無花果の花はうちに咲く ~過去02~ 類つく
何度も何度も繰り返される指の動きに、醜い思いが湧き上がる。
御堂の目が細められ、指に絡めた髪に口付けを落とした瞬間……堪えられず席を立ち上がろうとすれば
「お食事中ごめんなさい……電話が入ったみたいで」
席を立ち上り外に出ていった。御堂は真っ赤なワインを傾けながら
「あいつ、可愛いいでしょ」
自慢するかのように口にした。
「あいつの長い黒髪、白い肌、しなやかな肢体、全て俺が作った俺のもの」
自分のものだと言い切る御堂の言葉に、不快な気持ちが湧き上がる。
静はいつものように笑顔を湛えながら
「あらっ、つくしちゃんは、御堂先生の紫の上?」
静の言葉に御堂は眉をピクリと動かして静を一瞥した。
「……藤堂さんは、案外つまらない返しをするんだね」
冷ややかな声だった。
「あらっ、そうかしら? 紫の上って、世の男性がたの憧れじゃありませんこと? 自分の理想通りの女性に育て上げ自分の伴侶とする」
「理想通りに育て上げるのが男の憧れ?」
「えぇ、自分の好み通り。とでもいうのかしら」
「自分好みに? ……とんだ茶番だ」
「あらっ、それなら何故つくしちゃんを、ご自分で作り上げたご自分のものだなんて仰有るのかしら?
それこそ不快でしてよ」
侮蔑のこもった視線を御堂に向ける。
御堂はたった今までみせていた冷たい表情を和らげ
「藤堂さんは、つくしのことを本当に好いていてくれてるんですね。ありがとう」
朗らかに笑った。
「そうだ、この後、草柳達と呑むことになっているんですよ。草柳、藤堂さんもご存知ですよね?宜しければ花沢さんとご一緒にいかがですか?」
「草柳さん? 久しぶりですわ、是非ご一緒させて頂きたいわ。類、類はどうする?」
御堂に返事を返しながら静がチラリと俺を見る。腕組みしていた手を崩し、片手を前に出しながら
「静、行ってきなよ。俺は先に帰る」
「それじゃ、花沢さん悪いけど、ついでにつくしを送ってやって貰ってもいいかな? あっ、あいつ、ここのデザート大好物なんだよね。悪いついでに、それを食べるのも付き合ってやってくれるかな? じゃないと拗ねるからさ」
拗ねられるのが嫌なら自分で何とかしろと喉元まで言葉が出かかった時、電話を終えた彼女が席に戻ってくるのが見えた。知り合いなのだろか? 店に入ってきた男が彼女に声をかけた。長い黒髪をサラサラと揺らしながら白い歯をこぼす。
一瞬、
男の視線が彼女の身体を舐め回すかのように這った。
御堂が耳元で
「黒イチジクって、食べたことあります? ねっとりと甘く舌に絡みついてくるんですよ」
ほんのすこし間をあけて
「あっ、無花果は内に花を咲かせるんですよ」
緩やかに微笑みを浮かべながら口にする。
彼女が席に戻り、静と御堂が連れ立ち席を立った。
残される俺と彼女。
彼女から輝きが消え、黙り込んだまま下を向き美しく盛られたデザートを食べている。
俯く肩が揺れている。彼女のフォークが最後の無花果を刺す。ねっとりと甘い花を彼女は口にする。
ポタリと彼女が涙をこぼした。
何故泣くんだ?
御堂が静と出ていったのがそんなに悲しいのか?
彼女の白い肩が、長い黒髪が揺れる。彼女は涙を流し続けたまま顔を上げない。
黒い激情が胸を支配する。彼女の腕を掴み、店の前に待たせていた
車に乗せた。
彼女は俺を見ようともせずに下を向いている。
俺を見てくれ。
そして、笑ってくれ。
上手く言葉にできずに彼女の唇を貪るようにキスをしていた。
“痛いっ”
彼女の唇から言葉が洩れ、唇が赤く染まる。
黒髪が、白い肌が、真っ赤な唇が俺の理性を狂わせる。
視線が絡む。彼女の黒い瞳が真っ直ぐに俺を見つめる。
刹那……
御堂の自慢気な顔が頭に浮かぶ
奪え 奪え 奪え 奪え 奪え 奪え 奪え 奪え 奪え 奪え 奪え 奪え 奪え 奪え 奪え 奪え 奪え 奪え 奪え 奪え 奪え 奪え 奪え 奪え 奪え 奪え 奪え 奪え 奪え 奪え
あの男から奪ってしまえと魂が叫んだ。
全身を撫で回しながら背中のファスナーを下ろす。耳朶に舌を這わせれば、彼女の身体が微かに揺れる。太腿をゆっくりと撫でながら、ショーツの隙間に指をいれ、繁みを掻き分け赤く熟れた突起を捏ねる。
ビクンビクンと、彼女の白い身体が大きく波打つ。
蜜が彼女の身体から滴り流れて、小さな嬌声が上がる。感度のよい彼女の身体があの男の言葉を思い出させる。
「へぇ、流石、淫乱だけ合って
感度がいいんだ」
ナカを掻き回す。肉壁は指を締め上げ彼女の身体が陸に上がった魚のように、大きく大きく跳ね上がり潮を吹き上げる。
「……これで、男は釘付けってわけか」
腰を持ち上げ、一気に楔を打ち付ける。熱い肉壁がオレを締め上げる。
あまりの気持ちの良さに、全ての理性が弾け飛び、ただただ快楽のみを追い求め抽送を繰り返していた。
彼女を欲するあまり、俺は沢山の過ちを犯した。
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