無花果の花は蜜を滴らす 10
あたしには、役者の才能があるんじゃないかと錯覚するほど、万里くんを愛する恋人役を演じた。
最初は訝しがっていた万里くんも、
恋する男そのものに……そのうち、自分の望む “つくし” しか見なくなってくれた。
万里くんの望む “つくし” は、茶番のように滑稽だ。天真爛漫に屈託無くよく笑い、楽しくも無い話をさも楽しそうに話し、万里くんの女友達にヤキモチを妬き、媚びを売るように甘え、おねだりをする。
本当のあたしは、恋した男にこんな風に話す事も笑う事も……ましてやヤキモチを妬くなんて事は出来なかったのに、万里くんは “コレ” を恋するあたしだと勘違いしている。
「万里くん、今日は一日中一緒に居てくれるって言ったのに……嘘つき
また、あの人達と一緒なんでしょ」
ホラッ
あたしの舌はこんなにも上手く嘘を吐く。
「本当にごめんね。今後の付き合いもあるから今日は我慢して」
今日だけじゃなくて、明日も明後日もずっとお付き合いしてきて
……こんな思いはおくびにも出さずに、あたしは拗ねたフリして唇を弄る。
「彼奴等が苦手だから今日は行きたくないって言ったのは、つくしだよ」
「そうだけど……寂しいの」
嘘だけど
不満そうにしてた万里くんに嘘を吐く。
「つくし……
だったら、一足先に彼奴等に紹介するよ
そうすれば、つくしは本当のお姫様だ」
あたしは心底慌てて首を振る
「いつでも一緒に居られるんだよ」
あたかもソレが最善なのだと言いたげに、万里くんがあたしの瞳を覗きこむ。
「……万里くんは、中学の時みたいに、わたしが意地悪されても構わないの?」
中学に上がってすぐの頃、万里くんの送り迎えを受けていたあたしは 陰湿な “イジメ” にあった。首謀者が分からないイジメは万里くんが送り迎えを辞めるまで続き、小さな嫌がらせは卒業するまで続いた。
「犯人を今度こそ見つけるよ」
「あの時だって、みつからなかったのに?」
小さな意地悪は確かにあった。でも他の事は全てあたしが仕組んだ事だ。見つかるわけがない。なのに、あたしはあの一件で傷付いた風を装い目を伏せた。
「今度こそ見つけるよ」
フルフルと首を振り、小さな声で
「辞めて……私も我慢するから、万里くんは何もしないで」
今の監視の数じゃ、直ぐにバレてしまうもの。
さぁてと、この辺りが引き際だろう
「……万里くん、困らせちゃってごめんなさい
お部屋でお利口に待ってるから万里くんは楽しんできて」
万里くんは、そのの言葉に満足したのかあたしの髪に口づけを落とし
「つくしも今日は一日自由に過ごして
あっ、そうだ。三条家の桜子さんだっけ?彼女と買い物にでも出掛けるっていうのはどう?」
寛大なセリフを口にする。
「……万里くんがいないのに…いいの…?」
上目遣いで万里くんを見れば
「たまにはいいんだよ
ほらっ 行ってみたいお店があるって言ってたろ?」
「うん。じゃ、そうしようかな」
ニッコリ笑えば、万里くんも目を細め嬉しそうに笑う。
あたしは、こうやって束の間の自由を手に入れる。
ご機嫌な万里くんを送り出した後、あたしは桜子に連絡を取った。選民思想の強い万里くんは、あたしの交友関係として絶対、桜子を気に入る筈だと踏んで、同じクラスで仲良くなった友達として小出しに情報を与えてあった。
でも本当は違う。桜子とは中学の時からの知り合いだ。キッカケは、よく行くお店の曲がり角の手前で数人の女性に囲まれて泣いていた桜子をほっとけなくて助けた事だ。
助けた後、全て桜子の計画の内の事で泣き顔は嘘だったんだって言うことも、あたしが助けた事も余計なお世話だったんだって愚痴のように言われたけど……綺麗で策士で意地悪な桜子と、あたしは何故か気が合った。その時から、あたし達は仲が良い。
実を言うと、中学の時自分に対する仕組んだ意地悪も桜子の助言の賜わりものだ。
海外留学していた桜子が、帰国子女枠であたしのクラスに転入して来た時には随分とビックリしたけど
可憐な少女そのままに
「はじめまして、三条桜子と申します」
そう自己紹介して来た時には、もっと驚いた。
二人きりになった時
「英徳じゃなくて良かったの?」
と聞けば
「ここのが、お嫁入りの時に条件いいみたいだからね
それより、つくしは私が一緒なのが不服なのかしら?」
形の良い鼻をツンとさせながら、綺麗にカールされた髪を指でクルンと巻いて嘯いた。
意地悪で策士な桜子は、自分のためにならない親切は嫌いだと言っている癖して……困ってる人をほっとけない。あたしがそれをたまたま目撃した時は必ず今みたいに、髪を指でクルンと巻くんだ。
その仕草であぁやっぱり、そうだったんだと理解した。桜子が、帰国してココに転入してくれた事がたまたまじゃないって事を。
桜子に思い切り抱きついて、眉を顰められたけど……
そんな事を思い出してクスリと笑った。
そして安堵する。
まだ本当に笑える自分が残っていることに。
最初は訝しがっていた万里くんも、
恋する男そのものに……そのうち、自分の望む “つくし” しか見なくなってくれた。
万里くんの望む “つくし” は、茶番のように滑稽だ。天真爛漫に屈託無くよく笑い、楽しくも無い話をさも楽しそうに話し、万里くんの女友達にヤキモチを妬き、媚びを売るように甘え、おねだりをする。
本当のあたしは、恋した男にこんな風に話す事も笑う事も……ましてやヤキモチを妬くなんて事は出来なかったのに、万里くんは “コレ” を恋するあたしだと勘違いしている。
「万里くん、今日は一日中一緒に居てくれるって言ったのに……嘘つき
また、あの人達と一緒なんでしょ」
ホラッ
あたしの舌はこんなにも上手く嘘を吐く。
「本当にごめんね。今後の付き合いもあるから今日は我慢して」
今日だけじゃなくて、明日も明後日もずっとお付き合いしてきて
……こんな思いはおくびにも出さずに、あたしは拗ねたフリして唇を弄る。
「彼奴等が苦手だから今日は行きたくないって言ったのは、つくしだよ」
「そうだけど……寂しいの」
嘘だけど
不満そうにしてた万里くんに嘘を吐く。
「つくし……
だったら、一足先に彼奴等に紹介するよ
そうすれば、つくしは本当のお姫様だ」
あたしは心底慌てて首を振る
「いつでも一緒に居られるんだよ」
あたかもソレが最善なのだと言いたげに、万里くんがあたしの瞳を覗きこむ。
「……万里くんは、中学の時みたいに、わたしが意地悪されても構わないの?」
中学に上がってすぐの頃、万里くんの送り迎えを受けていたあたしは 陰湿な “イジメ” にあった。首謀者が分からないイジメは万里くんが送り迎えを辞めるまで続き、小さな嫌がらせは卒業するまで続いた。
「犯人を今度こそ見つけるよ」
「あの時だって、みつからなかったのに?」
小さな意地悪は確かにあった。でも他の事は全てあたしが仕組んだ事だ。見つかるわけがない。なのに、あたしはあの一件で傷付いた風を装い目を伏せた。
「今度こそ見つけるよ」
フルフルと首を振り、小さな声で
「辞めて……私も我慢するから、万里くんは何もしないで」
今の監視の数じゃ、直ぐにバレてしまうもの。
さぁてと、この辺りが引き際だろう
「……万里くん、困らせちゃってごめんなさい
お部屋でお利口に待ってるから万里くんは楽しんできて」
万里くんは、そのの言葉に満足したのかあたしの髪に口づけを落とし
「つくしも今日は一日自由に過ごして
あっ、そうだ。三条家の桜子さんだっけ?彼女と買い物にでも出掛けるっていうのはどう?」
寛大なセリフを口にする。
「……万里くんがいないのに…いいの…?」
上目遣いで万里くんを見れば
「たまにはいいんだよ
ほらっ 行ってみたいお店があるって言ってたろ?」
「うん。じゃ、そうしようかな」
ニッコリ笑えば、万里くんも目を細め嬉しそうに笑う。
あたしは、こうやって束の間の自由を手に入れる。
ご機嫌な万里くんを送り出した後、あたしは桜子に連絡を取った。選民思想の強い万里くんは、あたしの交友関係として絶対、桜子を気に入る筈だと踏んで、同じクラスで仲良くなった友達として小出しに情報を与えてあった。
でも本当は違う。桜子とは中学の時からの知り合いだ。キッカケは、よく行くお店の曲がり角の手前で数人の女性に囲まれて泣いていた桜子をほっとけなくて助けた事だ。
助けた後、全て桜子の計画の内の事で泣き顔は嘘だったんだって言うことも、あたしが助けた事も余計なお世話だったんだって愚痴のように言われたけど……綺麗で策士で意地悪な桜子と、あたしは何故か気が合った。その時から、あたし達は仲が良い。
実を言うと、中学の時自分に対する仕組んだ意地悪も桜子の助言の賜わりものだ。
海外留学していた桜子が、帰国子女枠であたしのクラスに転入して来た時には随分とビックリしたけど
可憐な少女そのままに
「はじめまして、三条桜子と申します」
そう自己紹介して来た時には、もっと驚いた。
二人きりになった時
「英徳じゃなくて良かったの?」
と聞けば
「ここのが、お嫁入りの時に条件いいみたいだからね
それより、つくしは私が一緒なのが不服なのかしら?」
形の良い鼻をツンとさせながら、綺麗にカールされた髪を指でクルンと巻いて嘯いた。
意地悪で策士な桜子は、自分のためにならない親切は嫌いだと言っている癖して……困ってる人をほっとけない。あたしがそれをたまたま目撃した時は必ず今みたいに、髪を指でクルンと巻くんだ。
その仕草であぁやっぱり、そうだったんだと理解した。桜子が、帰国してココに転入してくれた事がたまたまじゃないって事を。
桜子に思い切り抱きついて、眉を顰められたけど……
そんな事を思い出してクスリと笑った。
そして安堵する。
まだ本当に笑える自分が残っていることに。
- 関連記事
スポンサーサイト