無花果の花は蜜を滴らす 07
特権階級の人間達の巣窟のような場所だ。あたしがあたしでいるために、
しかも……幾つかのオマケ付きで。
「進君、大学はハーバードに行きたいんですってね。将来優秀よね。ねぇ、つくしちゃん、それなら、ハイスクールも向こうの方がいいと思わなくって?」
進の事を出されたら私は頷くしかない。パパは再び海外転勤という形で古巣に戻っていった。勿論、ママも進もだ。
それでもあたしには
彼に抱かれる。
その一瞬のために生きていた。
二月ほど経ったある日
「千暁さん、貴方はいつ櫻之宮に戻って来るのかしら?」
瞳子おば様がナプキンで口元を拭いながら、唐突に切り出したのだ。
突然の言葉に絶句する千暁さんを尻目に
「貴方が戻って来ないのだったら、つくしちゃんを万里に譲って頂戴」
ニッコリと言い放った。
「母さん、つくしは物じゃない」
激昂する千暁さんに
「変な事言わないで頂戴。大事なつくしちゃんが物であるわけないでしょ」
「だったら」
「あらっ、私は、貴方にもつくしちゃんにも充分な時間を与えた筈よ。嘘から出たまことになるかと期待していたのに、
貴方ったら、てんで役立たずなんですもの。
まぁ、小さな頃から知っていて10も年が違う相手に、おたがい恋心は起きなかったってわけよね?
だったら、万里に譲ってあげて頂戴って言っているのよ。あの子はつくしちゃんしか見えないみたいだし。つくしちゃんも幸せな筈よ。
つくしちゃんも、それで良いわよね?」
美しく美しく微笑み
「会社の一つや二つ潰すのは櫻之宮にとって大したことではないのよ」
「母さん、何を言ってるんだ」
「あら、ただ単に世間話をしているだけよ」
テーブルフラワーを一輪手に取り
「ねぇ、万里でさえ気付くことに私が気づかないとでも思って?」
グシャリと潰す。
「瞳子おば様……」
「母さんっ」
「万里は櫻之宮も継いでも良いって言ってるの。
だったら、ご褒美は必要でしょう?」
「褒美がつくしって事か?」
「あら、ソレは違ってよ。つくしちゃんがご褒美と言うより、私からのご褒美は邪魔者を排除することよ」
「邪魔者を排除って、つくしの意思はどうなる?」
「意思?
つくしちゃんは、まだ気がついてないだけよ。万里の良さにも愛情にも。
それを気付かせるのが、ママの役目でしょ?」
「一生愛せなかったらどうするんだ?」
「万里は誰よりもつくしちゃんを愛しているわ」
「つくしだよ。つくしの気持ちだよ」
「だから言ってるでしょ。つくしちゃんは気づいていないだけなのよ。
それに、千暁さんにはもう関係なくてよ」
「つくしは俺の恋人だ」
「あぁもう、茶番は沢山」
テーブルフラワーをグシャリグシャリと潰し
「万里は、母親の私から見ても将来有望よ。
うふふ それに櫻之宮の総帥になる者は、欲しいものは必ず手に入れてよ」
美しく微笑む。
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