ネクタール 06
っん?
牧野を見れば
真ん丸の目をしながら真っ赤になって
「あたし、あたし……本当に、本当に司さんが理性失っちゃうくらい可愛いですか?」
どうやら俺、盛大な独り言を呟いていたらしい
カァッーと、頬が、いや全身が火照り、あまりの恥ずかしさで口籠る俺。
「ははっ 思い上がりも大概にしろですよね」
心なしか、肩を落として俯く牧野。
好きな女を俯かせんな。恥ずかしついでに……俺、素直になれ
「し、死ぬほど……可愛い」
「司さん、優しすぎです。
そんな風に言われたら、あたし……思い上がっちゃうし、自惚れちゃいます」
「思い上がって、自惚れろ」
「えっ?」
小首を傾げ、俺の方を見る
「死ぬほど可愛いから、思い上がって、自惚れろってって言ってんの」
「……いいんですか本気にして?」
「いいに決まってんだろ」
「司さ……ん」
牧野の顔に笑顔の花が咲く。バックミラーで盗み見しながら幸せいっぱいの気持ちを味わう。
マジ やべぇっ
俺、すげぇ惚れてる。
フゥーーーっ
長い息を吐いて、思考をニュートラルに戻そうとした瞬間……
牧野は、大きく息を吸って
「司さんは……り、り、理性失っちゃうくらい……カッコイイです」
「えっ?」
すげぇ ビックリして、あろう事か、俺、首振ってた。
「ぁっ やっぱり 迷惑ですよね」
「迷惑なワケねぇだろう」
牧野の方を見て、慌てて口にした。牧野は嬉しそうな顔をした後に、慌てたように
「つっ、司さん、司さん、前、前
ちゃんと前見てください」
「あぁ」
そうだ。ちゃんと前向いてだ。
俺、冷静になれだ。
でもなぁ
好きな女から、カッコいいとか言われたら舞い上がるよな?
舞い上がんねぇ男なんていねぇよな。
クククッ
理性失っちゃうくらいに、カッコイイんだぞ。
なんて事を俺の脳内が一人で盛り上がっている間に……
牧野は、眠いのか半目になっている。
「まだ時間かかるから寝てていいぞ」
声をかければ、ぷるぷると首を振り
「大丈夫れぇす」
全くもって大丈夫じゃなさそうな答えが返ってくる。バックミラーに映る牧野の目はつぶっては、半目を開いて、つぶっては、半目を開いて繰り返しながら、時折頑張って話しかけてくる。
頑張って起きていようとする姿がいじらしくて可愛くて、タマンねぇ
高速のリズム感ある振動が気持ちよかったのか、すやすや夢の中に牧野は旅立った。
穏やかな寝息と共に
「……つか…しゃ…しゃん……」
夢の中で俺の名を呼び、ニヘラと笑った。
「クゥーッ たまんねぇ」
牧野つくしって生き物が、可愛くて、可愛くてたまらねぇ。
車のテールライトがキラキラと輝いて見える。
って、俺、恋するポエマーか
目的地に着かなかったー