ずっとずっと 73
懐かしい声がする。
いつもならこのあと、ドォーンと抱き着いてくる滋さん。
来るぞ、来るぞと身構える‥…
なのに、なのに……あたしの顔を見るなり涙をボロボロボロボロ出しながら、「づぐしぃ~」あたしの名を呼び優しく抱きしめてくる。
冷静沈着な桜子まで、涙を流して顔を歪ませている。
あたしの目の前にもモヤがかかり、前がよく見えない。
雑踏の中、どれくらいそうしていたのだろう?
「つくし様、そろそろ移動されませんと……」一緒に着いてきた、薫の秘書の片倉さんが声をかけてくる。
滋さんが、片倉さんを訝しげに見上げ、桜子が驚いた表情をしている。
思案気な表情を浮かべた2人を促し、車に乗り込む。あたし達を乗せた車は、数分でペントハウスに着いた。
エレベーターを降りた瞬間に、光と花木が溢れる空間に降り立った二人は、自分達が何をしにやってきたのかを一瞬忘れ
「綺麗……」そう呟いていた。
奥から薫が出てくる。光と花木を纏った薫は、さながら一枚の風景画の中にいる王子様の様で、F4に慣れた2人でさえも見惚れる美しさだった。
「いらっしゃい……お待ちしてました。」
「滋さんは、初めましてですね。桜子さんとは2度目ですね。どうぞゆっくりなさっていって下さいね。」
そう言うと‥…薫は自室に戻って行った。
「つくし‥…?あの男(ひと)は誰?」
「今の方って、ジュエルの筒井会長のお孫さんでいらっしゃいますよね?」
滋さんと桜子の声が重なる。
「うんと‥…つぅ爺‥あっ、筒井会長の孫の宝珠薫さん。桜子は以前会った事があるんだったよね?」
宝珠薫氏‥…
千尋さんから、ジュエルとLUCY統合後の代表就任の挨拶と共に、婚約者をお披露目すると話しを聞いている。
お二人でお越し下さいと、三条の邸の方にもINVITATION が届いている。
「せ、先輩?」
「っん?」
先輩が、無邪気な顔で微笑んでいらっしゃる。私は意を決し話しを進める。
「先輩は、宝珠様の婚約者なのでいらっしゃいますか?」
「婚約者?うーーーん‥…そうなる予定の人かな?」
先輩の言葉を遮る様に、滋さんが話しに割り込んでいらっしゃる。
「ちょ、ちょっと‥… 宝珠薫さんて? TSUTSUIの宝珠さんなの?もしかしてナダーの友達?」
ナダー? 確か‥…滋さんの婚約者の方ですわよね
「そうそう、そうなんだよね。いやぁ~。滋さんおめでとう。ナダーからどんなに素敵な女性に恋してるかって、あたしも薫も散々聞かせられてたのよぉ~ うふふっ滋さんの事だったんだよね~」
先輩が無邪気に喜んでいらっしゃる。
「えっ、つくしもナダーと友達なの?うふっ、そうなのよぉー押せ押せナダーでね~」
し、滋さん、そうでは無くて‥… 私達が今日、こちらに来た目的をお忘れですか?
「コホンッ」
私の咳払いに、目的を思い出したのか押し黙るお二人‥…
「で、先輩‥この状況は何なのかご説明頂けますでしょうか?」
先輩が話し始める。
名前の事、縁があってジュエルで働いている事、宝珠様と知り合って一緒に暮らす事になった経緯。そして、去年の誕生日に道明寺さんから捨てられた事。 その時に、先輩の傍にいて支えてくれたのが宝珠様だと言う事。
全てを話し終えた先輩は
「2人には、司との事、いっぱいいっぱい応援して貰ったのに、ゴメンね」
一番辛い想いをされたのは、先輩なのにも関わらず私達2人に謝ってこられる。精一杯の姿がおいたわしくて、そして愛おしくて‥…胸がいっぱいになる。
「つくし‥…謝らないで‥…謝らなきゃいけないのは私達だよ。つくしが辛い時に側にいてあげれなくてゴメンね‥…」
「ううん。今まで沢山沢山ありがとう‥… 薫の事、変わり身が早いって驚いちゃうよね? えへっ‥…へっアレ‥…」
そう言いながら、先輩の瞳に涙の雫(しずく)が零れる。
滋さんも目をまっ赤にさせながら泣きじゃくっていらっしゃる。
「先輩‥…うぅぅ」
高校2年生のあの日から、道明寺さんと先輩の一途な愛の成就を願っておりました。
先輩が、そんなに簡単に道明寺さんをお忘れになるなんて、想ってはおりません。
お可哀想な先輩……
先輩、私の一番の望みは、先輩のお幸せな姿を見る事です‥…
「‥えへっ‥… 桜子も滋さんも、もう泣かないで」
「そうそう、宝泉のわらび餅があるんだよ~ わらび餅二人とも好きでしょ?」
先輩が、おどけてそう私達におっしゃる。そんな姿が愛しくて、愛しくて……
「玉露もお付け頂けます?」
私は、そうお答えした。
「薫~ 薫もこっちに来てわらび餅食べよう~宝泉のわらび餅薫も好きでしょう~」
大きなお声で宝珠様に声をかけられ‥
「お茶煎れてくるねー」
と言い、リビングを後にされた。
入れ違いに宝珠様がいらしゃって私達にご挨拶をされる。
「改めまして‥…宝珠薫と申します。つくしから話は聞かれた事と思いますが、これからもどうかつくしの力になってあげて下さい。どうかお願いします」
そう言って、頭を下げられる。
美しく、地位も名誉も持つ男が懇願する。
この人なら、先輩をどんな荒波からもお守り下さるだろう。
「先輩の事、どうぞ宜しくお願い致します。」
「つくしの事、幸せにしてあげて下さい。」
滋さんと2人、先輩の幸せを願う。
「ありがとう。彼女は、僕の全てですから、全身全霊をかけて守るつもりでいます。」
美しい微笑みで、そうきっぱりとおしゃった。
どうかどうか‥…先輩の人生に、これ以上の荒波を立てず過ごさせてあげて下さい。
穏やかな幸せを与えて下さい‥…無意識に、私はそう神に願っていた。
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