明日咲く花

花より男子の2次小説になります。

無花果 〜過去04〜 類つく


夢の中で目覚まし時計がしつこくなり続けるのが聞こえる。夢うつつの中でベッドサイドを探した。いくら手を伸ばしても、目覚まし時計を止められず、同じ動作を繰り返す。

「うっう~んっ、あと5分」

そう呟いて布団に包まったところで、はたと目を覚ました。

目を開けて辺りを見回せば、部屋の中が夕闇に彩られていて、あたしは慌てて起き上がる。素肌の上に彼が脱ぎ捨てたであろうシャツを羽織り、自分の服を探す。

ベッドの周りには見つけられず、部屋を出てリビングを探す。服も鞄も見当たらない。時計の針は5時を指している。逸る心を落ち着けるように、深呼吸を一つした。

気配を感じて振り向けば

「おはよう。シャツ姿っていうのも中々そそられるんだね」

ワインのボトルを手にした彼が声をかけてくる。

「花沢さん、あたしの服と鞄知りませんか?」

「さぁ、知らないな」

知らないわけがないだろうに、彼はニッコリと笑って、手にしていたワインを瓶のまま口に含む。

「花沢さん、本当に知りませんか?」

あたしはもう一度同じ言葉を口にする。

「うん。知らない」

彼は、天使のような微笑みを浮かべ平然と嘘を言う。

どうしよう。どうしよう。あたしの頭の中は、そんな言葉が渦巻く。

「服、返してください」

「うんっ? あんたの服なんて知らないよ」

あたしは、泣きそうになりながらもう一度、服を探す。

どうしよう。どうしよう。どうしよう。

時計を見れば、5時15分を指している。ここからコレットまで10分もあれば着く筈だ。千暁さんが用意してくれている筈の服に着替えれば、約束の時間には充分に間に合う。

「花沢さん、お願いです」

彼は、黙ったままワインを口にする。

「ねぇ、そんなに御堂との約束が大事? 何度も言うけど御堂と静は、付き合ってるんだよ」

時計の針がカチコチと動いている。それと共に胸の鼓動が速くなる。

「服、返してください。あたし、あたし、困るんです。お願いです。服、返してください」

あたしは床に膝をつき懇願する。

「じゃ、してよ」

彼があたしの前に立つ。あたしは、鈕を外しジッパーを下げ、彼のモノを貪るようにしゃぶった。

静かさの中であたしに聞こえるのは、カチコチと響く秒針の音。

「もういい」
声と共に足蹴にされたあと。

「あっちの部屋に置いてある」

彼は冷たい目であたしを見下ろし、忌々しげに鍵を投げつけた。銀色の金属があたしの頬をかすめ床に落ちる。あたしは這いつくばるように鍵を拾い上げる。

カチコチ、カチコチ、時計の音だけが頭の中をこだまする。


隣の部屋に置かれていたのは、あたしが着てきた服でも、持ってきた服でもなくて、光沢のある生地で作られたボルドー色のワンピースだった。

周りを見回しても他の服はない。躊躇する時間ももどかしくて、あたしはワンピースに袖を通した。今まで着たことのないような大人っぽいデザインなのに、誂えたかのように身体になじむ。

着替えが終わって部屋の外に出た時には、彼の姿はもうそこにはなくて残り香とワインの空き瓶だけが転がっていた。

ボトルをテーブルの上に置き、あたしは部屋を出た。

エレベーターに乗り込み携帯の電源をいれた瞬間、電話のベルがけたたましく鳴り響く。ディスプレイには千暁さんの名前で、あたしは、間に合ったと安堵しながら通話ボタンを押した。

場所を告げ迎えに来て貰う。千暁さんは、あたしを上から下まで見たあと

「それなら、このまんまで大丈夫だな。少し急がないと厄介なことになるからな」

そう呟いたあと、目的の場所である千暁さんの実家に向かった。千暁さんの本当の名前は、〝櫻之宮 千暁〟と言う。櫻之宮財閥の御曹司だ。本来ならば千暁さんが櫻之宮の正当な跡取りなのだが、千暁さんは、櫻之宮の名を嫌い父親の旧姓の御堂を名乗っているのだ。

櫻之宮の屋敷の前に降り立ったのは、6時を少し過ぎていた。
屋敷の前には、美しい親子が、沢山の使用人とともに、あたし達を今か今かと待ち受けていた。車を降りた瞬間___瞳子おば様があたしの元に駆け寄り、いつから外にいたのかわからないほど冷たい手であたしの手をとり

「いまね、警察に連絡をしようとしてパパと万里からから止められていた所なのよ」

朗らかな笑顔で背筋が凍りそうな事を口にする。

「万里がね、約束時間も早めたんだし、女の子には僕達と違って用意があるのだから、もう10分だけ待ちましょうって」

あたしは乾いた笑いを浮かべながら、彼の家を出るのがあと少し遅れていたら大変なことになるところだったと恐怖した。


テーブルについたあたしに

「つくしちゃん、17才のお誕生日おめでとう」

おば様とおじ様が合わせて口にする。

「つくし、おめでとう」

万里くんが後ろからあたしを抱き締めて口にする。

「おっ、バンリ、つくしは俺のだ。シッ、シッ」

千暁さんが、万里くんを手で払いのけてくれる。あたしが、ホッと胸を撫で下ろした瞬間

「つくし、フレグランス変えたの? 兄さんのじゃない香りがしてるよ」

「……あっ、うん……気分転換にね…」

「へぇ、そうなんだ。でも、それ男性物だよね? つくしには、ちょっと似合わないかな……それに、その服……いつもとだいぶ違うみたいだけど、どうしたの?」

小首を傾げた万里くんに言われて、一瞬、返事が遅れる。横から千暁さんが

「両方とも俺のプレゼントだよ。つくしも17だからな。それに、万里も今回の無花果見てくれたんだろう?」

万里くんが下唇を噛みながら

「あぁ、見たよ。随分と高い評価されてるみたいだけど、自分の大切な彼女のあんな表情___恥ずかしげもなく良く出せたと感心したよ」

千暁さんは、あたしの髪を指先で絡め

「あぁ、つくしは俺の自慢の彼女だからね。この髪もこの肌も全部が俺のもんで、万里のもんじゃない」

ニコリと微笑んでくれた。


つづく
関連記事
スポンサーサイト



6 Comments

asu">

asu  

yukiちゃん

おっ、18は素で間違えた(笑)
アハハッ ありがとう❤

そうそう、嫉妬は身を滅ぼすよぬ。
好きなら好きを表さないとね

2017/11/29 (Wed) 15:59 | EDIT | asuさん">REPLY |   

asu  

さとちゃん

アハハッ
そう言って貰えて良かった(笑)

過去編がなんだか長くなりそうで
ちょいビビりながら書いてる(笑)

2017/11/29 (Wed) 15:57 | EDIT | REPLY |   

asu  

凪ちゃん

おぉ、一回戦おめでとうだ。
頑張ってるのね。
ちびまる子ちゃんのウルウル可愛すぎ❤


つくし❗アハハッ
類、頑張れだ(笑)

2017/11/29 (Wed) 15:54 | EDIT | REPLY |   

-  

管理人のみ閲覧できます

このコメントは管理人のみ閲覧できます

2017/11/26 (Sun) 13:25 | EDIT | REPLY |   

-  

管理人のみ閲覧できます

このコメントは管理人のみ閲覧できます

2017/11/26 (Sun) 11:36 | EDIT | REPLY |   

-  

管理人のみ閲覧できます

このコメントは管理人のみ閲覧できます

2017/11/26 (Sun) 10:10 | EDIT | REPLY |   

Add your comment