無花果の花は蜜を滴らす 06
「うーん やっぱりつくしちゃんには、こんな風な柔らかい色合いのドレスが似合うわね。ねぇ、万里そう思わなくて」
「うん。この方がつくしらしいよね」
髪をフワリと巻かれて淡い色合いのシフォンのドレスで身を包んだあたしは、作り物の笑いを浮かべている。
櫻之宮の屋敷の中にいると、あたしはあたしらしく笑えなくなる。
「そうそう、つくしちゃんにプレゼントがあるの。万里、つくしちゃんに付けてあげて」
瞳子おば様は、ベルベットの箱から取り出したピンクの貴石のネックレスを万里くんに手渡した。
万里くんの指が首筋の髪を掻き分けながら、キラキラと光るネックレスの金具をカチリと嵌める。
鏡を覗けば、ウットリとあたしを見つめる万里くんと目が合った。
「良く似合うよ。俺の大事なお姫様」
視線に、言葉に、言いようのない不快感があたしの全身を駆け上がり、ビクンッと肩を震わせてしまった。
万里くんの美しい顔が一瞬醜く歪んだ後、ゾッとするような美しい微笑みを浮かべ
「つくしは、兄さんだけじゃなくて、櫻之宮の大事な大事なお姫様だよ。
ねぇ、母さん、そうだよね」
「えぇ、そうよ。つくしちゃんは我が家の大事な大事なお姫様よ。千暁さんが不在の時に、大事なお姫様を守るのは、万里の大切な役よ。
千暁さんと言えば、急遽、帰国するっ連絡がきていたけれど、何の心境の変化なのかしらね?
千暁さん、つくしちゃんには何か言っていて?」
「………写真集の重版が決まったのでって聞きましたけけど」
瞳子おば様は、あたしの目をジッと見つめ
「そう。いつもならそれくらいの要件で、帰国なんてしないのに、少しは焦っているのかしら?」
「焦ってる……ですか?」
どこまで知っているのだろうと思わず聞き返してしまった。
「えぇ、だって、つくしちゃん、このところ凄く綺麗になったでしょ。女っぽくなったというか。
今までのんびりと構えていた千暁さんも、誰かに取られちゃいけないって思ってるんじゃなくて?」
「……誰かなんて、そんな人いません」
あたしは、慌てて首を振った。
「あらっ、いやだ。つくしちゃんに手出しする男が居たら、千暁さんの前に私が黙っていなくてよ」
瞳子おば様はあたしの後ろに立ち
「つくしちゃんが櫻之宮に嫁いで来てくれる事が今の私の一番の楽しみなんですもの」
鏡越しにあたしを見てニッコリと微笑む。
「お、おば様、まだ気が早いですわ」
「そうかしら? つくしちゃんと再び出逢えた日からだから長くもないわよね?」
瞳子おば様の手があたしの髪を柔らかく撫でる。
「……つくしちゃん、私が側にいて髪を撫でてないとお寝んねしなくてね。その様が可愛くて可愛くて。
それは私だけじゃなかったみたいで、最初はやきもちを妬いていた万里がつくしちゃんの髪を撫でて寝かしつけていた時には、思わず笑ってしまったわ」
あたしと万里くんを交互に見てから
「自分の手で寝かしつけれたのが余程嬉しかったのかしらね。万里ったらね、大きくなったらつくしちゃんをお嫁さんにするんだって」
「母さんっ」
「あらっ、万里ったら照れちゃって。
うふふ、つくしちゃんがいると色んな万里の表情 が見れて楽しいわ」
瞳子おば様は唄うように話し、笑う。
同じ瞳の万里くんが一緒に微笑む。
あたし?
あたしもきっと上手く笑えてる筈だ。
だって、あたしはここでこうやって笑って人生を過ごしていかなければいけないんだもの。
なのに、
周りの景色がゆらゆらと揺れて見えている。
「うん。この方がつくしらしいよね」
髪をフワリと巻かれて淡い色合いのシフォンのドレスで身を包んだあたしは、作り物の笑いを浮かべている。
櫻之宮の屋敷の中にいると、あたしはあたしらしく笑えなくなる。
「そうそう、つくしちゃんにプレゼントがあるの。万里、つくしちゃんに付けてあげて」
瞳子おば様は、ベルベットの箱から取り出したピンクの貴石のネックレスを万里くんに手渡した。
万里くんの指が首筋の髪を掻き分けながら、キラキラと光るネックレスの金具をカチリと嵌める。
鏡を覗けば、ウットリとあたしを見つめる万里くんと目が合った。
「良く似合うよ。俺の大事なお姫様」
視線に、言葉に、言いようのない不快感があたしの全身を駆け上がり、ビクンッと肩を震わせてしまった。
万里くんの美しい顔が一瞬醜く歪んだ後、ゾッとするような美しい微笑みを浮かべ
「つくしは、兄さんだけじゃなくて、櫻之宮の大事な大事なお姫様だよ。
ねぇ、母さん、そうだよね」
「えぇ、そうよ。つくしちゃんは我が家の大事な大事なお姫様よ。千暁さんが不在の時に、大事なお姫様を守るのは、万里の大切な役よ。
千暁さんと言えば、急遽、帰国するっ連絡がきていたけれど、何の心境の変化なのかしらね?
千暁さん、つくしちゃんには何か言っていて?」
「………写真集の重版が決まったのでって聞きましたけけど」
瞳子おば様は、あたしの目をジッと見つめ
「そう。いつもならそれくらいの要件で、帰国なんてしないのに、少しは焦っているのかしら?」
「焦ってる……ですか?」
どこまで知っているのだろうと思わず聞き返してしまった。
「えぇ、だって、つくしちゃん、このところ凄く綺麗になったでしょ。女っぽくなったというか。
今までのんびりと構えていた千暁さんも、誰かに取られちゃいけないって思ってるんじゃなくて?」
「……誰かなんて、そんな人いません」
あたしは、慌てて首を振った。
「あらっ、いやだ。つくしちゃんに手出しする男が居たら、千暁さんの前に私が黙っていなくてよ」
瞳子おば様はあたしの後ろに立ち
「つくしちゃんが櫻之宮に嫁いで来てくれる事が今の私の一番の楽しみなんですもの」
鏡越しにあたしを見てニッコリと微笑む。
「お、おば様、まだ気が早いですわ」
「そうかしら? つくしちゃんと再び出逢えた日からだから長くもないわよね?」
瞳子おば様の手があたしの髪を柔らかく撫でる。
「……つくしちゃん、私が側にいて髪を撫でてないとお寝んねしなくてね。その様が可愛くて可愛くて。
それは私だけじゃなかったみたいで、最初はやきもちを妬いていた万里がつくしちゃんの髪を撫でて寝かしつけていた時には、思わず笑ってしまったわ」
あたしと万里くんを交互に見てから
「自分の手で寝かしつけれたのが余程嬉しかったのかしらね。万里ったらね、大きくなったらつくしちゃんをお嫁さんにするんだって」
「母さんっ」
「あらっ、万里ったら照れちゃって。
うふふ、つくしちゃんがいると色んな万里の
瞳子おば様は唄うように話し、笑う。
同じ瞳の万里くんが一緒に微笑む。
あたし?
あたしもきっと上手く笑えてる筈だ。
だって、あたしはここでこうやって笑って人生を過ごしていかなければいけないんだもの。
なのに、
周りの景色がゆらゆらと揺れて見えている。
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