baroque 83
つくしを一時も離したくなくて、茶会終わりには、なるべく何も入れずに帰っていたのだか、家元に今夜の会食には必ず出ろと言われ、渋々残ったのだ。
「今夜は仕方ないか……」
そう口にしても、離れていると心配で心配で堪らないのだ。機械にうといつくしのスマホに居場所確認用のアプリを入れているだけでは信用できずに、電話をするときは、所在を確認するように、必ずつくしのマンションの部屋にかけるようになった。
一緒に居るときは、夥しい数の所有の印とともに、足腰が立たなくなるほどに抱き潰す。己でも狂ってる……そう思うのに、つくしへの執着が止まらないのだ。
スマホのロックを外し、画像フォルダに入ったつくしの画像を眺める。笑顔が減った画像に新たに加えたのは、彼女の痴態。手を縛り玩具でよがるつくしの姿、真っ白な肌に紅黒い花びらを散らせ、オーガズムに狂い総二郎の名を叫ぶつくしの動画。
それを見ながら、ゾクリっとするほどに美しく微笑み
「つくしは、誰にも渡しはしない……こいつは、俺の女だ」
己に言い聞かせるかのように、口にする。
コンコン
ノックの音がして、お付きのものから時間だと声がかかる。
鏡で襟元を確かめてから部屋を出た。
艶かしいほどに色気を漂わせた総二郎を、女達だけではなく誰しもの目が奪われる。
不思議なもので、浮名を流し巻くっていた時よりも、艶やかで色香を放っている。それは、茶の湯にも繋り、もともともっていた才能を開花させ、鬼才を放ち始めているのだ。
古参達の期待は高まり、相手の調査がすぐに行われた。多少、出自に問題があろうとも、西門に所縁のある者の養女にして迎え入れたらどうだとまで、話が持ち上がったのだ。
相手が悪かった。
いや、本来なら、不服はないどころか、願っても止まない縁だ。
世界的企業であるジュエルHDの養女とは言え一人娘な上に、白泉出身で生徒会長まで務め上げ、現朱雀会のメンバーでもある。
家柄、人柄、縁故と全てにおいて申し分無かった。現に、相手が判明した直後は皆がその相手に浮き足だったほどだ。
だが同じに、筒井つくしが非公式とは言え宝珠薫の婚約者であったと報告を受けたのだ。
宝珠薫……ジュエルHDの大株主にして、LUCYグループの御曹司。数年後には二つの企業を新設合併させ、世界トップを率いる総帥になる男だ。つくしを筒井会長夫婦が自ら養育し、二十歳を待って正式に養女にしたのも、薫の伴侶にするためだったのだと噂されていて、今か今かと周りのもの達は、正式な婚約発表を楽しみにしていた。それが、ここに来て一転、婚約解消。婚約解消後、仕事は以前と同じく精力的にこなしているものの、仕事以外では以前の社交性は影を潜め、変わりに漏れ聞こえるのが醜聞だと。
浮き足だった気分から一転して、つくしと総二郎の付き合いが発覚したら大変だと大騒ぎになったのだ。
丁度その頃、後援会夫人でもある海老原夫人に釘を刺された。
「若宗匠とつくしさん、仲がよろしいようですけど、なにかあったりはないですわよね?
若宗匠が原因で薫様のご婚約が解消になったなんてことになっていたら……私、各方面に顔が立ちませんのよ。
つくしさんのお相手には、やはり、薫様しかいらっしゃらないって言うのが、白泉OG会、朱雀会の総意ですのよ。
総意と言うことは、何を意味するかお分かりでしてよね?
くれぐれも宜しく頼みますわよ」
丁度その頃、白泉OG会長の時政夫人から、総二郎にと縁談話を持ち込まれたのだ。
それは、西門家にとって断れない筋からの、断れない話しだった。
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