無花果の花は蜜を滴らす05
『つくし……いまなにしてる?』
どういう経緯になっていたのだろうか? 無断欠席したあたしの連絡が櫻之宮に届いたらしく、大ごとになっていると万里くんから電話が入ったのだ。
『お母様が警察に届けるって言ってるんだ。直ぐに迎えを出すから、こっちに来てくれるかな?』
「……電話で話すだけじゃダメ…なのか…な………」
帰りたくなくて、勇気を出して口にした。
『そう言ったんだけど、電話に出ただけじゃ分からないって。誰かに脅されてる可能性もあるからって聞かないんだよ』
「…………」
『つくし、つくし、聞こえてるよね?』
「……はい。……でも、一人で帰れるよ。途中で連絡も入れるから、迎えは要らないよ」
『……場所は分かってるんだ。櫻之宮の迎えがあと30分もすれば着く筈だよ。兄さんとのことあるし、これ以上事を荒立てない方がいいと思うよ』
何で?
何を?
と言う言葉は呑み込んだ。
分かっているのは、頷くしかないという事と、あと30分しか時間がないという事だけだ。
電話を切ったあと、あたしは俯きながら彼に用事が出来たと告げた。彼は、波を見たまま振り向きもせず
「……たまってたんだけどな
ここでってわけにもいかないから
まぁ、仕方ないか」
彼にとっては当たり前の言葉を残すと去っていった。
一人取り残されて
空を見上げれば、朝と同じで、どこまでも青く青く澄んでいる。
それを見ていたら、彼に愛されてるかもしれないと一瞬でも思った自分が可笑しくなって、唇から笑いが溢れた。
そして、
少し泣いた。
出会わなければ良かったのかな?
自分に聞いた。
あたしは首を振る。
近い未来、彼の隣にあたしはいることは出来ない。
それでも……彼に出会えてよかった。彼に恋してよかった。
人魚姫だってきっと、王子様に出会ったことを、恋したことを後悔してない筈だ。
恋を抱えて泡になっていく自分を幸せに思った筈だ。
「つくし様」
後ろから呼ばれて振り返る。
櫻之宮の迎えだと告げられ車に乗り込んだ。
渋滞にも巻き込まれずにきっかり1時間後に屋敷に着けば、瞳子おば様は冷え切った身体であたしを強く抱きしめた。
「つくしちゃんの好きなものばかり用意したのよ」
色とりどりのお菓子で埋め尽くされたテーブルを前に
「そうそうつくしちゃん、転入の手続きを取っておきましたからね」
にこやかに口にする。
一瞬、自分の耳を疑った。
高校に進学するとき、千暁さんが説得してくれた筈だ。
「明日には、制服も届くわ」
「おば…「理事長先生覚えてるかしら? つくしちゃんの話をしたらね、優秀な生徒さんですからって凄く喜んでらしたわよ。
大学には、万里もいるから安心よね。でも、千暁さんはヤキモチ妬くかしらね。うふふっ、そうなったら早めに籍を入れるとか言い出しかねないわね。でも先ずは正式に婚約よね。そうなると色々と忙しくなるわね」
あたしの言葉を遮り、嬉しそうに喋り続ける。
あたしは、貝になる。
どういう経緯になっていたのだろうか? 無断欠席したあたしの連絡が櫻之宮に届いたらしく、大ごとになっていると万里くんから電話が入ったのだ。
『お母様が警察に届けるって言ってるんだ。直ぐに迎えを出すから、こっちに来てくれるかな?』
「……電話で話すだけじゃダメ…なのか…な………」
帰りたくなくて、勇気を出して口にした。
『そう言ったんだけど、電話に出ただけじゃ分からないって。誰かに脅されてる可能性もあるからって聞かないんだよ』
「…………」
『つくし、つくし、聞こえてるよね?』
「……はい。……でも、一人で帰れるよ。途中で連絡も入れるから、迎えは要らないよ」
『……場所は分かってるんだ。櫻之宮の迎えがあと30分もすれば着く筈だよ。兄さんとのことあるし、これ以上事を荒立てない方がいいと思うよ』
何で?
何を?
と言う言葉は呑み込んだ。
分かっているのは、頷くしかないという事と、あと30分しか時間がないという事だけだ。
電話を切ったあと、あたしは俯きながら彼に用事が出来たと告げた。彼は、波を見たまま振り向きもせず
「……たまってたんだけどな
ここでってわけにもいかないから
まぁ、仕方ないか」
彼にとっては当たり前の言葉を残すと去っていった。
一人取り残されて
空を見上げれば、朝と同じで、どこまでも青く青く澄んでいる。
それを見ていたら、彼に愛されてるかもしれないと一瞬でも思った自分が可笑しくなって、唇から笑いが溢れた。
そして、
少し泣いた。
出会わなければ良かったのかな?
自分に聞いた。
あたしは首を振る。
近い未来、彼の隣にあたしはいることは出来ない。
それでも……彼に出会えてよかった。彼に恋してよかった。
人魚姫だってきっと、王子様に出会ったことを、恋したことを後悔してない筈だ。
恋を抱えて泡になっていく自分を幸せに思った筈だ。
「つくし様」
後ろから呼ばれて振り返る。
櫻之宮の迎えだと告げられ車に乗り込んだ。
渋滞にも巻き込まれずにきっかり1時間後に屋敷に着けば、瞳子おば様は冷え切った身体であたしを強く抱きしめた。
「つくしちゃんの好きなものばかり用意したのよ」
色とりどりのお菓子で埋め尽くされたテーブルを前に
「そうそうつくしちゃん、転入の手続きを取っておきましたからね」
にこやかに口にする。
一瞬、自分の耳を疑った。
高校に進学するとき、千暁さんが説得してくれた筈だ。
「明日には、制服も届くわ」
「おば…「理事長先生覚えてるかしら? つくしちゃんの話をしたらね、優秀な生徒さんですからって凄く喜んでらしたわよ。
大学には、万里もいるから安心よね。でも、千暁さんはヤキモチ妬くかしらね。うふふっ、そうなったら早めに籍を入れるとか言い出しかねないわね。でも先ずは正式に婚約よね。そうなると色々と忙しくなるわね」
あたしの言葉を遮り、嬉しそうに喋り続ける。
あたしは、貝になる。
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