まだ気づかない04 類つく
「専務って本当に笑い上戸ですよね」
「牧野が変なことばっかりするからだろう」
「えぇーーー人のせいですか?
専務だって随分と変なことしてますけど……」
牧野の言葉に類は、手身近にあった書類を丸めるとポカンっと叩きながら
「牧野のフォローしてるとだろう」
「あぁーーーーーー 暴力上司ですわぁー コンプライアンス委員会の登場ですよね」
「何が、ですわだよ。それより朝頼んどいた書類は?」
「いまお手許に丸められているかと……」
ほんの少し唇の端をあげ類を見た。
「コホンッ」
類が咳払いをすれば
「いやいや コホンッじゃないですよ」
「俺……上司」
「明らかにパワハラですね
ここは、やはりコンプライアンス委員会に」
「牧野、そのぉ言葉を使いたいだけだろ?」
「あははってバレてます?」
掛け合い漫才のような会話が続く。そんな中、類の第一秘書であり牧野の直属の上司になった秘書課室長の田村が嬉しさを滲ませた呆れ顔で見ている。田村も最初のうちは、二人のやりとりにかなり驚いたが……じきに慣れた。
外では、相変わらず【氷の貴公子】などと呼ばれているが、牧野がいる時の類は、人間味に溢れている。長年、類を見てきた田村にとってそれが至極嬉しいことなのだ。
時折ここに雪之丞が加わる。類と雪之丞のコンボは、通常の女子にとっては、かなりの破壊力がある条件なのだが……それはそれ、恙無くが信条の牧野にとって、この二人は恋愛関係のルートから外されている。
雪之丞は類に
「ねっ つくしちゃんってかなりの鈍感でしょ」
ほんの少し寂しげに言うことがあるので、類は、雪之丞が牧野に本気で【片思い】をしているのだと気がついた。
雪之丞の爺様こと多喜田グループの会長が、二人が公の場で恋人同士を気取る風に仕向けたのは、雪之丞の片思いに援護射撃した結果だった。
「不甲斐ないですよね
でも……つくしちゃんのこと、失いたくないんですよね。
だから外堀から攻めてみてるんですけどね。つくしちゃん、金持ちハンサムに興味0なんですよ。
ちがうなー 恋愛対象としては、逆にマイナスかな」
類と雪之丞二人で飲んだ時の台詞だ。
「マイナス?」
「そうマイナスもマイナス。俺や類さんみたいなイケメン社長令息なんて問題外だからマイナスも貰えないかもですよ」
雪之丞が戯けながら言うその言葉に、思わず類は食いついていた。
「理由は?」
「大きな夢を見たくないから。みたいですよ」
「へっ なにそれ」
「うーーん 詳しいことは、はぐらかされちゃうんで分からないんですけどね」
「ふーーん
なんか、牧野らしくないよね」
「ですよね。でも、出会った頃からそんな感じだったんで……つくしちゃんらしいと言えば、らしい気もするんですよね」
「出会ったのって高1の時って言ってたっけ?」
「えぇ、バイト先で」
「バイト?」
「あっ、爺様の意向で多喜田の男は、バイトするって言うのがあるんですよ。最初は、意味わかんないし、かったるかったんですけどねー
つくしちゃんと出会って、働くのって楽しいのかなって。
彼女、なんでも一生懸命で楽しそうなんですよね。凄いなって見始めた時には、もう恋してたんでしょうね」
雪之丞がフワリと微笑み言葉を続ける。
「つくしちゃんに会いたくて、時間の許す限りシフト入れてたんで、結構仲良くなって……そのうち色々話すようになったんですよ。話せば話すほど、好きになったんですよね。
大学は、つくしちゃんと同じとこ入りたくて、大学までエスカレーター式の高校から鞍替えしたんで、両親説得するのが大変だったんですけどね。
爺様はもう既に俺のつくしちゃんへの思いを知ってたみたいで、密かにつくしちゃんと接触して気に入ったみたいで……反対する両親を説得してくれたんですよ。
受験勉強は、二人で図書館やら爺様の邸に行ってやってたんで、めちゃくちゃ楽しかったですよ」
「それだけ一緒に居て、恋にはならなかったの?」
「類さん案外キツいこと聞きますよね」
「あっ ごめん」
「いいですけどね。
さっきも言った通りで、つくしちゃんと恋にならなかったのは、俺が美形で金持ちでモテるからです」
「美形で金持ちでモテるが……ねぇ」
「二人でいる目の前で、女友達に付き合ってるのかって聞かれて、そう答えてましたよ。
まぁ、出会った頃から言ってたことなんですけど……
美形なのも金持ちなのもモテるのも、俺のせいじゃないのに……ですよ。
凄いショックで、他の子と遊んだりして、しばらくつくしちゃんを避けてたんですよね。そしたら、どこから湧いてくるんだか……つくしちゃん目当てがワンサカ湧いちゃって。その中の誰一人として、つくしちゃんを任せて安心なんて思える奴がいなくて……また戻っちゃうんですよ。バカみたいに何度も繰り返して……そんな時、爺様が見合い話を持ってきて……で、つくしちゃんに恋人のフリして欲しいって頼んだんですよ」
「なんで、恋人になって欲しいじゃなくて?恋人のフリ?」
「恋になりそうないい感じってあるじゃないですか? そんな時、必ずつくしちゃん、スッと避けるんですよ。何年一緒に居ても、心の奥底には入らせてくれないんですよね」
雪之丞が寂し気にフワリと微笑んだあと
「あっ、俺、来月から一年くらい、オランダ勤務なんで、つくしちゃんの虫避けお願いしますね。
頼れるの類さんくらいなんで……お願いしますね」
類は、雪之丞の真剣な勢いに思わずコクンと頷いていた。
「牧野が変なことばっかりするからだろう」
「えぇーーー人のせいですか?
専務だって随分と変なことしてますけど……」
牧野の言葉に類は、手身近にあった書類を丸めるとポカンっと叩きながら
「牧野のフォローしてるとだろう」
「あぁーーーーーー 暴力上司ですわぁー コンプライアンス委員会の登場ですよね」
「何が、ですわだよ。それより朝頼んどいた書類は?」
「いまお手許に丸められているかと……」
ほんの少し唇の端をあげ類を見た。
「コホンッ」
類が咳払いをすれば
「いやいや コホンッじゃないですよ」
「俺……上司」
「明らかにパワハラですね
ここは、やはりコンプライアンス委員会に」
「牧野、そのぉ言葉を使いたいだけだろ?」
「あははってバレてます?」
掛け合い漫才のような会話が続く。そんな中、類の第一秘書であり牧野の直属の上司になった秘書課室長の田村が嬉しさを滲ませた呆れ顔で見ている。田村も最初のうちは、二人のやりとりにかなり驚いたが……じきに慣れた。
外では、相変わらず【氷の貴公子】などと呼ばれているが、牧野がいる時の類は、人間味に溢れている。長年、類を見てきた田村にとってそれが至極嬉しいことなのだ。
時折ここに雪之丞が加わる。類と雪之丞のコンボは、通常の女子にとっては、かなりの破壊力がある条件なのだが……それはそれ、恙無くが信条の牧野にとって、この二人は恋愛関係のルートから外されている。
雪之丞は類に
「ねっ つくしちゃんってかなりの鈍感でしょ」
ほんの少し寂しげに言うことがあるので、類は、雪之丞が牧野に本気で【片思い】をしているのだと気がついた。
雪之丞の爺様こと多喜田グループの会長が、二人が公の場で恋人同士を気取る風に仕向けたのは、雪之丞の片思いに援護射撃した結果だった。
「不甲斐ないですよね
でも……つくしちゃんのこと、失いたくないんですよね。
だから外堀から攻めてみてるんですけどね。つくしちゃん、金持ちハンサムに興味0なんですよ。
ちがうなー 恋愛対象としては、逆にマイナスかな」
類と雪之丞二人で飲んだ時の台詞だ。
「マイナス?」
「そうマイナスもマイナス。俺や類さんみたいなイケメン社長令息なんて問題外だからマイナスも貰えないかもですよ」
雪之丞が戯けながら言うその言葉に、思わず類は食いついていた。
「理由は?」
「大きな夢を見たくないから。みたいですよ」
「へっ なにそれ」
「うーーん 詳しいことは、はぐらかされちゃうんで分からないんですけどね」
「ふーーん
なんか、牧野らしくないよね」
「ですよね。でも、出会った頃からそんな感じだったんで……つくしちゃんらしいと言えば、らしい気もするんですよね」
「出会ったのって高1の時って言ってたっけ?」
「えぇ、バイト先で」
「バイト?」
「あっ、爺様の意向で多喜田の男は、バイトするって言うのがあるんですよ。最初は、意味わかんないし、かったるかったんですけどねー
つくしちゃんと出会って、働くのって楽しいのかなって。
彼女、なんでも一生懸命で楽しそうなんですよね。凄いなって見始めた時には、もう恋してたんでしょうね」
雪之丞がフワリと微笑み言葉を続ける。
「つくしちゃんに会いたくて、時間の許す限りシフト入れてたんで、結構仲良くなって……そのうち色々話すようになったんですよ。話せば話すほど、好きになったんですよね。
大学は、つくしちゃんと同じとこ入りたくて、大学までエスカレーター式の高校から鞍替えしたんで、両親説得するのが大変だったんですけどね。
爺様はもう既に俺のつくしちゃんへの思いを知ってたみたいで、密かにつくしちゃんと接触して気に入ったみたいで……反対する両親を説得してくれたんですよ。
受験勉強は、二人で図書館やら爺様の邸に行ってやってたんで、めちゃくちゃ楽しかったですよ」
「それだけ一緒に居て、恋にはならなかったの?」
「類さん案外キツいこと聞きますよね」
「あっ ごめん」
「いいですけどね。
さっきも言った通りで、つくしちゃんと恋にならなかったのは、俺が美形で金持ちでモテるからです」
「美形で金持ちでモテるが……ねぇ」
「二人でいる目の前で、女友達に付き合ってるのかって聞かれて、そう答えてましたよ。
まぁ、出会った頃から言ってたことなんですけど……
美形なのも金持ちなのもモテるのも、俺のせいじゃないのに……ですよ。
凄いショックで、他の子と遊んだりして、しばらくつくしちゃんを避けてたんですよね。そしたら、どこから湧いてくるんだか……つくしちゃん目当てがワンサカ湧いちゃって。その中の誰一人として、つくしちゃんを任せて安心なんて思える奴がいなくて……また戻っちゃうんですよ。バカみたいに何度も繰り返して……そんな時、爺様が見合い話を持ってきて……で、つくしちゃんに恋人のフリして欲しいって頼んだんですよ」
「なんで、恋人になって欲しいじゃなくて?恋人のフリ?」
「恋になりそうないい感じってあるじゃないですか? そんな時、必ずつくしちゃん、スッと避けるんですよ。何年一緒に居ても、心の奥底には入らせてくれないんですよね」
雪之丞が寂し気にフワリと微笑んだあと
「あっ、俺、来月から一年くらい、オランダ勤務なんで、つくしちゃんの虫避けお願いしますね。
頼れるの類さんくらいなんで……お願いしますね」
類は、雪之丞の真剣な勢いに思わずコクンと頷いていた。
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