紅蓮 108
でも……永久と玲がこれ以上会って良いものなのか?と宗谷は、ジレンマに陥った。
悩んだ末に出した結論は一つ。己が玲とは絶対に鉢合わせしない様にする事だった。
設楽の診療が入る日に合わせて、今まで頑なに避けて居た出張や会食をいれた。
宗谷は現状から逃げたのだ。
現状から逃げる。即ち、隙が生まれる。隙は、現状見えている筈のものに対しても目を曇らせた。
宗谷にとって最悪な第2章の幕開けは、司にとってはまたとない好機になる。
**
「永久様は本当に利発でいらっしゃいます
それに……玲様の影響でしょうか、今までなら敬遠されていた事にも積極的に挑戦されて、大きな成長を感じますわ。
そのお姿を拝見していましたら最初にガヴァネスをさせて頂いたお嬢様を思い出しましたわ
やはり初めての仲良しのお友達が出来て、ぐんと成長されましてね」
目を細めながら、佐久間がつくしに話す。
「たしか、日本にお住いの方よね?」
佐久間の履歴書を思い出しながら、つくしが何気なく問いかけた。
「はい。今度ご結婚されるとかで……招待状まで送って下さったんですよ」
「あらっ 素敵
勿論、出席するんでしょ?」
佐久間は首を振り
「いえいえ
ガヴァネスは、表舞台に立つ立場では御座いませんので
食事でもしたいと思ってはおりますが」
「あらっ、それは違うわ。そのお嬢さんだって永久と同じで、貴女が大好きなのよ。勿論その方のご家族もね。
だからこそ、節目の時に見てもらいたいと思ったのではなくて?
それにあなた全然お休み取っていないわよね」
日本への異動の際に、二人体制だったガヴァネスの一人が同行出来ずに、佐久間一人になっていたのが大きな理由だった。
「ねぇ、お食事は勿論だけど、お式にも出たらどう?
と言うか、是非出て、どんなに素敵なお嬢さんになられたかを教えて頂きたいわ」
「ですが……」
「永久がお嫁に行く時にも、是非出て頂きたいって言う利己的な理由が大半だから、是非出席してきて頂戴」
つくしは、佐久間の両手を握りしめながらウィンクをした。
この夜、つくしが詳細を話さずに佐久間に休みを取らせたい旨を宗谷に告げたのには、格段、他意は無かった。
佐久間が結婚式に出席する旨は、花嫁のブライトメイトをかって出た静に直ぐに伝わった。
「ねぇ、どうせならそのガヴァネスの方に小さな頃の香子さんのエピソードを聞きたいわ」
それならば、結婚式の前に一緒に食事をとるつもりなので、静も来ないかと誘われた。
静の前にチャンスが訪れる。
時を同じくして、必死に糸口を探し続けていた司の元に偶然のように一通の封書が届けられた。
中には地図と時間、そして……
もしもこの手紙があなたの元に届いたならば運命の神は正しい道に全てを戻そうとしているのでしょう。と言葉が綴られていた。
生き馬の目を抜くビジネスの世界だ。誰から来たとも分からぬ手紙など、罠かも知れない。
だが司の直感は、それが福音だと感じた。
地図が示していた場所が、つくしを迎えに行ったあの海辺の近くだったからだ。
- 関連記事
-
- 紅蓮 111
- 紅蓮 110 つかつく
- 紅蓮 109 つかつく
- 紅蓮 108
- 紅蓮 106
- 紅蓮 105
- 紅蓮 人物紹介