無花果の花は蜜を滴らす 08
千暁さんは、あたしの手を取り
「つくし行くぞ」
そう言ってくれたのに……あたしの身体は動かない。
まるで全てがわかっているかの様に瞳子おば様は、優雅な仕草でベルを鳴らし執事を部屋に呼んだ。
「鴇田、千暁さんにお帰り頂いて」
執事が三回手を叩くと黒服の屈強な男達が現れて、「つくし、一緒に来るんだ」と叫ぶ千暁さんを引きずっていった。
いつのまにか隣に来ていたおば様が、あたしの髪をゆっくりと撫ぜている。
そして
連れて行かれた千暁さんの代わりに辺りには花びらが散っていた。
あたしは黙ってソレを見つめていた。
櫻之宮の内外に万里くんが正式な跡取りとなると告げられたのは、櫻之宮の離れにあたしの部屋が移された日だった。
離れの仕上がりは、アールヌーボーが取り入れられた万里くんに良く似合う繊細でとっても美しいものだった。
案の定と言うべきなのか、あたしの部屋間は万里くんの部屋と続きの間になっていた。
あの後何度も千暁さんは、あたしに会いに来てくれた。最初のうちは会わせて貰えなかったけれど、万里くんに頼んで会わせて貰った。
千暁さんに沢山の有り難うを伝えた。そして、どうか本当に進みたい道に進んで……と。
「つくしは、今のままでいいのか?」
「千暁さん、あたし、万里くんとお付き合いする事にしたの」
「つく…し…」
「万里くん、あたしを幸せにするって」
「それでいいのか? いいわけないよな?」
「いつかはって、思ってた事だから」
「奴のことは「千暁さん、やめて」
「もう決めた事だから」
あたしは笑う。
コンコン
ドアを叩く音がする。
約束の時間は過ぎたようだ。
「はい。どうぞ」
返事と共に、万里くんが部屋に入って来て、当たり前のように横に座りあたしの手の甲に手の平を重ねる。
あたしは万里くんに微笑みを返す。上手く笑えてます様にと願いながら。
「兄さん、もう、つくしの事は心配しなくていいからね。
兄さんは兄さんがしたい様に生きてよ」
万里くんは千暁さんの目を真っ直ぐに見つめて一気に言い切った。
千暁さんは眉根を寄せ
「万里は、それでいいのか?
俺はお前にもつくしにも母さんの犠牲になるんじゃなくて幸せになって欲しいんだ」
「犠牲? 幸せになって欲しい?
ハハッ兄さんは面白いことを言うね。
俺がつくしに抱く思いは、母さんより深いつもりだよ。あの女 が、つくしを俺に渡さなかったら、俺はあの女 を破滅させなきゃいけないとこだったんだからさ」
「ばん……り?」
「この邸 の中で、いや俺の人生の中で櫻之宮万里として俺個人を見てくれたのは、つくしだけだ」
万里くんの指があたしの指を絡めとる。
「兄さんも、父さんも、母さんさえも、母さんのためだって勘違いしてくれて良かったよ。
お陰ですんなりと事が運んだしね」
万里くんの指が単独の生き物の様にあたしの指を上下する。
「さぁ、つくし、そろそろ帰ろうか」
薄いグレーの瞳があたしの目を覗き込む。
機械仕掛けの人形の様にあたしは立ち上がり万里くんの後ろをついて行く。
これでいいんだと心の中で唱えながら。
「つくし行くぞ」
そう言ってくれたのに……あたしの身体は動かない。
まるで全てがわかっているかの様に瞳子おば様は、優雅な仕草でベルを鳴らし執事を部屋に呼んだ。
「鴇田、千暁さんにお帰り頂いて」
執事が三回手を叩くと黒服の屈強な男達が現れて、「つくし、一緒に来るんだ」と叫ぶ千暁さんを引きずっていった。
いつのまにか隣に来ていたおば様が、あたしの髪をゆっくりと撫ぜている。
そして
連れて行かれた千暁さんの代わりに辺りには花びらが散っていた。
あたしは黙ってソレを見つめていた。
櫻之宮の内外に万里くんが正式な跡取りとなると告げられたのは、櫻之宮の離れにあたしの部屋が移された日だった。
離れの仕上がりは、アールヌーボーが取り入れられた万里くんに良く似合う繊細でとっても美しいものだった。
案の定と言うべきなのか、あたしの部屋間は万里くんの部屋と続きの間になっていた。
あの後何度も千暁さんは、あたしに会いに来てくれた。最初のうちは会わせて貰えなかったけれど、万里くんに頼んで会わせて貰った。
千暁さんに沢山の有り難うを伝えた。そして、どうか本当に進みたい道に進んで……と。
「つくしは、今のままでいいのか?」
「千暁さん、あたし、万里くんとお付き合いする事にしたの」
「つく…し…」
「万里くん、あたしを幸せにするって」
「それでいいのか? いいわけないよな?」
「いつかはって、思ってた事だから」
「奴のことは「千暁さん、やめて」
「もう決めた事だから」
あたしは笑う。
コンコン
ドアを叩く音がする。
約束の時間は過ぎたようだ。
「はい。どうぞ」
返事と共に、万里くんが部屋に入って来て、当たり前のように横に座りあたしの手の甲に手の平を重ねる。
あたしは万里くんに微笑みを返す。上手く笑えてます様にと願いながら。
「兄さん、もう、つくしの事は心配しなくていいからね。
兄さんは兄さんがしたい様に生きてよ」
万里くんは千暁さんの目を真っ直ぐに見つめて一気に言い切った。
千暁さんは眉根を寄せ
「万里は、それでいいのか?
俺はお前にもつくしにも母さんの犠牲になるんじゃなくて幸せになって欲しいんだ」
「犠牲? 幸せになって欲しい?
ハハッ兄さんは面白いことを言うね。
俺がつくしに抱く思いは、母さんより深いつもりだよ。あの
「ばん……り?」
「この
万里くんの指があたしの指を絡めとる。
「兄さんも、父さんも、母さんさえも、母さんのためだって勘違いしてくれて良かったよ。
お陰ですんなりと事が運んだしね」
万里くんの指が単独の生き物の様にあたしの指を上下する。
「さぁ、つくし、そろそろ帰ろうか」
薄いグレーの瞳があたしの目を覗き込む。
機械仕掛けの人形の様にあたしは立ち上がり万里くんの後ろをついて行く。
これでいいんだと心の中で唱えながら。
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