明日咲く花

花より男子の2次小説になります。

無花果の花は蜜を滴らす 11

護衛と言う名の見張りがついていても、束の間の自由な時間は、あたしの呼吸を楽にしてくれる。

同時に湧き上がってくるのは、彼と会いたいという思い。

会って彼に触れ、彼の吐息を、彼の温もりを感じたい。

ううん……と、あたしは下を向きながら首を振り、自分の思いを追い払う。

ポンッと肩を叩かれて、顔を上げれば

「牧野……つくしちゃんよね?」

そう言って艶やかに笑う女性が立っていた。

コクンと頷けば

「私、滋。 大河原 滋。 桜子の友達。つくしちゃんと一度会いたいと思ってたんだ」

嬉しそうに言いながら、大河原滋と名乗る女性は、あたしの前のソファーにまるで当然と言う様に腰掛け、自分の後ろに居た黒服の男の一人に

「つくしちゃんとお茶して行くから、あなた方は、下がっていて」

そう声をかけている。

承諾も何もなく決められたのに、不思議と嫌な気持ちが湧いて来なかった。

「あっ、ごめん。 つくしちゃんに会えて嬉しくて……ついつい先走ちゃった。

……ご一緒しても……いい?
って、予定も聞かずに図々しいよね
あぁー 最初の出会いが肝心だって言うのに……」


思わず、クスリと笑いが溢れた。

「丁度、桜子と待ち合わせしてた所なんです。滋さんもご一緒して下さったら嬉しいです」


「うわっ うわっ つくし! やっぱり優しいねー」

相好を崩しながら、あたしの手を取り、ブンブンと縦に振った。その動きに合わせるかのように、グラスに入ったグレープジュースが、さざ波を立てながら揺れている。

「お待たせしましたわ」

桜子から、そう声が掛かった瞬間……

あたしの手の甲がグラスに当たり、カタンっと音を立て倒れた。紫色の液体が、あたしのスカートを濡らしていく。

「あらっ」
「あぁーーーー ごめんなさい」

シンクロする声と共に、櫻之宮の護衛の者たちがあたしに駆け寄って来た。

「つくし様、お召し替えを」

その声を制するように

「なら、私が部屋と着替えを用意しますわ」

滋さんがそう言いながら、あたしの手を取った。

桜子はニッコリと微笑み

「そうですわね。
滋さんが粗相されたんですもの。その方が宜しくてよね
つくし、そうして差し上げて」

きっぱりと言い切った。

押し切られる形でホテルの部屋に入った。シャワーを浴びて出てくる迄に、着替えの衣装が一式用意されていた。


着替えて部屋を出れば、テーブルの上には様々なスウィーツと軽食が用意されていた。

「折角ですから、こちらでお茶しましょう」

桜子がニッコリと微笑む。

櫻之宮の護衛の者は、ドアの外に追い払われ部屋には三人だけだった。

嬉しくて、嬉しくて、思わず微笑めば


「つくしは、先ず手始めに万里様に連絡した方が宜しいかと」

あたしにバッグを押し付け、そう言った。

スマホを取り出し、万里くんに電話を掛ける。ワンコール目に万里くんの声がする。

『あっ 万里くん? つくしです。
あの、ちょっと洋服が汚れちゃって、着替えるのにお部屋を取って貰ったの。
あっ、桜子のお友達の大河原滋さんともご一緒していて、折角だからこのままお部屋でお茶しようって話になったのだけど、いい……かな?』

『勿論構わないよ。ゆっくりとしておいで』

『うん。ありがとう。
お邪魔しちゃってごめんなさい。じゃあ』

電話を切れば


桜子が唇の端をほんの少し持ち上げ

「滋さんが、つくしにどうしてもお会いしたいと仰るので、色々とお願いしましたの」

「ぇっ?」

「万事上手くいきましたでしょ?」

滋さんが、桜子の隣でブンブンと首を振っている。

「もしかして……全部、計算尽くなの?」

つくしの問いに、勿論だと言うように、桜子が美しく微笑み

「学園の中では万里様のイヌが多くて、ゆっくりと話せませんもの
……とは言え、監視の目を無理して撒いて、万里様に反感を買ってもつまりませんでしょ」

「桜子……ありがとう」

「あらっ つくしの為じゃありませんことよ。ただ単に監視の目が鬱陶しいだけですもの」

桜子がクルリと髪を指で巻く。

「あーっ 桜子、つくしちゃんにお礼言われて、照れてる ププッ」

滋さんが桜子を指で指しクスクスと笑えば、桜子は眉間に皺を寄せジロリと滋さんを睨み

「滋さん、あまり煩いと追い出しますわよ」

滋さんは慌てたように

「そ、そ、そんなことより、本題よ。本題!」

桜子はコホンと一つ咳払いをした後

「無花果の写真集をこよなく愛する大河原滋嬢は、無花果の唯一無二のモデルである牧野つくし嬢に興味津々で、制作秘話を教えて貰えれば、便宜を図りたいと」

「便宜を図り……たい?」

「力になりたいと言うことですわ。

特に、千暁様が賞をお取りになられた作品についてお聞きになりたいのですって」

桜の横で滋さんが、高速で頷いている。

「些か、ミーハー過ぎますので、余計なお世話だと思われたり、制作秘話を話したくなんかないと思われるようでしたら、お断り頂いていいですのよ」

「ちょっ、桜子、それは無いんじゃない。ちゃんと滋ちゃんは力になる凄い人ですって、売り込んでよー」

「はい、はい。
滋さんは、こう見えても大河原財閥の跡取り娘ですから、なにかと力になっては下さるかと……

と言うよりも、秘話なんてお話しにならなくても、つくしのファンなので、勝手に力になってくれるかと思いますわ」

「あぁーー もぅ 桜子ダメじゃん
それじゃ 色々知れないでしょ」

「では滋さん、つくしが秘話を話したくない場合は、友人になれない可能性も出てくる。コレで宜しいですか?」

「だ、だ、だめ
先ずは友達になってもらって、で、一個だけ!一個だけ聞くって言うのは」


桜子はあたしを見て

「だそうです。どうします?」

「どうも何も、モデルはあたしだって知ってるなら、コレと言って秘密なんて……ないかなぁーって思うんだけど……
友達になるって言っても、あたしでいいのって感じだし。

あっ、でもこんな条件で便宜を図るなんてしなくて良いですから」

「うわぁー やっぱり無花果ちゃんのつくしちゃんだ!
私で出来る事ならなんでもする。いやっ、させて下さい」

キラキラとした目で滋さんに見つめられた。
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