無花果 ~過去05~ 類つく
「あらあら、千暁さんの独占欲ったら。あまり束縛が激しいようだと、つくしちゃんに愛想つかさられてよ。ねぇ、つくしちゃん」
あたしが答える前に千暁さんは、大袈裟なほどにかぶりを振り
「つくしが俺に愛想を尽かせる
? ない。ない。そんなことないから、安心なさってください。なっ、つくし」
千暁さんは、あたしの髪に絡めていた指を離して、あたしの右手にそっと手を置く。あたしは千暁さんの顔を見上げてから、おば様の目を見てコクンコクンと頷いた。
「そう、それならよかったわ。 万里、万里の出番はなくてよ」
「バンリの出番? 俺が愛想つかれたら、バンリの出番ってことですか? ハハッ、お母様も随分と冗談が上手くなられましたね」
千暁さんは朗らかに笑みを浮かべ、あたしの手の甲を二つ叩く。それに合わせてあたしはニッコリと微笑んだ。
時計の針が10時半を指し示す頃、永遠に感じるほどの長い時間が漸く終りを告げられ、櫻之宮でのあたしの部屋に戻ることが許された。一人で戻ると万里くんが付いてきそうなのと明日の話をするために、千暁さんと二人で部屋に戻った。
扉を閉めた瞬間……千暁さんは部屋の鍵をかけ、あたしは、長い溜め息を一つ吐いた。
「……バンリ、つくしのこととなると、やけに鼻が利くよな。あのあとも、どこのフレグランスだ、服は誰のデザインだとやたら五月蝿かったよな。ハァッ」
大きな溜め息を吐きながら、千暁さんがソファーに腰掛ける。
「……で、つくしは、今日はどこ居たんだ?ってか、昨日からどこに居たんだ?」
「ゆ、優紀なんかと……夜遊びしてた」
「ほぉ」
千暁さんの瞳が楽しげに弧を描いたあと、真面目な顔をして
「まぁ、次回は遅れないように頼むよ。あと、くれぐれもバレないように気を付けろな……ってか、相手はだれだ?」
「だから、相手は優紀達だって……」
「優紀ちゃん、いつからつくしの耳の後ろにキスマークつけるようになったんだ」
「千暁さん、いい加減しつこい。千暁さんだって昨日の夜、誰とどこにいたの? 」
「なっ」
あたしが横目でチラリと睨めば……
「わかったよ。ただ、その相手とは道ならぬ恋じゃないよな? それは、流石にお前の兄貴分としては心配だからな。そういうのはやめろよな」
道ならぬ恋か……ある意味、あたしの恋は、道ならね恋だ。ズキンと心が痛む。なのに、彼を思った瞬間、彼の指先を、吐息を、熱い律動を、全てを思いだし、あたしのナカからトロリとした蜜が溢れ出た。
そして思い出す。目の前のソファーに座る千暁さんは、彼にとって恋敵なのだと。
「ハァッー」
あたしは、もう一つ吐息を吐いたあと
「それより、明日は?」
「あぁ、実は午後から仕事が入った」
「えっ?」
「悪い!さっき連絡が入った」
「あたしも一緒には帰れないよね?」
「悪い!」
答えは一緒で恨みがましく瞳を見つめたあと
「万里くんはいないよね?」
せめてもの望みを託して聞いてみる。
「つくしが居るのにバンリが……出掛けるわけがない」
「アハッ だよね」
あたしと櫻之宮の人々の付き合いは、あたしが生まれる前からの付き合いになる。
パパのママ……あたしのおばあちゃんが櫻之宮のおじ様の乳母をしていて、ママが瞳子おば様付きのメイドをしていたのだ。しがないサラリーマンのパパがこのご時世、首にもならずに働けているのは、櫻之宮家のお陰だ。
本来ならあたし如きが此所にこうしている身分ではないのだけど……瞳子おば様は、あたしが生れたての頃からあたしを溺愛し、執着している。
それでも、産まれてすぐはそれほどではなかった。あたしへの執着が顕になったのは、ママが弟の進を妊娠中に、中毒症で入院することになりどう言った話の流れからか、あたしは櫻之宮に預けられることになった時かららしい。
あたしが帰った晩、瞳子おば様は狂ったようにあたしを捜し回り、娘が誘拐されたと警察に駆け込んだらしい。あまりのことに、心配されたおじ様がおば様を入院させ、同時に裏で手を回し牧野家は、あたしが中学2年になる年まで色んな所を転々とすることになった。
再びの出会いは、当時住んでいた家の裏山になっていた無花果を今まさに食べようとした瞬間だった。
カシャカシャと音がして、振り向けば、カメラを持った千暁さんが立っていた。
ニッコリ微笑んだその顔は、とても懐かしい気がした
あたしが答える前に千暁さんは、大袈裟なほどにかぶりを振り
「つくしが俺に愛想を尽かせる
? ない。ない。そんなことないから、安心なさってください。なっ、つくし」
千暁さんは、あたしの髪に絡めていた指を離して、あたしの右手にそっと手を置く。あたしは千暁さんの顔を見上げてから、おば様の目を見てコクンコクンと頷いた。
「そう、それならよかったわ。 万里、万里の出番はなくてよ」
「バンリの出番? 俺が愛想つかれたら、バンリの出番ってことですか? ハハッ、お母様も随分と冗談が上手くなられましたね」
千暁さんは朗らかに笑みを浮かべ、あたしの手の甲を二つ叩く。それに合わせてあたしはニッコリと微笑んだ。
時計の針が10時半を指し示す頃、永遠に感じるほどの長い時間が漸く終りを告げられ、櫻之宮でのあたしの部屋に戻ることが許された。一人で戻ると万里くんが付いてきそうなのと明日の話をするために、千暁さんと二人で部屋に戻った。
扉を閉めた瞬間……千暁さんは部屋の鍵をかけ、あたしは、長い溜め息を一つ吐いた。
「……バンリ、つくしのこととなると、やけに鼻が利くよな。あのあとも、どこのフレグランスだ、服は誰のデザインだとやたら五月蝿かったよな。ハァッ」
大きな溜め息を吐きながら、千暁さんがソファーに腰掛ける。
「……で、つくしは、今日はどこ居たんだ?ってか、昨日からどこに居たんだ?」
「ゆ、優紀なんかと……夜遊びしてた」
「ほぉ」
千暁さんの瞳が楽しげに弧を描いたあと、真面目な顔をして
「まぁ、次回は遅れないように頼むよ。あと、くれぐれもバレないように気を付けろな……ってか、相手はだれだ?」
「だから、相手は優紀達だって……」
「優紀ちゃん、いつからつくしの耳の後ろにキスマークつけるようになったんだ」
「千暁さん、いい加減しつこい。千暁さんだって昨日の夜、誰とどこにいたの? 」
「なっ」
あたしが横目でチラリと睨めば……
「わかったよ。ただ、その相手とは道ならぬ恋じゃないよな? それは、流石にお前の兄貴分としては心配だからな。そういうのはやめろよな」
道ならぬ恋か……ある意味、あたしの恋は、道ならね恋だ。ズキンと心が痛む。なのに、彼を思った瞬間、彼の指先を、吐息を、熱い律動を、全てを思いだし、あたしのナカからトロリとした蜜が溢れ出た。
そして思い出す。目の前のソファーに座る千暁さんは、彼にとって恋敵なのだと。
「ハァッー」
あたしは、もう一つ吐息を吐いたあと
「それより、明日は?」
「あぁ、実は午後から仕事が入った」
「えっ?」
「悪い!さっき連絡が入った」
「あたしも一緒には帰れないよね?」
「悪い!」
答えは一緒で恨みがましく瞳を見つめたあと
「万里くんはいないよね?」
せめてもの望みを託して聞いてみる。
「つくしが居るのにバンリが……出掛けるわけがない」
「アハッ だよね」
あたしと櫻之宮の人々の付き合いは、あたしが生まれる前からの付き合いになる。
パパのママ……あたしのおばあちゃんが櫻之宮のおじ様の乳母をしていて、ママが瞳子おば様付きのメイドをしていたのだ。しがないサラリーマンのパパがこのご時世、首にもならずに働けているのは、櫻之宮家のお陰だ。
本来ならあたし如きが此所にこうしている身分ではないのだけど……瞳子おば様は、あたしが生れたての頃からあたしを溺愛し、執着している。
それでも、産まれてすぐはそれほどではなかった。あたしへの執着が顕になったのは、ママが弟の進を妊娠中に、中毒症で入院することになりどう言った話の流れからか、あたしは櫻之宮に預けられることになった時かららしい。
あたしが帰った晩、瞳子おば様は狂ったようにあたしを捜し回り、娘が誘拐されたと警察に駆け込んだらしい。あまりのことに、心配されたおじ様がおば様を入院させ、同時に裏で手を回し牧野家は、あたしが中学2年になる年まで色んな所を転々とすることになった。
再びの出会いは、当時住んでいた家の裏山になっていた無花果を今まさに食べようとした瞬間だった。
カシャカシャと音がして、振り向けば、カメラを持った千暁さんが立っていた。
ニッコリ微笑んだその顔は、とても懐かしい気がした
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