まだ気づかない03 類つく
「ふぅーーっ」
一拍置いて、周りを見回せば……タラリと冷や汗が出る。どうやら牧野……乗ってはいけないエレベーターに乗ってしまったようだ。
なるべく目立たないように小さくなってみたけれど、閉まる直前に乗ってきた人間が目立たないわけもなく……トホホ状態だ。それでも、目立たないように精一杯小さくなってうつむいた。
そんな中
《たしか君、牧野……つくしさんだったよね?》
とても綺麗なスワヒリ語で話しかけられた。
だ、だ、誰、この空気の中、話しかけてくる猛者は……でも、でも、スワヒリ語喋りたーい。 そう思いながら声の主に顔を向ける。
そこには、見知った顔が……いや、牧野にとって、見知った顔はなかった。ただココは渡りに船だとばかりに《Ndio ndio》と答えれば、類は満足そうに微笑んで
《雪之丞君は元気にしてる?》
と聞いてきた。
牧野は、内心では沢山のはてなマークを飛び交いなせながらも
《爺さまに叱られてしょぼくれてましたが、今日のお昼は、美味しそうに食べてたので元気です!》
正直に答えれば、類は、なぜか苦虫潰したような顔をして
《ふーーーん 相変わらず仲がいいんだね》
なんて、嫌味紛いのことまで言う。
普段、あまり表情を変えない類がコロコロと表情を変えるものだから、エレベーターの中の人間は、珍しい生き物でも見る目で類を見た。勿論、類に気づかれないように……平静を装いながら。
《はい。仲良しです》
牧野は、あの日と同じフワリと微笑み言い切った。
一瞬……そう一瞬……類はその笑顔に見惚れた。類は、ぷるりと頭を一振りしてから
《このままだと遅刻でしょ? 今日って遅刻しちゃまずいやつだよね?》
優しい声色にコクンとつくしが頷けば
《じゃあ、今回は助けさせてよ》
《今回は……ですか?》
意味がわからずに首を傾げて類の言葉を繰り返せば、類は至極いい笑顔で
《うん。前は断られたからね。今回はいいよね》
そう口にしたあと、第一秘書の田村に向き直り
「田村、牧野さんに専務秘書見習いで辞令出しといて」
「はい畏まりました。本日付けでよろしいでしょうか?」
「あぁ、本日付けで宜しく頼むよ。
「じゃあ、牧野さんこれから宜しく頼むね」
これから宜しくの意味がわからずに、牧野が目をパチクリさせた瞬間、エレベーターが目的の階に到着した。
田村が牧野を促し、前を歩く類につづく。牧野は促されるままにして歩みを進めた。
花沢専務ご一行と共に小さくなって会議室に入ってきた牧野に、部長はじめ部内の皆んなが目をパチクリさせた。課長に至っては、口までパクパクさせている。その様がビックリ金魚のようで……こんな時だと言うのに、牧野の頭の中には金魚課長がグルグル回る。
ダメ、ダメ、ダメあたし……コレで何回も失敗してるじゃん。
でも、でも、ビックリ金魚だよ。ビックリ金魚!
牧野が抑えきれずに笑いを零した。突き刺さるような視線に晒された瞬間……
「クククッ
本当、あんたあきないよね」
心底楽しそうに声を立て類が笑った。
どうやら花沢類と言うこの男……かなりの笑い上戸らしく、長いこと笑っていた。
その日その時から、牧野は類のお気に入りとして周知されることになるのだが……
恙無くを信条にする牧野にとって、暫くの間は、迷惑この上ないことだったりしたのだ。
まだ二人は何も気づかない。
一拍置いて、周りを見回せば……タラリと冷や汗が出る。どうやら牧野……乗ってはいけないエレベーターに乗ってしまったようだ。
なるべく目立たないように小さくなってみたけれど、閉まる直前に乗ってきた人間が目立たないわけもなく……トホホ状態だ。それでも、目立たないように精一杯小さくなってうつむいた。
そんな中
《たしか君、牧野……つくしさんだったよね?》
とても綺麗なスワヒリ語で話しかけられた。
だ、だ、誰、この空気の中、話しかけてくる猛者は……でも、でも、スワヒリ語喋りたーい。 そう思いながら声の主に顔を向ける。
そこには、見知った顔が……いや、牧野にとって、見知った顔はなかった。ただココは渡りに船だとばかりに《Ndio ndio》と答えれば、類は満足そうに微笑んで
《雪之丞君は元気にしてる?》
と聞いてきた。
牧野は、内心では沢山のはてなマークを飛び交いなせながらも
《爺さまに叱られてしょぼくれてましたが、今日のお昼は、美味しそうに食べてたので元気です!》
正直に答えれば、類は、なぜか苦虫潰したような顔をして
《ふーーーん 相変わらず仲がいいんだね》
なんて、嫌味紛いのことまで言う。
普段、あまり表情を変えない類がコロコロと表情を変えるものだから、エレベーターの中の人間は、珍しい生き物でも見る目で類を見た。勿論、類に気づかれないように……平静を装いながら。
《はい。仲良しです》
牧野は、あの日と同じフワリと微笑み言い切った。
一瞬……そう一瞬……類はその笑顔に見惚れた。類は、ぷるりと頭を一振りしてから
《このままだと遅刻でしょ? 今日って遅刻しちゃまずいやつだよね?》
優しい声色にコクンとつくしが頷けば
《じゃあ、今回は助けさせてよ》
《今回は……ですか?》
意味がわからずに首を傾げて類の言葉を繰り返せば、類は至極いい笑顔で
《うん。前は断られたからね。今回はいいよね》
そう口にしたあと、第一秘書の田村に向き直り
「田村、牧野さんに専務秘書見習いで辞令出しといて」
「はい畏まりました。本日付けでよろしいでしょうか?」
「あぁ、本日付けで宜しく頼むよ。
「じゃあ、牧野さんこれから宜しく頼むね」
これから宜しくの意味がわからずに、牧野が目をパチクリさせた瞬間、エレベーターが目的の階に到着した。
田村が牧野を促し、前を歩く類につづく。牧野は促されるままにして歩みを進めた。
花沢専務ご一行と共に小さくなって会議室に入ってきた牧野に、部長はじめ部内の皆んなが目をパチクリさせた。課長に至っては、口までパクパクさせている。その様がビックリ金魚のようで……こんな時だと言うのに、牧野の頭の中には金魚課長がグルグル回る。
ダメ、ダメ、ダメあたし……コレで何回も失敗してるじゃん。
でも、でも、ビックリ金魚だよ。ビックリ金魚!
牧野が抑えきれずに笑いを零した。突き刺さるような視線に晒された瞬間……
「クククッ
本当、あんたあきないよね」
心底楽しそうに声を立て類が笑った。
どうやら花沢類と言うこの男……かなりの笑い上戸らしく、長いこと笑っていた。
その日その時から、牧野は類のお気に入りとして周知されることになるのだが……
恙無くを信条にする牧野にとって、暫くの間は、迷惑この上ないことだったりしたのだ。
まだ二人は何も気づかない。
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