紅蓮 109 つかつく
司は、目に見えぬ者に対しての精一杯の誠意だとばかりに、護衛の者も付けずにただ一人、地図に指し示されていた場所に向かった。
目的の場所は、廃墟と化した一軒の洋館だった。波が満ち溢れて来たのだろうか、窓の外から潮騒の音が聞こえる。
潮騒の音は司に、つくしを迎えに来た日のことを皮切りに、二人で過ごした日々を思い起こさせる。
司の表情 にに柔らかい微笑みが浮かんだ。
つくしと出会うまでの司は、空虚の中を彷徨っていた。一時しのぎと言えど伽藍堂な司を埋めることが出来たのは、’暴力と支配’ が齎らす昂揚感だけだった。
つくしと出会い恋をして、伽藍堂だった己の心に枯れることのない花が咲いた。一輪の花は己の核になり、道明寺の木偶人形ではない、道明寺司を形成させた。
だから、あのとき……道明寺グループを守るために、自分の “幸せ” を捨てた。
つくしなら自分が居なくとも “幸せ” に生きられる人間だと思っていた。
「いや……違うな……
司は下を向き吐息のような声を出した。
全てが甘えだった。つくしなら、自分を信じ待ち続けてくれる筈だと。
類やあきらの所ではなく、西門に身を寄せたと聞いた時……恥ずかしながら、つくしが自分を思っての行動だと安堵した。
三年で道明寺を立て直すと決め、寝食も忘れたかのように働いた。そうすれば、全て元通りに上手くいく筈だと考えていた。
つくしが持つ強さに隠れた脆さに気づいて居ながら、気がつかぬふりをして手を離してしまった……
それしか道がないと信じ込んでいた。
あの日とて同じ事だ……差し出した己の手を、つくしは必ず握り返してくれると信じ込んでいた。
今ならわかる……それは、思い上がりだったのだと。
あの時……奪わなければいけなかったのだ。
今ならわかる……それが己の弱さだったのだと。
もう、決して恐れはしない。決意を表すかのように、司が顔を上げた瞬間……ドアの開く音が聞こえる。
ゆっくりと後ろを振り向けば、凛とした佇まいの女が頭を垂れ
「あなたは……」
思いもしなかった相手に司の瞳の奥が揺れる。 信じていいのか? いけないのか?
「驚かれましたよね……信じてくれとは申しません。
宜しければ、少しだけ昔話にお付き合い頂いて、その上でご判断頂ければと思います」
女は、司の瞳の奥を覗き込むように真っ直ぐに見つめた。
ザブン、ザブンと波の音だけが二人の間に響き渡る。
目的の場所は、廃墟と化した一軒の洋館だった。波が満ち溢れて来たのだろうか、窓の外から潮騒の音が聞こえる。
潮騒の音は司に、つくしを迎えに来た日のことを皮切りに、二人で過ごした日々を思い起こさせる。
司の
つくしと出会うまでの司は、空虚の中を彷徨っていた。一時しのぎと言えど伽藍堂な司を埋めることが出来たのは、’暴力と支配’ が齎らす昂揚感だけだった。
つくしと出会い恋をして、伽藍堂だった己の心に枯れることのない花が咲いた。一輪の花は己の核になり、道明寺の木偶人形ではない、道明寺司を形成させた。
だから、あのとき……道明寺グループを守るために、自分の “幸せ” を捨てた。
つくしなら自分が居なくとも “幸せ” に生きられる人間だと思っていた。
「いや……違うな……
司は下を向き吐息のような声を出した。
全てが甘えだった。つくしなら、自分を信じ待ち続けてくれる筈だと。
類やあきらの所ではなく、西門に身を寄せたと聞いた時……恥ずかしながら、つくしが自分を思っての行動だと安堵した。
三年で道明寺を立て直すと決め、寝食も忘れたかのように働いた。そうすれば、全て元通りに上手くいく筈だと考えていた。
つくしが持つ強さに隠れた脆さに気づいて居ながら、気がつかぬふりをして手を離してしまった……
それしか道がないと信じ込んでいた。
あの日とて同じ事だ……差し出した己の手を、つくしは必ず握り返してくれると信じ込んでいた。
今ならわかる……それは、思い上がりだったのだと。
あの時……奪わなければいけなかったのだ。
今ならわかる……それが己の弱さだったのだと。
もう、決して恐れはしない。決意を表すかのように、司が顔を上げた瞬間……ドアの開く音が聞こえる。
ゆっくりと後ろを振り向けば、凛とした佇まいの女が頭を垂れ
「あなたは……」
思いもしなかった相手に司の瞳の奥が揺れる。 信じていいのか? いけないのか?
「驚かれましたよね……信じてくれとは申しません。
宜しければ、少しだけ昔話にお付き合い頂いて、その上でご判断頂ければと思います」
女は、司の瞳の奥を覗き込むように真っ直ぐに見つめた。
ザブン、ザブンと波の音だけが二人の間に響き渡る。
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