無花果の花は蜜を滴らす 13
敵情視察だと言って、桜子と連なり滋さんが、あたしを送ってくれた。
「お初にお目にかかります。大河原滋と申します。
大切なつくしさんにご迷惑お掛けした上に、長々とお引き留めする形になってしまって誠に申し訳ございませんでした」
さっきまで大口開けて馬鹿笑いしてたとは思えない様な令嬢らしい微笑みを浮かべ、優雅に会釈した。
瞳子おば様は
「息子も直に戻って来るので、ご迷惑でなければお茶でもいかがしら?」
滋さんと桜子を誘った。形式的に一度は断ったものの、是非にと請われる形で二人は了承し、四人で卓を囲んでいる。
他愛無い幾つかのやり取りの後
「つくしちゃん、まだ社交の場に慣れていないから、貴女方の様な良いお友達がいるなんて、本当に心強いわ。これからも、どうかどうか仲良くして頂戴ね」
瞳子おば様は、二人に向けて頭を下げた。
「櫻之宮夫人は、つくしさんの本当のお母様の様なのですね……」
その言葉を受け、滋さんは呟きにも似た小さな声を発した。
その小さな声に、瞳子おば様は
「いやだわ滋さん。つくしちゃんは私の娘でしてよ。
ねっ、つくしちゃん」
そう言葉を発した後、細っそりとした白い指をあたしの手に重ねながら、桜色の美しい唇で言葉を発する。
あたしは、その細く白い指を振り払えずに、コクンと小さく頷いた。
桜色に彩られた瞳子おば様の唇の口角が満足気に上がった丁度その時、ノックの音がして、万里くんが部屋に入って来た。
当たり障りのない会話の後、滋さんは、あたしを誘う許可を万里くんに切り出してくれた。
次の約束を交わし、あたしは笑顔で二人を見送った。
遠くない未来……彼に会えるかもしれない。そう考えただけで、嬉しくて嬉しくて自然に笑顔が出てきた。
あたしは、浮かれていたのだろう。
「今日は、本当に楽しかったみたいだね」
万里くんが、表面上は穏やかに、でも、ほんの少し面白くなさそうに口にした時、浮かれ過ぎていた自分に気がついた。
「あっ、うん。万里くんのお陰だよ」
「……俺の?」
意外な答えだったのか、万里くんは小首を傾げながら、美しい顔であたしの顔を見る。
あたしは安堵とともに、コクンと頷き
「万里くんが桜子と遊んでおいでって言ってくれたでしょ。だから、滋さんと知り合えたの。それに……次の約束も快く許してくれたんだもの。
ありがとう万里くん」
ほんの少し背伸びをして、万里くんの頬にキスをした。
万里くんは、驚いた顔をして
「夢じゃないよね?」
そう聞いてきた。
「……万里……くん?」
「ごめん……つくしからキスしてくれるなんて思ってもみなかったから……嬉しくて」
万里くんは、愛おしげな眼差しであたしを見つめ、瞳子おば様と良く似た唇の口角を上げ嬉しそうに微笑んだ。
その笑顔が本当に嬉しそうで……心がチクリと痛んだ。
それでも、あたしは、この人を愛せない。
そんなあたしの心とは裏腹に、この日から万里くんは、あたしの行動に対して寛大になった。
学園の帰り道、桜子や滋さんと連れ立ち出掛けることを許してくれただけでは無く、スマホのチェックや持ち物の検査をしなくなった。
時折、ご褒美を与えるように……万里くんの頬にキスをする。
恋する女は、卑怯だ。
「お初にお目にかかります。大河原滋と申します。
大切なつくしさんにご迷惑お掛けした上に、長々とお引き留めする形になってしまって誠に申し訳ございませんでした」
さっきまで大口開けて馬鹿笑いしてたとは思えない様な令嬢らしい微笑みを浮かべ、優雅に会釈した。
瞳子おば様は
「息子も直に戻って来るので、ご迷惑でなければお茶でもいかがしら?」
滋さんと桜子を誘った。形式的に一度は断ったものの、是非にと請われる形で二人は了承し、四人で卓を囲んでいる。
他愛無い幾つかのやり取りの後
「つくしちゃん、まだ社交の場に慣れていないから、貴女方の様な良いお友達がいるなんて、本当に心強いわ。これからも、どうかどうか仲良くして頂戴ね」
瞳子おば様は、二人に向けて頭を下げた。
「櫻之宮夫人は、つくしさんの本当のお母様の様なのですね……」
その言葉を受け、滋さんは呟きにも似た小さな声を発した。
その小さな声に、瞳子おば様は
「いやだわ滋さん。つくしちゃんは私の娘でしてよ。
ねっ、つくしちゃん」
そう言葉を発した後、細っそりとした白い指をあたしの手に重ねながら、桜色の美しい唇で言葉を発する。
あたしは、その細く白い指を振り払えずに、コクンと小さく頷いた。
桜色に彩られた瞳子おば様の唇の口角が満足気に上がった丁度その時、ノックの音がして、万里くんが部屋に入って来た。
当たり障りのない会話の後、滋さんは、あたしを誘う許可を万里くんに切り出してくれた。
次の約束を交わし、あたしは笑顔で二人を見送った。
遠くない未来……彼に会えるかもしれない。そう考えただけで、嬉しくて嬉しくて自然に笑顔が出てきた。
あたしは、浮かれていたのだろう。
「今日は、本当に楽しかったみたいだね」
万里くんが、表面上は穏やかに、でも、ほんの少し面白くなさそうに口にした時、浮かれ過ぎていた自分に気がついた。
「あっ、うん。万里くんのお陰だよ」
「……俺の?」
意外な答えだったのか、万里くんは小首を傾げながら、美しい顔であたしの顔を見る。
あたしは安堵とともに、コクンと頷き
「万里くんが桜子と遊んでおいでって言ってくれたでしょ。だから、滋さんと知り合えたの。それに……次の約束も快く許してくれたんだもの。
ありがとう万里くん」
ほんの少し背伸びをして、万里くんの頬にキスをした。
万里くんは、驚いた顔をして
「夢じゃないよね?」
そう聞いてきた。
「……万里……くん?」
「ごめん……つくしからキスしてくれるなんて思ってもみなかったから……嬉しくて」
万里くんは、愛おしげな眼差しであたしを見つめ、瞳子おば様と良く似た唇の口角を上げ嬉しそうに微笑んだ。
その笑顔が本当に嬉しそうで……心がチクリと痛んだ。
それでも、あたしは、この人を愛せない。
そんなあたしの心とは裏腹に、この日から万里くんは、あたしの行動に対して寛大になった。
学園の帰り道、桜子や滋さんと連れ立ち出掛けることを許してくれただけでは無く、スマホのチェックや持ち物の検査をしなくなった。
時折、ご褒美を与えるように……万里くんの頬にキスをする。
恋する女は、卑怯だ。
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