紅蓮 103 つかつく
「とぉしゃま、いってらぁしゃい」
「あぁ、母様と二人良い子で待っているんだよ 」
「あぁーい」
宗谷は娘の永久を抱き上げ頬にキスを一つ落としてから、佐久間に引き渡した。
佐久間は手を振る永久と共に奥の部屋に下がっていった。
回り廊下を歩きながら
「つくし、永久のこと、くれぐれも頼むよ。それと……「外に出るなですよ……ね」
「まだこの前のこと怒っているのか?
仕事が一段落したら三人で旅行にでも行こう
永久が見たがっていた鯨を観に行くっていうのはどうだ?」
「……旅行になど行きたいわけじゃありません」
宗谷は溜め息を一つ吐いてから
「ボーディングスクールについては、あくまでも永久のことを考えてのことだ。それに、今すぐって言うわけではないんだ」
「……永久を表に出さなければと言うことですよね?」
「そんなに不服なことかい? 安全面、将来性どれをとっても永遠のためになることなんだって説明してるだろ」
でも……と心は叫んでいるのに、何を伝えようとも変わりはしないのだと悲しくなる。
永久の進学のことを除いては上手くいっていると思っていた。そのことすら、行き過ぎた過保護が原因なのだと考えていた。ごりょうさん以外に宗谷にとって唯一血の繋がりがある肉親が永久だけなのだから、仕方のないことなのだと諦めにも似た感情を抱いていた。
でもここは治安の良い日本だ。本当に永久のことを考えているのなら。と、つくしはどうしても考えてしまうのだ。
「凌さんは、永久のことを愛していないのですか?」
思わず口から出た
「つくし、君はいま何を言っているのか理解しているのか?
俺がどれだけ永久を愛しているのかってことを」
「……理解ですか?
だったら何故、あなたの作った世界だけに永久を閉じ込めようとするんですか?
こんなの異常過ぎます」
「異常? なら、永久に何かあったら、君はどうやって責任をとるつもりだ」
我が子を万に一でも危険な目に晒したくない思いはつくしとて同じだ。それでも……アイツなら心配しながらでも我が子を自由に羽ばたかせるだろう。
ア…イツ?
……アイツって……誰?
次の瞬間……くしゃくしゃの笑顔で笑う男の顔が一瞬脳裏に浮かんで
「ぇっ?」
つくしは思わず声を漏らした。
「つくし、どうした?」
「あっ、いえっ 」
それ以上は言葉が続かず、つくしはおし黙る。
「また頭が痛むのか?」
心配げな眼差しがつくしに注がれ宗谷の手が伸びてくる。
刹那
手を伸ばすアイツが見えて……つくしは激しい頭痛とともに、意識を手放していく
「つくし」
「奥様」
薄れいく意識とは正反対に、アイツの顔がはっきりとつくしの脳裏に浮かび
「つか……さ」
愛おしい男の名を呼んだ
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