ネクタール 03 つかつく
牧野はスゲェ可愛かった。
そして俺は、夏が終わる頃には身悶えする程に牧野に恋をしている自分に気が付いた。
何故か相変わらず、スーツになると地味で冴えない牧野になる。
生地は上等だ。着心地も良さそうだ。だが、垢抜けねぇんだ。
「なぁ、牧野のスーツ……どこで買ったんだ?」
心臓バクバクさせながら聞いてみた。
「うんっ? あっ、コレは幼なじみ達からの就活応援プレゼントなんですよ」
ニッコリ笑って牧野が言った。
その言葉を聞いて俺は全てを理解した。幼なじみ達って奴らは野郎で、そいつは牧野が好きで、このスーツは男避けだったって事を。
って……達? 達って言ったよな?
「……達?」
「あぁ、そうなんです。厳密に言うと幼なじみの幼なじみなんですけどね。
もうね、みーんな口うるさいお兄ちゃん達みたいで……あれダメ、これダメのオンパレードなんですよぉ
まぁ、でも、語学が得意になれたのも三人のお陰なんで、悪いことばっかじゃないんですけどね
って、大本命の会社に入れたんで感謝しろですけどね」
俺の好きなフワリフワリとした顔で笑う。
「……その中の誰かと付き合ってたりしてたりすんのか?」
なるたけ平静さを装い、牧野に聞いた。
牧野は大きな目をパチクリとさせて
「へっ? 誰と誰がですかー
と言うか、あたしと三人の内の誰かってコトですか?
ひゃーっ あり得ません!」
「あり得ねぇのか?」
「そりゃそうですよ。
だって、ハナヤンもミマくんも幼稚園の時から知ってるんですよー
トウ君なんて、あたしが生まれた時から知ってるんですよ。
あり得ないです!
まぁ、向こうもあり得ないって大笑いしちゃうんでしょうけどね」
そんなことねぇぞ……なんて言葉が喉元まで出かかった。
でもだ……敵に砂糖送るバカいねぇよな
って、思ったわけだ!
蟹沢が色々聞きたそうな顔してやがったから、教えてやった。
「……バカはどっちだって話しですが「ハァッ?」
あっ、いえいえ 大変、賢明なご判断だったと思います」
「でな、蟹沢はどう思う?」
「……どう…と…申しますと……?」
「どうって……牧野だよ、牧野
っつぅか、この話の流れならそれしかねぇだろうが
ったー ちたぁっ、考えろ」
「バリバリ ハタラク センムは カッコイイ かと思います」
「そ、そ、そうか?
って……お前、また調子のいい事言ってやがんな」
「……イエイエ……
ところで専務、その幼なじみとやらは、専務と牧野さんが会ってる事は気付いてるんですか? 」
「ゼミとバイトに忙しいと思ってるらしいぞ」
「あぁ、バイトですか……
社会に出てから役に立つって専務が紹介したんですっけ?」
「あぁ」
「案外、頭使いましたね」
「まぁな
……って、案外ってなんだ案外って」
「あははっ
お忘れ下さいませ」
「ったく、
で、で、で、牧野は俺のことどう思ってっか」
「はぁあ……他の方は、なんと?」
「牧野のことは、蟹沢しか知らねぇよ。
で、忌憚ない意見をだな」
「忌憚ないです…か…?」
「あぁ」
「クビにしたりしません?」
「ハァッ しねぇよ」
「牧野さんは……」
「牧野は」
「専務のことを」
「俺のことを」
「好ましい先輩だと思っています」
「好ましい先輩……?」
「はい」
「好ましい…か…微妙だな」
金 地位 美貌
黙っていても女達は群がってきた。
金も地位もアイツ興味なさそうだしな。よほどいい男を見慣れてるのか?顔なんて、人を見分けるものでしかねぇ感じだ。
だけど……
それもこれも全部が
ったーーー好きだあ。
バイトの休憩時間や仕事終わりに、一緒の時間を過ごす。
牧野の話しは面白れぇ。俺の百済ねぇ話も笑って聞いてくれる。
だが……
休みの日にデートに誘うと、少し困った顔をする。
「あっ 悪りぃ 時間あったらと思ったんで 」
「あっ あの ちょっと遅くなっても大丈夫ですか?」
「勿論だ」
「ご飯とか食べてからでもいいですか?」
「…あぁ…でも、忙しいなら無理しなくてもいいんだぞ?」
牧野は首を振り
「無理してない……です」
可愛いことを口にしやがった。
多分、俺、スゲェにやけてた。
暫く、蟹沢にからかわれた。
知ってか?
恋ってな、恋ってな
すげぇ 幸せなもんなんだぞ
秋が過ぎ、冬がやって来て……野暮ったいスーツの上に、これまたどう考えても野暮ったいカシミアのコートを着て牧野はバイト先に現れるようになった。
羽根のように軽くて暖かいカシミア、生地は一級品だ。だが、クラシカルって呼ぶのとは、ちょいと違うデザインだ。
「なぁ 牧野、それもお兄ちゃんずのプレゼンか?」
俺の質問に、牧野はコクンと頷いて
「正式に内定でたお祝いだって
軽いし、温かいんですけど……なんだか垢抜けないっていうか
三人が口を揃えて最先端だっていうんですけど……司さんはどう思います?」
男避けとして功を成してんだよな。
でもな
「冴えねぇよ」
「あぁ やっぱり」
「やっぱりって…分かってても……牧野はソレを着んだ?」
「えっ あっ」
「コートだけじゃねぇよ
スーツだって、ものは上等だが地味で冴えねぇよ
その癖して、お兄ちゃんずに会ったあとは、化粧して綺麗な格好してんだよな」
会えない時間がもどかしいだけの
ただの醜い嫉妬だった。
「本当は……分かってんだろ?
お兄ちゃんずが、お前のことを妹なんて思っちゃいねぇって」
★うわっ
3話で収まらなかったーーーー
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