やってくれるな幼な妻 総つく
いつになく青白く輝く月に向かって溜息を吐いた。
「ったぁーー
アイツ、何考えてんだよ」
思わず愚痴が出る。
「…でも…不覚だったよな……
ハァッーーー」
総二郎が夢と間違えて本音を吐露した次の夜から、つくしやたらとスキンシップを求めてくるだ。本来なら、願ったり叶ったりなのだが……当のつくしは、一歩進んだ大人のキスにアップアップ状態で、窒息とは別の意味で倒れそうになっている。
「どんだけ、お子様だよなぁーー」
とは言え総二郎は、そんなつくしが可愛くて可愛くて堪らない。
だが、いかんせん、正しい成年男子の総二郎……つくしが総二郎にくっついてくる度に、欲望と戦っている。
時折、
『負けちまって、欲望のままに突っ走れ』
なんて、甘美な囁きが聞こえてくる。
夫婦なんだし、良いよな?
つくしの親父さんと約束を交わした約束の時期も過ぎた。
互いに学生ではあるが、人の手は十二分にある。ガキが出来りゃ西門一門全員が跡取りが出来たと大喜びだ。
そこまで考えて総二郎は、ため息を吐いた。
「ガキがガキ産んでもいけねぇよな」
もっともな理由を付けてみたものの……実際のところは、欲望のままに突っ走って、もしも嫌われたらと思うと、怖いだけなのだ。バカな考えだと一笑されてしまいそうだが、恋する男なんて多かれ少なかれこんなものなのかもしれない。
赤く輝く月を見ながら、総二郎が本日何度目かの溜め息をついた瞬間
「だぁれーだ」
そんな声と共に小さな両手が総二郎の両眼を隠した。フワリと香る匂いに煩悩を刺激された総二郎は、必死に理性を取り戻そうと
「ったく、そんなガキみたいなことマジにヤメろ」
ブルリと首を振り、思いの外に力強くつくしの手を払いのけていた。
マズイと謝ろうとした次の瞬間
「あっ、あの ごめんなさい
あっ、あの、お義父様が来週からの海外巡業の打ち合わせをしたいから呼んで来てくれって」
口早に用件を伝えられ、謝る機会を逃してしまった。
運の悪い事に、つくしの両親が二人揃ってギックリ腰になり、つくしがバタバタと忙しくなり、なんとなくぎこちないままに総二郎が海外巡業に旅立ってしまったことだ。
巡業から戻り漸く後片付けも終わり、つくしと向き合い二人で話しをしようとしてみれば……悪友達が西門家に勢揃いして、食卓を囲んでいる。
そればかりか……
「牧野の父ちゃん母ちゃんって、変わってんのな」
「うーーーん 極々普通だと思いますよよ」
「いやっ かなり面白いよな」
「クククッ
いつも、あんな感じ?」
「いつも変わらずですけど……」
総二郎の知らない時間を共有したのか?つくしと三人の距離が縮まっているのだ。
自分のいない間に何があった?と考えた瞬間……醜い嫉妬が心の底から立ち上ってきてトイレに行くふりをして席を立った。
あの日と同じ縁側で夜空を眺めれば、満月間近だった筈の月がいつの間にか新月に姿を変え見えなくなっている。
「ハァッー」
あの日とは違った溜め息を吐き
「お月さんまで、つくしの笑顔と同じく雲隠れか?
いやっ違うか……俺の前じゃ、楚々としたふりしてやがるのに、あいつらの前じゃ相変わらず満面の笑みで笑ってやがんもんな」
愚痴を一つ零した。
部屋に戻った総二郎は、ぐでんぐでんに酔っ払うという言葉が似合うほどにしこたま呑んだ。
「こいつがこんな酔っ払うなんてな」
「典型的な妬きもちってやつだよね」
「そういうこったな」
「妬きもち? 総ちゃんが?あたしに?」
つくしが首を傾げる。三人は薄く笑いながら
「さっきの会話で妬いたんだってこと。まぁ、コイツが牧野に呆れたなんてねぇって事だ」
「な、ワケだから
自分がガキ過ぎるから嫌いになったんじゃないかとか、あんま心配しなくてもいいって事だよ」
「本当に本当?」
「間違いなく。
あっ、決定的にダメになっても俺がいるし」
「俺もいんぞ」
「俺もね」
「ぷっ 三人とも元気づけようとしてくれてありがとうございます」
頭上で、そんな会話が交わされてたなんて知る由もないほどに……
三人を送り出した後、眠りこける総二郎の目の前に置かれた琥珀色の液体をクイっとあおった。
「ぶはっ 苦っ
総ちゃん、よくこんな苦いの飲めるなぁ」
ぶつぶつ言いながら、総二郎の隣にそっと寄り添った。
身体の中がカァッーーと熱くなり、貯めていた思いが溢れ出していく。
「総ちゃ……ん
総ちゃん
好き 好き 好き 好き 好き だーい好き
あたし、総ちゃんの好きな大人の女にちゃんとなるから、総ちゃん、あたしをうーんと好きになぁれ」
そう口にしたあと、キョロキョロと辺りを見回してから、そっとそっと唇に指を這わせた。
「総ちゃんの唇……柔らかい」
ゴクリっ
つくしの喉がなり、キュンとしたものが背中を駆け上がる。
ぷるりっ
身を震わせてから、つくしは、総二郎の耳元に唇を寄せ
「つくしが好き つくしが好き つくしが大好きって、総ちゃんの頭の中があたしだけで埋められちゃいますように」
呪文のように愛の言葉を唱えてから、総二郎の唇に自分の唇を重ねた。
温かな感触を唇に感じたのか、総二郎が寝息と共に、ほんの少し唇を開けた。
つくしは総二郎がしてくれた大人のキスを真似て、真っ赤な舌をねじ込んだ。
「はぁぁっ」
寝息と共に艶やかな吐息が総二郎の唇から溢れでる。
その瞬間……
くすぐったいような、こそばゆいような、切ないような、何とも言えない不思議な気持ちがつくしの奥底から芽生えてきて、総二郎の唇を貪った。
熱を帯びた口付けを交わされて、総二郎の意識がぼんやりと目を覚ました。
「つくし?
なっ なっ」
慌てる総二郎を尻目に、薄っすらと一つ微笑んだ唇が、耳朶をカリリと噛んだ。
「うぅっ」
つくしの不意打ちに、思わず溢れる吐息と共に、総二郎の頭から理性と言う名のストッパーがすっ飛んで、ガバッと、つくしの身体を抱きしめて、色気たっぷりのキスをした次の瞬間……
「あははっ マジか
普通、この状況で寝るか?」
総二郎の腕の中でスゥスゥと寝息を立てながら
「……そぉーちゃーん
だ…い…しゅき」
幸せそうに寝言を呟いている。
「ったく …………な
でも……くくくっ、コイツあんな色っぽい顔すんだな。
先が楽しみってことだよな」
つくしを抱きしめ、近い未来に思いを馳せる総二郎だった。
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