ねるように摘まみあげた。焦らされた身体は全神経をそこに集中させる。ビクンビクンと身体が揺れ、声が溢れる。
「胸だけでイケちゃうんだ。流石だね。そうそう、御堂、静と寝たみたいだよ」
その言葉に彼から目を逸らして。あぁやっぱり、コレはあたしに下された罰なのだと思いながら、ゴメンナサイと心の中で呟いた。
罰は、惨めさと甘美さをあたしの身体に刻んでいく。
幾度も幾度も貫かれて、気を失うように眠りについた。
月明りの中、目を覚まして隣を見れば彼がいた。形のよい唇に、すっと通った美しい鼻梁、長い睫毛で覆われた瞳。無意識で手を伸ばしかけ、慌てて押し止めた。
もう一度目覚めた時には、彼はいず、代わりに流暢な文字で次の曜日と時間が記されたメモがカードキーと共に置かれていた。
少なくても週に一度、あたしは彼と身体を合わせた。
そうやって、あたしの心も身体も花沢類という美しい毒に侵されていった。
*****
「へぇ、つくしも随分と艶っぽい表情するようになったじゃん」
千暁さんに悪戯気に嗤われて……口の端に微笑みを浮かべて振り向いた。
カシャカシャと写真に撮られたソレは、その年の国際賞を獲得した。
つづく
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