明日咲く花

花より男子の2次小説になります。

まだ気づかない02 類つく

六度目の出会いは、気に入らない見合い相手を撒くために紛れ込んだ仮装パーティー。

余興で出て来たキャラクターマスコットがダンスするのを見て、後ろの女が嬉しそうに声をあげた

《 おぉーーー懐かしい!
私も着ぐるみ着てバイトしてた事あるんだよね!
でねでね、頑張ったって言って金一封貰ったのが花沢。それまで色々バイトしてたけど、外部の業者にも親切で頑張りを認めてくれるなんてウチの会社くらいだったんだよ。もう一発で入りたいって思ったんだよねーーー》


スワヒリ語で話してる内容が気になって、引き止められるように立ち止まっていた。類が急に止まったものだから、後ろから女と一緒に歩いていた男が、ボスッと類にぶつかった。
 
「すみません」

男の言葉に

《いや、こちらこそ立ち止まってしまって申し訳ない》

類が流暢なスワヒリ語で返した。

男と女は顔を見合わせ

《スワヒリ語関係の方ですか?》

そう聞いてきた。スワヒリ語関係ってなんだ?と思ったが……なんとなくその場のノリで類は、そうだと返事をしてしまった。

その返事に、自分達の名を名乗った後、もしも迷惑でなければ少しの時間でいいので自分達の話し相手をしてくれないかと頼まれた。

“ hapana ”と答えるつもりが何故か“ Ndio”
答えていた。類の返事に二人は目を見合わせ同じ笑顔でふわりと微笑んだ。

その笑顔がなんだか面白くなくて、

《お二人は仲がよろしいんですね。恋人同士?》

類は、笑顔を貼り付けながら聞いた

女は頭を振りながら

《いえいえ、雪ちゃんは学びの…

つくしちゃん、違う 違う 恋人です。でしょ》


隣の女をつくしちゃんと呼びながら、雪之丞が言葉をかぶせるように訂正した。

《そうそう、恋人です》

牧野は、ポンと手でも打ちそうな勢いで言い直した。
その答えに雪之丞は満足げにつくしの頭を撫でた。

《……そうそう、恋人……?》

類が小さく呟いて首を傾げれば

《偽装なんですけどねっ》

雪之丞が小さく口にした。

《偽装?》

《つくしちゃん、爺さまのお気に入りなんです》


雪之丞は、説明とも説明じゃないとも取れる言葉をにこやかな笑顔で言い切った。

《偽装なのに、俺に言っても大丈夫?》

類が雪之丞に聞けば

《今日は爺さま関係のパーティーじゃないんで、それに、うーーん なんとなく……》

《なんとなく?》

《えぇ、なんとなく……ねっ》


類の問いに雪之丞は、ふわりと微笑みウィンクを一つした。

首を傾げた類に、牧野は

《雪ちゃん たまに不思議なんですよ》

そう言って、ケラケラと笑った。


帰り際、雪之丞が類の耳元で

「花沢類さん、つくしちゃんってすごい鈍感なんですよ」

謎の言葉……いや、何よりも花沢の苗字は教えてない筈だ。顔だって仮面で分からない筈と類が雪之丞を見れば、小首を傾げ満面の笑みで

「またお会い出来るのを楽しみにしています」

片手を軽く上げ、牧野を連れて帰って行った。


帰宅後、ホッと一息ついて頭に浮かんだのは……女の顔

「うーーん なんだかどっかで見た事ある顔なんだよね」

モヤモヤしながら類は数日間過ごした。解決したのは、噂のバナナジュースを目にした瞬間。

『あぁあ アレか』

記憶が繋がったのがよほど嬉しかったのか、類は人目も忘れて、声を出すと同時に無意識にポンッと手を叩いていた。

スルスルと紐解けば、ポスター泥棒も昼寝の少女も宙返りの少女も繋がった。

「面白いな」

思わず出た類の第一声だ。

噂のバナナジュースは格別の味がしたのだろう。悩んでいたタンザニアのバナナ事業に即決で参入を決めるほどに。

新しいバナナ事業は、バナナの生産から製品開発販売まで全てを担う。その製品開発、販売を流通食料本部が取り仕切る。
類は、日本本社の初仕事として、己自らもこのプロジェクトに入ることを告げた。部長から発表がされた瞬間……流通食料本部内は沸きに沸いた。

そんな中で、普段と変わらず平常運転なのが牧野つくし。唇と鼻の間にボールペン刺しながら資料と睨めっこしている。

「牧野、専務だぞ専務が指揮とるんだぞ!」
「つくし、専務よ専務!あの噂の美貌専務とめくるめくる恋よ恋!」


部内の人々がどれだけ騒ごうが、定年まで花沢の一員として働きたいつくしにとって、身に余る出世も、ましてや専務と恋におちる事なんてよりも、縁の下の力持ち的な存在で、疎まれず恙無い日々を過ごしたいと考えているのだ。

目先の利より、未来の利。つくしにとって何よりも大切なことだ。
なので、黙々といまやるべき仕事をこなしている。

「コホンッ」

部長の咳払いの音がして、部内は一斉に静まる。

「これから30分後、チームメンバー宛に、それぞれの課から今後の日程及び本日の顔合わせの場所が一斉送信されるので確認宜しく頼む。以上、解散!」

皆んなが今か今かと待ち受ける中、睨めっこしていた資料を元に契約書類に取り掛かった牧野。こうなると牧野の耳に雑事は届かない。

30分後……部内は悲喜交々。でも、牧野は仕事に没頭中。今日のランチは、多喜田に奢ってもらう約束をしていたので特に時間との闘いで忙しいのだ。

休憩時間突入と共に席を立ち、待ち合わせ場所に向かった。それを見ていた部長は、今回のプロジェクト抜擢には、流石の牧野も力入っているな。と感心していたのだが………10分後、待ち合わせの会議室で自分の甘さを知ることになる。


「菊名、牧野はどうした?」

「遠野課長、牧野もメンバーの一員ですか?」

「なに言ってる。メールにメンバーも載せてあっただろう」

「いやっ 載ってなかったですよ なぁ 山瀬 百田」

コクンコクンと二人は頷き、ほかのメンバーにも聞いていく。居合わせた全員がコクコクと頷いていく。

「うっ なんでもいい。至急牧野に連絡を入れろ」

慌てて牧野のスマホに電話をするものの、鳴らしても鳴らしても出やしない。



牧野のスマホは鞄の中でカタカタと着信を告げていた。


「うわっ むっちゃ美味しい 雪ちゃんありがとうね」


「いやいや、俺の方こそありがとうだよ。
でもさ、ランチじゃなくてディナーのが良かったんじゃないの?」

「あぁ うん。でも、ここのディナー超お高いから」

「そんなの別に良かったのに」

「いやっ ダメだって。それじゃなくても雪ちゃんには世話になりっぱなしな
んだから」

「俺のが世話になってると思うけどな」

「いやいやいや、雪之丞様様です」

仲睦まじく雪之丞と会話を楽しみ食事を終えた牧野が、時間を確認するためにスマホを出せば

「うわっ 何これ」

おびただしい数の電話の着信と、未読LINE。

「っん? どうしたの?」

スマホを見せれば

「うわっ すごい数だね つくしちゃんなんか重大なこと忘れた?」

牧野が少し思案してから首を振った瞬間……カタカタとスマホが揺れた。

「うわっ」

触っていけないものに触ってしまったように、慌ててスマホから手を離した。

「いや、出た方が良いと思うよ」

「あははっ そうだよね じゃっ、先出るね」

慌てて店から出て電話に出れば

(あっ ようやく出た。牧野、1時から花沢専務との会議
今、先に他の部屋で他の課の人と前打ち合わせ中)

(えっ?)

(課長からのメール見てないでしょ)

(課長からのメール?)

(朝、部長が話してた件だよ。牧野、今回のチームの中に入ってるから)

(えっ)

(とりあえず、1時からD1会議室で専務含めての会議だから、急げ!)

(あっ はい)

牧野は走る。走って走って……



「乗りまーーす」

エレベーターが閉まる直前に、スライディングする勢いで乗り込んだ。


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2 Comments

asu  

パールさま

雪之丞!いい人なのよーーーー

2019/11/28 (Thu) 20:53 | EDIT | REPLY |   

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2019/11/24 (Sun) 15:50 | EDIT | REPLY |   

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